種明かし
不思議な力を持った少女について、少女の両親とグルーフィン家の話がまとまったあと、少女が友達になりたいと望んだこともあり、少女はグルーフィン家に期間限定で預けられることになった。
グルーフィン家には男子が4人、女子は生まれることがなかった。
その為、グルーフィンの家系の者たちにより、誰を次期当主とするかの論争が激しくなった。
特に魔力の強いのは長男、次男。次いで、末子。最後に三男だった。
普通に言えば次期当主となるのは長男なのだが、彼は当主と死別した前夫人との子であった為、新しく迎えた妻の親族は強く反対した。
そして、現夫人との子である次男は魔力も高く、容量もよかった。
その為、グルーフィン次期当主は、次男が最も有望とされたのだが、つまりそれは敵に狙われやすいということでもあった。
グルーフィン家と対立している者達も少なからずいたため、そういった者達は、早いうちに芽を摘んでおくべき、と考えたのだ。
よく考えれば、次男が居なくなろうとも長男や三男がいるのだから潰れるはずがないが、そんなことは些細だった。
次男、そして稀有な闇属性であり、現夫人の子である三男も有力とされ、二人はよく人攫いにあった。
このままではいけない、とグルーフィンの一族は彼らの存在を隠すことにした。
度重なる死の恐怖に耐えられなくなり、田舎で半永久的に療養中とし、実際は姿を変えさせた。
養子としてとった女子、として。
行動を起こす以前から養子の話を社交界にそれとなく仕掛ければ、噂は風の如く。
幸いにも、彼らの見た目は女子と大差ないほどの美しさだった為、疑問を感じる者は多くも、誰も口にはしなかった。
異議を唱えた者達が、不可解にもいつの間にか口を閉ざしていたり、はたまた消えたりと言ったことも、その理由に当てはまるのだろうが。
そんな複雑な事情を持つグルーフィン家に預けられた少女と1番仲が良かったのは、養子として扱われていた三男と、その弟である末子。
同じ女の子であるから、と次男三男とは仲が良かったが、三男は特に、幼いながらも人の懐に入るのが上手かった。
まだ幼い末子のことは、少女が実の弟のように扱っていた。
この時から、少女が選ぶのは三男だろうと思われていた。
しかし、少女は段々と元気がなくなり、体調を崩し始めた。
ホームシックだろうと疑われ、流石にまずいと当主が焦り出した時、三男が父に進言した。
『1度家に返してはどうでしょうか。その際、一人では寂しいと思うので、兄様をお連れしては如何でしょう』
何故己でなく兄をと進言したのかについては、後に「家を継ぎたくなかったから」と分かるのだが、とにかく当主はその通りに1度戻すことにした。
人見知りであった、女装のままの次男を連れて。
実家に戻った少女は、みるみるうちに回復した。そして完全に回復する頃には、共に帰ってきた次男を振り回しつつ、仲の良かったヴィオラたちと遊び回った。
内気な次男も、いつの間にか一緒に笑っていたという。
そんな時、事件が起こった。
ミロフィーネ家の近くの森で、魔獣が出たという噂が広がったのだ。
多くの大人達がこぞって退治に向かったが、遭遇することなく帰ってくるばかり。いい成果が得られずにいたため、子供たちは基本的に家の中で過ごしていた。
その事件の時も、少女と次男はミロフィーネ家の庭で本を読んでいた。
そして、その日に限って魔獣が発見された。大人達はあと一歩というところで魔獣を取り逃してしまい、魔獣はあろう事か、森から出てすぐのミロフィーネ家の庭に入り込んでしまった。
戦い方の術を知らず、ちゃんとした魔力も有していない次男はどうにか少女を守ろうとしたが、その鋭い爪に引き裂かれてしまった。
その時の少女の悲鳴に、やっと大人達が駆け込んできたが、少年は重症。
もう助からないと思われたが、少女の必死の看病の末、一夜明けると、驚くことに、傷は薄らと跡が残るだけになっていた。
奇跡のような話であるが、グルーフィン家、そして少女の両親は分かっていた。
これこそが少女の魔力によるものなのだと。
その証拠のように、少女は1週間ほど高熱にうなされた。
そして、少女が回復した時には、あの少年はミロフィーネ家を出ていったあとだった。
事の顛末を全て話し終えたレイ様は、ふうと息をひとつつくと、私の顔を見た。
多分、人に見せられたものじゃないほどに間抜けな顔をしてると思う。自覚はあるけど直せない。それどころじゃない。
「……………その少女が、リィ。そして、次男が俺。…レイ=グルーフィンだよ。女装させられていたころは、エリィと名乗っていたかな」
