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010「殴り込む救世の勇者」



「メグ…………おい、メグっ! 大丈夫か?!」



 拓海は急いで、メグに過剰なほどのS級快癒魔法である『キュアヒーリング』を施す。メグの体が水色と薄緑色の光に包まれる。そして、


「…………お、お兄…………ちゃん……?」

「メグ…………もう大丈夫だ」

「?!…………あ、あれ? 傷が…………治ってる?! な、なんでっ?!」

「良かった。元に戻ったみたいだな」

「も、元に戻ったっていうか…………すっごく体調良いんだけどっ!? お、お兄ちゃんがやった……の?」

「くわしくは後で話すよ。だから今は…………」

「な、なんだ、今のはっ?!」


 叫び声のほうを振り向くとミサヲがヨロヨロと立ち上がっていた。


「み、見たぞっ! ボ、ボクは今、見たぞっ! なんだ、今のは?! まるで魔法みたいだったぞ…………お、お前、何者だっ!?」

「……うるさい」

「えっ?」


 そう言って、俺はミサヲの目の前に一瞬で移動し、ミサヲの髪を掴みながら顔を殴った。


「ぶへぁ?!」


 拓海の強烈なパンチにミサヲの口から数本、歯が抜ける。


「えっ……?! 今の何っ?! お、お兄ちゃんが…………まるで、瞬間移動でもしたように一瞬であそこまで…………移動……した?」


 空手四段でしかも運動神経抜群のメグは動体視力にもかなり自信を持っていたが、今の拓海の動きはまったく見えていなかった。


「おい、お前、何者だ?」

「ひっ?!」


 拓海は前にアーミーナイフの男に使った『圧倒魅了デスピア』よりもさらに強力にしてミサヲに圧をかける。


「お、俺は……『黄龍』の狂人ミサヲだ。お前、お、俺に手を出したってことの意味がわかってんの…………ぶぎゃっ!?」


 拓海はミサヲが言い切る前にさっきとは逆の左にパンチを打ち込む。


「なんだ? 黄龍って?」

「はあ、はあ、はあ…………こ、黄龍ってのは…………はあ、はあ……S県最大の愚連隊……だ。俺はそこの……幹部…………だ」

「き、聞いたことがあるよ、お兄ちゃん! その『黄龍』ってすごくガラの悪い連中でヤクザと変わらないくらいヤバイ奴らがいっぱいいるって……」

「へへ…………そ、そういうことだ。これでお前やそこの妹はもちろん、家族や友人に至るまで徹底的に追い込むから…………グボォ?!」


 拓海は今度はミサヲの鼻を潰した。


「お、おまえ……ごぼっ…………ひ、人の……はな、しを…………聞いて……」

「……頭にきた」

「「え?」」


 ミサヲとメグが俺の言葉に反応する。


「メグ……」

「は、はいっ!」


 メグは思わず『はい』と他人行儀な返事をする。


「お兄ちゃんは今からその『黄龍』を潰しに行くので、お父さんとお母さんには少し遅くなると伝えてくれ。理由は…………静流の家にお見舞いに行ったとでも言っていてくれ」

「えっ?! お、お兄ちゃん…………何、言ってんの?!」

「大丈夫! お兄ちゃんは強くなって帰ってきたから心配しないでいいよ。俺の大事な妹や両親、友人に手を出そうとする奴らには後悔させてやらないといけないからね。これは…………お兄ちゃんの務めです」


 エッヘン!


 メグの『ブラコン語録』のマネをしてみた。


「い、いや、強くなったからって…………一人で、そんなことできるわけ……」

「いや~、それができちゃうんだな~…………これが。とにかく、そういうことだから先に帰って」

「わ、わかった……」


 そう言ってメグは走り去った。


「さ~て……と」

「な、ななな、何だよ……っ?!」

「俺は…………ものすごく怒ってる」


 バキッ!


