012「『黄龍』壊滅と救世の勇者」
冷静に戻った拓海は、改めて今度はちゃんと『手加減』して…………丁寧に鮫島を再びぶん殴っていった。
「ひぃい……や、やめろぉぉぉ~~~~~~~~~っ!!!!」
鮫島は拓海から逃れようと必死に拓海を殴ったり蹴ったりするが、どれだけ殴ってもまるで『ゴムのような柔らかいサンドバッグ』を殴っているかのような感触で全く手ごたえを感じられなかった。
すると、今度は自慢の怪力で拓海の腕を掴み強引に離そうとするが、まるで『ゴツイ万力』のようにまったく微動だにせず、そのおかげでさらに鮫島の中で恐怖が増す。
そして、5分ほど経過すると、
「も、もう……ぎゃ、ぎゃんべん……じでぐだ……ざい……」
「…………」
鮫島に命乞いされたのを受け拓海は手を離す。
そして鮫島はそのまま前に受け身も取らず倒れる。
「ふう…………まあ、とりあえずはこんなもんかな………………今のところは」
「ふぇ……?」
歯がほとんどなくなりボロボロになった鮫島の口から拓海の言葉を聞いて息が漏れる。
「とりあえず他の奴らを始末したら、また回復させてリンチするから」
「しょ、しょんな~~~~~っ?!」
「こんなこと、お前らは…………いや、もっと酷いことを、お前らは普通にやるような連中だろ? だから、これで終わりなんてことはないくらいわかるだろ? 言ったろ? お前らには体験させてやるって……」
「……ううう」
「あと………………おい、周囲の奴らっ!」
「「「「「!!!!!???????」」」」」
周囲の者たちが拓海の声に過敏に反応する。
「お前らも同じだから。でも安心しろ。お前らは一回だけで許してやるから」
「「「「「え…………で、でも、一回は…………殺されるってこと?」」」」」
「もちろん。二度と俺に歯向かわないように、トラウマを焼き付けるつもりでやるから…………覚悟しろ。あと、鮫島……」
ビクゥゥ?!
鮫島が無言で拓海の言葉に反応する。
「この中にいる全員……ざっと300人くらいって言ってたな? そいつらを今からパパッと半殺しにするからそれまで休んでていいよ。あ、逃げてもいいけど、絶対に捕まえるから。もう、わかると思うけど、俺…………『普通の人間じゃない』ことくらいはわかるよね?」
コクコクッ!
鮫島は怯えた顔で頷く。
「だから、とりあえず逃げるのはやめておいてね。とは言っても、アンタはあと3回は…………ボコるから」
「ひぃぃぃぃ!!!!」
反抗はおろか、もはや、周囲の目など関係なく怯えた様子を見せる鮫島だった。
「それじゃあ、始めますか……」
そう言って俺は近くにいた震えている男に向かって進む。
「お前ら……………………覚悟しろ」
俺は再び『圧倒魅了』を発動し、周囲の奴らに『絶望』を感じさせてから一人ずつ、ボコボコに殴っていった。
ちなみに、この『圧倒魅了』の能力とは『相手に恐怖を植え付ける』というものだ。それにより、相手は俺に『絶対に勝てない……逆らってはいけない……敵にしてはいけない……まるで悪魔……』などといった『トラウマ』や『恐怖』を植え付ける。
とは言っても、この魔法効果が働くのは相手との『圧倒的な力の差』がある必要があるが…………まあ、今回はかなりの差があるのでそれだけ効果も抜群だったということである。
なので、本来であれば『圧倒魅了』だけでも事足りたかもしれないが、念には念を入れようと思ったのと、妹がボロボロに傷ついた姿を見てブチ切れたため徹底的に痛めつけることにした。
まあ、要するに…………『私情』ですな。
――一時間後
拓海の周囲には顔や衣服がボロボロになった男たちが、か細い呻き声や悲鳴を上げながら倒れている。その数、ざっと……300。
「ふう…………さすがにこんだけの人数を一人ずつ、しかも『手加減』して殴るなんて神経使いすぎて、かえって『異世界』での戦闘より疲れた……」
そんなことを一人呟く横で、
「も、もう…………勘弁……して……くださ……い……」
一時間ほど体を休め回復したからか、少しまともに喋れるようになった鮫島が、拓海に命乞いをする。
「あんたはさ…………これまでそんな命乞いをされたことがいっぱいあったんじゃないの? その時、ちゃんと許した?」
「……う、ううううう、うう」
「だよね。許してないよね。だからね…………俺もお前を許さない………………と思ったけど!」
「え…………っ?!」
「一度だけ…………一度だけ、その命乞いを受け入れるよ」
「あああああああああ……っ?!??!!」
鮫島は命乞いしていたものの、許されるとは思っていなかったので嬉しさと驚きと安堵と……いろいろな感情がグチャグチャ混ざり合ったような声を上げた。
「ただ…………」
「っ!?」
「もし…………俺にちょっかい出すようなこと、俺以外の俺の知り合いすべてに手を出すようなことがあったら…………死ぬよりもつらい長い長い終わりのない拷問を受けてもらうから。ちなみに、どれくらいのものか参考に見せて…………あげよう!」
そう言うと拓海が9割超の『圧倒魅了』を放出。
その状態で拓海は鮫島の顔に両手で掴み、言葉を紡ぐ。
「いいか? これだ…………この『絶望感』『恐怖感』にさらに『肉体的、精神的苦痛』を与える………………わかった? 理解した?」
「dじゃlfじぁjdlsじゃjdぁsだおぢえpふぃ……」
顔を拓海の両手で掴まれ、9割超の『圧倒魅了』を放たれて脅された鮫島は、もはや言葉ににならない言葉を零し、そのまま口から泡を吹いて………………気絶した。
「ふう……………………まっ! こんなもんかなっ!」
そう言うと拓海は倉庫を後にして飛翔魔法を使って家路へと辿り着いた。
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拓海が去ってから5分後、海岸倉庫に数人の黒づくめのスーツの男たちが姿を現した。
「…………すごいな、この力は」
「ああ。あれは……………………本物だ」
「うむ。奴は、やはり……………………『異世界から戻った能力者』であることは間違いないようだな」
そう言って数人の黒スーツの男たちは再び闇に姿を消す。