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8.モンスターより危険なポンコツ

 四人パーティーを結成し、正式にクエストを受理する。


 不死の能力と、道具を生成する能力だけ説明し、破壊能力については、女神の便利パワーということにしてお茶を濁した。


 コンテナに必要な物資を詰め込み、デザートイーグルL5をホルスターでぶら下げて、ポケットにはフォールディングナイフを入れる。森を抜けて室内へ乗り込むので、手に持つのは最低限の武器で十分。


 転生者組合で、地球の生地で作った服を何着も買ってあるので、破れても大丈夫だ。こちらの服は軽いものは触り心地が悪く、逆に触り心地が良いものは重く普段着には向かない。


 いよいよ俺も、女の子に頼られて冒険に出るという感慨深さはあったが、そんなものは一瞬でぶっ飛ぶ。

 なぜなら、彼女達は強烈で苛烈なポンコツだったからだ。


 俺を先頭に、他の三人は扇形に広がって、森の細道を進んでいたときのこと。


「あ、ドリュアスベビー! 触手がなんかエロいんで気をつけるっス!」


「それしか頭にないのかお前は」


 文句をたれつつ、銃を引き抜いて、蕾から触手を生やしたモンスターへ銃口を向けた。


「うぉぉぉ! わたしの華麗なる弓さばきっ! 当たったら痛いっスよぉ」


 レンジャー娘が弓を引くと、光の矢が生成された。彼女の持つ武器は魔法弓で、物理的な矢を必要としない。他の二人が持つ武器も、一応伝説的な性能のものらしい。


(ん? 待てよ。コイツ、俺の真後ろから弓引いてねえか?)


 振り返ろうとしたときには遅く、目をぎゅっとつぶったまま弓を引いた彼女は、その指先から力を抜いた。


「ぎゃぁぁぁぁ!!」


みぞおちを貫く聖なる光の矢。浄化のされつつある俺の肉体は熱さに悶え、くろすけも苦しんでいた。


「ふへへ……せやぁっ!」


 今度は魔女っ子の丸メガネがギラリと光り、杖は太陽のごとく熱線を解き放つ。もちろん、それは俺だけに当たった。魔法を放つ瞬間の彼女は、打って変わって不敵な笑みを浮かべている。


「やめっ、蒸発するッ! 熱すぎて冷たいやつだこれ!」


「わっ! ごめんなさいっ!」


 魔女っ子ははっとして正気に戻り、攻撃を中止。熱線からは開放されたものの、魔力の矢は突き刺さったままだ。


 まだ何もしていないのが一人。嫌な予感が――。


「えぇーい!」


 大きく振りかぶったメイス娘は、やはり強く目を閉じている。そして、鉄の塊を悶え苦しむ俺の脳天に見事命中させる。ゴーレムに殴られたときより、芯に効く感じだ。

 衝撃が俺を抜け、地面を少しくぼませる。一見物理攻撃だが、魔力が作用しているらしい。


「うっ」


「あぁっ! またやっちゃった!」


 今「また」と彼女は言った。もしかしなくても、これが原因でパーティーを組むのを敬遠されているのは明確だ。


俺の悶絶する声に恐れをなしてか、モンスターは逃げていった。


「お、お前ら……攻撃するときはちゃんと相手見ろ……」


「そうは言われても、この弓扱うの怖いんスよぉ。目の前がバリバリーって。あぁ、抜かないと継続ダメージで大変なことになるっス」


 いつの間にかくろすけは俺を抜け出し、傍観者になっている。


「ご主人、早くしないと死にますよ。オレを取り込んで、邪悪なものに染まりつつあるんですから、その矢は危険です」


 フォールディングナイフをポケットに入れておいて正解だった。サムスタッドをポケットの縁に引っ掛け、刃を展開する。必要以上に痛まないように、勢いよく光の矢を叩き切った。

