悪役令嬢は悪役になりきれないっ!
エリーゼ・ブライアンが日本人であった頃の記憶を思い出したのは、生死を彷徨うほどの高熱を出した5歳の時。
前世でごくごく普通のOLをしていた私は、轢かれそうになっていた猫を助けて命を堕とした。
前世では一般庶民だったものの、今世ではなんと公爵令嬢!
前世での記憶を生かして、将来楽に生きる為に幼い頃から勉強や自分磨きに勤しんだわ。
前世の平凡な容姿とは違い、今世では美男美女の父母から産まれたお陰で絶賛の美女。おまけに金持ち!
「よっしゃ!人生イージーモードだぜ!」とか思いながら、勉学に励んでいたら7歳の時にお父様から婚約者を紹介されたの。
「はじめまして、エリーゼ。マーカスです」
「は、はじめまして、マーカス様…!エリーゼ・ブライアンです」
私の婚約者という彼はマーカス第二王子。キラキラとした金髪の髪に天使と間違うくらいの可愛らしい顔立ち。
一目見た時に恋に落ちたわ、この子を一生守って行きたいって、だって可愛いんだもんっ!!
エリーゼになって初めての恋…!
でもそれと同時に私は気付いてしまったーーーー
ここは乙女ゲーム『シンデレラ・ファンタジー』の世界だって事を…!!!
『シンデレラ・ファンタジー』とは前世で人気だったケータイアプリの乙女ゲーム!
幼い頃母親を無くし、平民として暮らしていた主人公が15歳になった時に実の父だという男爵に拾われ貴族たちの学園に入る。そこから始まるラブストーリー!
私も前世では推しのスチルや衣装欲しさに廃課金したからよく覚えてる。
そして今!目の前に、推しのマーカス様がいる!!
なんて奇跡!推しに会えるなんて…!推しを生で見れるなんて…!!!
でも一番大事なのはそこじゃない……
一番大事なのは、私がヒロインを虐めるライバルの悪役令嬢だって事!!
信じられる!?良い行いをしたはずなのにこの仕打ち!神は死んだ!!
恋をしたと同時に失恋もしたのよ私は!!
チラリとマーカス様を盗み見るが
マーカス様は終始ニコニコとしている。ゲームでもそうだったけどマーカス様は本物の天使かな?って思うくらい。とてつもない良い子!終始ニコニコしていて、主人公の事を助けてくれる。
そして今も目の前でニコニコと笑うマーカス様、まじ天使…
推しが天使!!
「マーカス様!私が貴方を幸せにしてみせますっ!!」
「あはは、ありがとう。でもそれは僕のセリフだよ」
やっぱり推しが天使すぎる…っ!!!
尊すぎて鼻血が出るかと思ったわ!
でも待って…マーカス様の幸せって…
ヒロインと一緒になる事じゃない…?
こうして7歳にして「きっとこの世界で生まれた理由はマーカス様を幸せにする為だったんだわ!」という結論にたどり着いた私は、マーカス様と友情を育みつつ、学園に行った際は職務を全うし、悪役令嬢をやることにした。
一応このゲームにも断罪イベントっていうのがあって、公爵令嬢であるエリーゼの陰険なイジメが露見したせいで、エリーゼは公爵家を追い出されることになる。その後エリーゼは平民と結婚をし、幸せに生活するらしい。
だから元々庶民の私にとっては今の暮らしの方が贅沢すぎて胃がキリキリするもので、平民の暮らしのほうが性に合っているから、断罪されても困らない。
それに平民と結婚して幸せになれるなら、それはそれでいいかなーって感じ。
という訳で、私はマーカス様とヒロインをくっつける為。
他の攻略候補とヒロインが仲良くなりそうな時は阻止し。予定通りライバルとしてヒロインをイジメ、ヒロインをマーカス様ルートに引きづり込む事にした。
全ては推しのため!!!
と、幼い頃は意気込んだのだが…。
いざ学園に入ってみると
「御機嫌よう、ヒロインさん。今日も素敵なお洋服ですわね。いいセンスをしていらっしゃるわ(そんなダサい服を着てくるなんてセンスを疑うわ)」
「エリーゼさん!ありがとうございます、これ亡くなった母のものなんです」
「そ、そうなの…それは大切にしなくてはいけないわね…」
「うふふ、エリーゼさんは本当にお優しいんですね」
この子、嫌味が通じないどころかこっちがイジメ辛いような話題で返してくるから、どうしたらいいかわからないのよ!?
だいたい虐めるってなに!?やった事ないよ!!そもそも上流階級のイジメって何したらいいの!?
よく小説でワインかけるとか聞いたことあるけど、ワインなんて飲める歳じゃないし。階段から突き落とすとか、そんな打ち所悪かったら死んじゃうかもしれない事できないし…
前世の記憶も15歳にまでなるともうおぼろげでほとんど覚えてないから、エリーゼが実際に何やってたのかなんて覚えてないわよ!!
そんな感じでヒロインを虐めるのがうまくいかない…!
このままじゃマーカス様が幸せになれない…!!
そんなことを考えているとニコニコと可愛らしい笑顔でこちらに向かってくるマーカス様がみえた。
「おはよう、エリーゼ。今日も可愛いね」
「マ、マーカス様の方が100倍可愛いですわぁ〜っ!!!」
その花のような笑顔で私をみないで〜っ!!!
「あはは…将来の夫としては可愛いより、カッコいいって言われたいかな…」
あーーーーーーっ!推しが尊いっ!!!
こんな人前でふにゃっとした笑いを見せないでーーっ!可愛すぎかよぉぉ!!
「うふふ、エリーゼさんとマーカス様は本当に仲がいいですね」
「そ、そうよ…!貴方の入る隙なんてないんだからね!」
「うふふ、エリーゼさん可愛い〜!誰もお二人の邪魔しませんよ」
違うわよ!入れよ!邪魔しなさいよっ!!!
あなたが!マーカス様を!幸せにするのよ!?
くっ、このままじゃ本当にマーカス様ルートに入ってもらえない、これはもう…本当は嫌だけど階段から突き落としたりしないとダメだ…!
「マーカス様、私頑張りますわ…!絶対にマーカス様を幸せにしてみせますからね…!」
ヒロインを階段から落として!!貴方とヒロインを恋に落としてみせます!!!
「ありがとうエリーゼ、僕はこんな素敵な婚約者がいて本当に幸せ者だよ」
……え??
いま、なんていった…?
「マーカス様、幸せ、なの?いまのままで??」
「え…?うん。エリーゼ、君とこうしていられることが僕の幸せだよ」
え?えええぇ???
私、まだ階段から落ちたり落としたりしてないけど、マーカス様は幸せなの!?私といて!?
当初の予定とは違うけれど
推しが幸せなら、まぁ…このままでもいいかぁ〜
「愛してるよ、エリーゼ」
とりあえず今日も推しが尊い!!!!
ずっと書いてみたかった、ありきたりな悪役令嬢ものです。