another 6
ロルフ様とダンスを踊ったあと、私は彼に連れられて父様の元へと戻ることが出来た。
本当はもう少しロルフ様といたかったけれど、私を大切に思ってくれているからこその行動に何もわがままなんて言えなかった。
「あんな美男子がヴィオラを……」と、父様が呟いてるのを聞いて、そういえば父様は彼に会ったことがなかったなと思う。
そして父様と共に居て、ロルフ様を目で追っていると、彼はやはり女性にとても人気がある事がわかった。
彼の上司だと思われる男性達や貴族方に挨拶をしているロルフ様を見つめる令嬢の多い事。
挨拶されている上司の横に立つ令嬢も、皆惚けた顔をして彼を見ていたし、何人かはダンスの申し込みをしていた。
上司の娘に誘われては断れない。ロルフ様はその都度ダンスを受けていた。仕方ないことと分かってはいるけれど、どうしても胸は痛んだ。
ちなみに私はというと、ロルフ様の他に、2人の男性に誘われて踊っただけ。
その二人にも婚約の話をされはしたけれど、曖昧に笑って流してしまった。
私は何せ、ロルフ様が気になって仕方なかったのだ。
「恋ですね」
翌日、一緒に洗濯物を洗っていたメイド……シエナが軽く興奮しながらそう言った。
「恋って………」
「だってそうじゃありませんか!あの方が他の女性と居るのがお嫌なのでしょう!?それは嫉妬です!つまりは恋!」
手を泡あわにしながらこちらに身を乗り出す彼女に、諦めてひとつ頷く。
あらぁ!と頬を染めて喜んでくれる彼女だけど、私の表情は優れない。
分かってる。いつの間にか彼に恋していた事。認めてしまえばなんて事ない、あの人に胸がときめくのも、頬が熱を持って仕方ないのも、素直になれなくて落ち込むのも、全てロルフ様のことが好きだから。
きゃーきゃーとひとしきり騒いだシエナは、けれど、不意にあれ?と首を傾げる。
「なら、どうして婚約の話を受け入れないのですか?」
そうね、疑問に思ってしまうわよね。
恋をする人から婚約の申し込みがあり、その人に身分などの問題はない。
だと言うのに、私はそれを受け入れずにいる。
「…………………不安なのよ…」
彼が私自身を好いてくれている事は分かってる。性格のせいで破棄される事はない。
けれど、それでもどこかに不安があり、頷くのを躊躇ってしまうのだ。
そんな私を見て、シエナは痛ましそうな顔をした。
「…お嬢様……………」
不安の原因は分かってる。
度重なる婚約破棄。婚約を受け入れは、破棄される。それがデフォルトのようになってしまったこと。
彼を信じてみたい気持ちと、あぁまたか、と思いたくない自己防衛。
……私って、こんなに弱い人間だったかしらね。
ロルフ様を好きだと自覚してからも、私は彼との関係を進展に持ち込めずにいた。
夜会から3週間がすぎた。
あれから、王宮の方で問題が発生したらしく、ロルフ様は忙しくなり、私の元を訪ねてこられない状況にあるらしい。
そんな忙しい中でも、きちんと手紙を送ってくれる彼に、また恋が募っていた。
会えなくてもその人を思っているなんて、昔の私には考えられないわね。
不安もあるけれど、やはり彼が好きであるから、手紙が届く度に嬉しいという感情は膨れ上がる。
その日も午前中に手紙が届き、嬉しくなった私は意気揚々と午後、街に買い物に出かけた。
マーロン家は、完全にではないものの、田舎の方にある。つまりは王都の外れ。
一応、王都と呼ばれる場所にあるけれど、中心街まで馬車に乗らなければいけない。
色々な噂を流されていても、私は年頃の乙女。流行などには興味津々なのだ、時々は街に出てそれを学びたい。そうなれば、やはり街は街でも中心街。
向かった先は、そこの中心から少し東に向かった先にあるドレス専門店が並ぶブティック通り。
ショーウィンドウに飾られたドレスやお飾りを見て目を輝かせていると、少し先に人だかりが見えた。
その人だかりがあるのはブティック通りから西へ行った所。そこは、カフェや料理店が並ぶレストラン通り。
こんな所に何が?と気になった私は、人だかりに近寄って、その間を縫って、人だかりの中心を探した。
やっとの事で見えたそこには、大きな馬車。
私は、その美しい馬車にも、それを引く2頭の美馬にも見覚えがあった。
どうしてここにロルフ様が?
綺麗な馬車は、デートの時に迎えに来てくれた物だし、2頭の馬はあの双子の白馬たち。
間違いなく、その馬車はロルフ様のもの。
けれど、どうしてロルフ様はここにいるのだろう?忙しいと言っていたけれど、わざわざ隊長が仕事でこの街に来ることはないだろうし、仕事の合間に食事をしに来たには、騎士団からここは遠すぎる。
なら何故?と、首を傾げてその先へ目を動かす。と、その時、野次馬の中から会話が聞こえた。
「ね、あのトラステッド様とビンヤード様のデートですって」
「まぁ!次期侯爵様と伯爵令嬢様の?」
「素敵ね、お二人共麗しいから、とってもお似合いだわ」
突然、頭を鈍器で殴られたように感じた。
…………え?何を言っているの?
彼女達の会話が頭の中で反芻されている。
ビンヤード伯爵令嬢とは。確か、あの家には令嬢が二人居たはず。
上が18歳で下が9歳。年齢的におそらく長女のオークリー様。
彼女は、波打つ黒髪に青の瞳を持つ、知的な美人だった。
そんな彼女と、ロルフ様がデート?
全く意味がわからない。
確かめないと、と思う気持ちと共に、見たくない、何も聞かなかったことにしてここから立ち去りたいと思う気持ちが同時に襲ってくる。
結果私は、後者を選んで、縫い付けられたようにそこから動かない足を叱咤して、どうにか後ろに下がる。
しかし、振り返った時、野次馬達から黄色い声が上がる。
見なければ良かったのに、その声に反応して振り返れば、運悪く、野次馬の間からそれが見えてしまった。
仲睦まじ気に笑みを浮かべながら、馬車に乗り込む二人。
それは間違いなく、オークリーさまと。
恋い焦がれる、ロルフ様だった。