 エネルギー体という不確かな存在は、俺の能力で物理的な領域で処理できるようになる。形状を捻じ曲げられたそれは力が弱まり、手で引っこ抜ける棒へと変化していた。


「いっつつつ!」


 魔力の矢のくせに、かえしと矢羽のようなものまであるのが厄介だ。矢尻の方を真っ二つにして、後から残りを抜いて放り投げた。


「不死身でよかったっス。わたし達、へたっぴすぎて防御力が低い人と組めなくて」


「まず練習しろ。今すぐに。ここで」


 魔女っ子が駆け寄り、俺に回復魔法を掛ける。霧状のそれを吸い込むと痛みが引き、傷口に触れると一瞬で閉じてしまった。


「あぅぅ。ごめんなさい」


「もしかして、戦闘中に性格変わるタイプ?」


「は、はいぃ。攻撃魔法を使うとき、なぜかああいうことに……」


 あまりにも落ち込むので、これ以上怒ることもできない。精一杯優しい声で、慰める。


「まぁそれならしょうがないな。使う前に、退くように言ってくれば勝手に避けるから」


「はい……」


 レンジャー娘が頬袋を膨らませつつ、文句を言ってきた。


「なーんかわたしと扱い違わないっスか? はっ、まさか! もうこの子とはデキてるから優しく接するように――。いつの間にやっちゃったんスか?」


「お前がそういうやつだから扱い変えてんだよ」


 メイス娘は腕組みをしてうんうん首を立てに振り、識者のような口ぶりで言う。


「そうそう。もっと落ち着くべきだよ。ぼくと違ってスタイルいいんだし、大人しくしてれば男の子はほっとかないよ?」


「思いっきりぶん殴っといて、常識人ポジションになろうとするな」


「わぁ、バレた。ごめんよ、ぼくもこの武器を扱うのは怖くて」


 言っちゃ悪いが、彼女達の実力に見合わない武器だ。俺にも分かるほど、強力な力を秘めている。


「その武器売っぱらって、もうちょっと使いやすいの買ったらどうだ?」


 どうもそれが失言だったらしく、それぞれは武器を抱き締めてそれを拒否した。


「これは、これだけはダメっス! 大事な人から預かったものだから……」


 その声には、脳天気なレンジャー娘からは想像できない神妙さが含まれていた。

 それに続いて、二人も言葉を絞り出す。


「これは、私達とお姉ちゃんとの、思い出の品なんです。これをちゃんと扱えるようになったら、また会いに来てくれるかなって……」


「得意な武器じゃないけど、ぼく達の宝物なんだ」


 彼女達の話を聞いてみると、俺と同じような転生者を姉のように慕っていたらしい。しかし、とある夜を境に姿を消してしまったという。

 彼女が武器や生活費と一緒に残した手紙には「また会おうね」とだけ書かれていた。


「売っぱらうなんて言って悪かった。――そういうことなら、さっさと練習始めるぞ。このまんまじゃクエストもこなせないしな」


 どうもこの手の話には弱かったらしい。この身を的にし、俺が短期間で学んだことを伝えていく――が、ポンコツはポンコツ。狙った途端、俺に攻撃が当たらなくなる。これでは、教えようがない。


「おい、全部変な所に飛んでってるぞ。この一帯の環境変わり始めてるぞ。魔法は容赦なく顔面に当たってるけど」


 光の矢はあさっての方に飛んで木をなぎ倒し、メイスの一撃は周囲の地面を抉った。

 魔女っ子は崩れた笑みを浮かべ、火球と氷球と電球を顔面に打ち込んでくる。頬を紅潮させ、なんだか気持ちよさそうだった。


「だから目開けないと狙えないって言ってるだろ」


「やっぱ怖いっス! そんなふうに睨まれてたら余計狙えないぃ!」


「モンスターはどいつもこいつも殺意むき出しだ。それに向けて弓を引けるようにならなきゃ、何も始まらない」


 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。そんなことがあるわけなく、メイスが俺の脛にぶち当たったところで訓練を終えた。というか、激痛で俺がのたうち回って強制終了。


「うん。十年くらい練習すればなんとかなるんじゃないか?」


「手厳しいっスね」


「ぼくはそれでもどんとこいだよ」


 一人だけポンコツの症状が違うので、魔女っ子は少し困った様子だ。


「攻撃自体は当たってたし、理性をどうにかすればいいだけ素質があるぞ」


「ほ、本当ですか?」


「ド素人の俺が言っても説得力ないと思うけど、魔法の質はかなりいい。なんというか、エネルギーのロスがなくて、下級魔法でも結構痛かった」


 小さな彼女に目線を合わせ、俺の自信を少しでも分け与えるように振る舞う。

 それを見たレンジャー娘は俺の背中をつっつき、ニヤついた。


「んー? やっぱ二人ってデキてるんじゃないっスかぁ?」


「うっせぇ、俺はデキるほどモテねえよ! ……なんか言ってて悲しくなってきたじゃねーか!」


 彼女達にとっての俺は、都合のいい協力者。変に下心を持たれるのも嫌だろう。


「勝手に落ち込んでキレないで下さいっスよぉ。世界中を探せば物好きはいるもんスよ」


 メイス娘は頭の後ろで手を組み、爽やかに微笑んで言う。


「その物好きにろくなのはいないけどね」


 ついでに、くろすけも毒を吐いた。


「ご主人、性根が腐ってますし。上っ面の振る舞いは上手でも、内心は料理下手が作った鍋のようですから」


「よかったなくろすけ。お前は、その腐った性根を存分に味わえるんだから」


 今日はナイフの気分。折りたたみのナイフはやや強度に劣るが、俺の能力が生み出したものなら絶対の強度がある。一度は仕舞ったそれを取り出す。


 手首のスナップを利かせて刃を出し、くろすけを制御下において拘束した。


「ご、ご主人!? オレを殺したら、不便になるだけですよ? 考え直しましょうよ!」


 と、見せかけて、油性マジックセットを生成する。


「俺って結構絵心あるんだよねぇ」


 くろすけの影の腹をキャンバスに、幼稚園児の女の子が描くような可愛らしい花を大きく描き込んでいった。


「うぅぅぅ。オレの腹にこんな可愛らしい絵を描くなんて、やはり外道……!」


 くろすけは影の存在。それに、明るさや暖かさの象徴である花を描くことは、最高の苦痛となるのだ。


「幽霊をいじめる人なんて始めて見るっス」


「ぼくもだよ」


 練習は後回しにして、館へと再び足を進める。今度は誤射されないよう、俺が最後尾を歩いた。

 しばらく進むと、魔女っ子が歩く速度を緩め、俺が二人から距離を取るように袖を引っ張って誘導した。


「どうした?」


「あの、私達なんかに付き合ってくれてありがとうございます。えと、あなたは優しくて素敵な人だから、さっきみたいに自分を悪く言わないで下さい」


「え、お、おう」


 そう言うと、二人の方へ逃げるように走っていった。


「お、ご主人照れてますねぇ。女の子に褒めてもらえるなんて人生初ですか? 気を使って言っただけなんですから、惚れちゃダメですよ?」


「知ってる」


 とりあえずストレスを感じたので、デザートイーグルの弾丸をすべて影野郎にぶち込んで発散。一応、くろすけは死なない程度にしておいた。


「何か出たんスかぁ!?」


先を歩くレンジャー娘が振り返って聞いてきたので、それに答える。


「気にするな! 質の悪いモンスターがいたけど、もう始末した!」


 そんなこんなしているうちに、俺達は巨大な洋館の前まで辿り着いた。

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