「あ……ぐっ?!」


 俺は潰れた鼻に再度パンチを入れる。


「スカイシフト……」

「ひっ……?! あ、足が…………浮いて……」


 俺はミサヲという男の髪を掴んだまま飛翔魔法を唱える。


「お前…………連中のアジトまで案内しろ」

「ひ、ひぃぃぃぃ~~~~っ! そ、空…………空、飛んでる~~~~!!!」


 そう言うと俺は全速力でその場を後にした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



――S県A市にある今は使われていない海岸倉庫



「おう……ミサヲからの連絡はまだか?」


 総長の鮫島が手下に声をかける。


「は、はい! まだ、ミサヲさんからは連絡……ありません」

「……遅せ~な~、ミサヲの奴。まさか、また暴走してその朝比奈拓海をメチャクチャにして遊んでんのか?」

「ひゃひゃひゃ、ミサヲのことだからそれはあるかもだぜ、郁実~」

「兵頭……」


 鮫島に声をかけたのは『黄龍』の特攻隊長を務める兵頭という男。鮫島、ミサヲに次いで最強と言われている男である。


「そうそう。それに今日は久しぶりの全体集合の日だからな。大きな手土産を持ってこようと張り切ってんじゃねーの?」

「だな! ミサヲは『イベント』好きだから、いろいろ派手に登場するんじゃねーの?」

「三島……江藤……」


 この三島と江藤は兵頭の次に最強と目されている二人で、兵頭と合わせて『黄龍三鬼神』と言われている。


 今日は『黄龍』の全体集会ということで、この海岸倉庫に構成員である十代の若者が約300人ほど集結していた。


「……ったく、しょうがね~な~。とりあえず、あと10分待つがそれでもミサヲがここに来なかったら出発するぞ!」

「「「おう!」」」


 今日、彼らはここに集まった300人を引き連れて、全員で単車や車で街中を『暴走』する予定であった。ちなみに倉庫の外では待ちきれない何人かが単車でパラリラ楽しんでいる為、排気音が倉庫内にまで響いている。


「おい! 外の奴ら、うるせーからやめさせろっ!」

「は、はいっ!」


 鮫島が眉間に皺を寄せ、凶悪な顔で指示を出す。


「……ったく、ミサヲの奴はまだなのかっ?!」


 だんだん、イラしてきた鮫島だったが、その時……、


「ああっ!? なんだ、てめえ~……やんのか、コラっ!」

「なんだ、てめえはっ!」


 外で騒いでいた奴らが、いきなり喧嘩っぽい口調に変わっていた。


「外の奴ら、何、喧嘩しようとしてんだっ! おい、誰か止めて……」


 鮫島がイライラした口調で近くの奴に指示をしようとしたその時だった。


 ドガァァアァァ~~~~~~~~~~~~~ンッ!!!


 外から倉庫の中へすごい勢いで人が飛ばされてきた。見ると、顔が陥没している。


「な、なんだっ……?!」


 鮫島や周囲の幹部連中も現状何が起こったのか把握できないでいた。すると、


「ぐぎゃっ!?」

「うげっ!?」

「が……っ!?」

「げふぇ!?」


 更に、何十人もの男たちが外から倉庫の中に顔を陥没させた状態で飛んでくる。それで外にいたのは全員だったのか、あれほど騒がしかった外がシーンとしていた。


 ズルズルズルズル……。


 倉庫の中に一人、男が『何か』を引きって入ってくる。


「だ、誰だ、てめえ~~~っ!?」


『黄龍三鬼神』の一人、三島が声を荒げる。


「お、おい……ちょっと待てっ! あ、あれ……見ろ。そいつが引き摺っているのって………………ミサヲ……じゃねーか?」

「「「な、何っ?!」」」


 三島が気づき、鮫島、兵頭、江藤が確認をする。


「ミ……ミサヲ…………だ……」

「お、おい……ウソだろ?」


 鮫島や兵頭、江藤が『黒い汚れた何か』と思っていたのが、顔がメチャクチャに殴られ、その血で汚れてボロボロになっていた『弧嘉渡ミサヲ』だったのに気づいて愕然とする。


「ミサヲが…………あの『狂人ミサヲ』が……こんなボロボロに………………」


 兵頭が目の前の光景に信じられない様子で、啞然としながらボソッと呟く。また、それは兵頭だけでなく周囲の者すべてが目の前の光景が信じられない様子で茫然としていた。


「…………あんたたちが『黄龍』って奴らか?」

「だ、誰だ、お前は…………っ!?」


 鮫島が男に何とか気を張ってドスを利かせた声を張り上げる。


「誰って…………お前らが俺に喧嘩売ってきたんだろ?」

「何……だと?」

「俺は朝比奈拓海って者だ。お前がこの『黄龍』っていうチームのリーダーか?」

「!? あ、朝比奈拓海……だとっ!? ま、まさか…………お前が…………」

「ああ。お前らの仲間だったアーミーナイフの男にちょっかい出された者だ」

「こ、こいつが…………っ?!」


 鮫島はその時、ふと、昨日『アーミーナイフの男』やその仲間が喋っていた言葉を思い出す。


『化け物みたいに強い奴がいる』

『まるで、人間じゃない……』


 鮫島は現状をやっと把握したと同時に冷や汗をかいた。


「お前ら……俺の大事な妹に手を出したな? まあ、このミサヲという男が勝手にやったことだとは思うが、それでも、どうせ、お前ら俺が反抗でもしようものなら親兄弟や友人にまで手を出すような連中なんだろ? だからさ…………」


 拓海は一呼吸つくと、鬼のような形相で八割に近いレベルの『圧倒魅了デスピア』を放ちながら一言呟く。


「お前らを徹底的に叩き潰すっ!」



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