静かに告げられた声に、瞬きをして返す。衝撃的な事に何も言えずにいたけれど、やっとのことで口を開いた。
「……エリィ…?……」
そっと呟いた声は枯れていたけれど、それでもレイ様は薄く笑ってくれた。
はにかんだように笑っていた小さな少女。確かに、そう言われれば、癖のある金髪も、綺麗な青い瞳も、あまり感情が表に出ないところも、似ているような気がする。
……けど。
「……こんなに性格ねじ曲がってたかしら…?」
「………いうね、リィゼ」
心の中で呟いたはずが、口から出てしまっていた。
まずい、と口を両掌で隠すと、その上からレイ様の口付けが降ってきた。
照れと、怒らないのかという驚きで目を瞬く私の鼻を軽くつまんで、レイ様は笑った。
「まぁ、色々あったから」
「………?」
首をかしげた私に、困ったような笑顔が帰ってきた。
「……リィが倒れたあと、俺はね、自分を責めたんだ。大切な小さい女の子を、守ろうとして、結果的に守れなかった。けど、リィはね、俺に言ったんだよ『治ったら、また遊ぼう』って」
そういった彼は、私から顔を逸らして、目を伏せた。
言った記憶もないし、多分ぽっとでた子供の台詞だのに、何故この人はこんなに幸せそうに語るのか。
何も言わずにじっと彼を見つめていると、ポンポンと頭を叩かれた。
「……次期当主っていうのは、それだけで重いんだよ。多くの人に狙われる。だから、次とかまた、なんて存在しなかった。けど、君はいつも簡単に次をくれたから。自覚したのはその時だけど………いつからだろうね。君から目が離せなくなって」
最後の言葉に、硬直した。
頬が熱くなる。あれ、あれ?今、なんて。
けれど、そう聞く前に、レイ様は次を話しだす。
「君の隣に居るためには、強くならないとと思った。それで、リリックに相談したんだよ。そしたら、『強いといえば騎士団だ!』って言うからさ、魔術師一家だったけど、そんなもの知らないと思って、すぐに騎士団に入った」
待って待って待って。一旦待とうか。
ツッコミどころがありすぎて追い付かない。
いや、うん。リリックは今も昔もリリックだな。
「リリックの言葉を素直に信じるくらいには、素直だったんですね」
「………我ながら早計だったかもね」
彼は、はぁ、とため息を付いて、目の下の傷に触れた。
もう跡になってしまっているけれど、思い出して痛むのかもしれない、と無意識に傷跡に手を伸ばした。
その私の手を掴んで、レイ様は小さく音を立ててそれに口付けた。
ぴしっと固まる私を見て楽しそうに笑った彼は、そっと私の手を包み込むようにして握り直す。
「まぁ、後悔はしてない。なんせ、騎士団に入っていたお陰で、君の両親に認めてもらえたわけだからね」
「私の?」
何のことか分からず、彼と両親の接点を考える。
と、そこで疑問がぽつり。
………そう言えば、お母様たち、レイ様のこと知らなかったような?というか、めちゃくちゃ喜んでたじゃない?結婚について。
「……両親はとっても喜んでませんでした?」
素直に疑問をぶつけた私に、レイ様は目を閉じた。
「……………俺が騎士団に入った途端、君と連絡手段が無くなった。そして、君の両親にこう言われたんだよ『娘が本当に欲しいなら見つけて見せろ』と」
その言葉に、返す言葉が見つからない。
想像が付いてしまった。出来てしまった。そう言いながら悪役のごとく高笑いする父の顔を。
ほっとけばいい感じの大人の男という雰囲気を醸し出す父だけれど、その実無駄にノリが良い時もあった。
「それから数年、君は住居を転々としてただろう。父君の顔は中々広いようで、場所をつきとめて行ってみればもう移ったあとだったりと、君は逃げ回っていた」
うん、私の責任じゃないなこれは。
なるほど、やっと彼が初期に言っていた『やっと見つけた』発言が理解できた。
……あれでも。
「ここ数年は、ずっとこっちに居ましたよ?」
と、突然彼の顔が顰められる。
あまり表情が変わらないと思ってたけど、よく見れば本当に表情豊かだなぁ。
と、感心してる場合ではない。
「君の父君は俺のことも調べていたようだから、社交界では俺だけでなく、グルーフィン一家が出ないところを狙っていたらしい。家に直接出向こうにも、色々と都合が悪くて、君は愚か、使用人にすら会えず終わっていた」
父様。訳の分からないところで無駄な労力をかけないでください。
私は遠い目で、遥か遠くの地に住んで、母とイチャイチャしているであろう男の顔を思い浮かべた。
「そんな頑なだった父君も、俺が隊長に昇格した時、やっと本気だと認めてくださった。それまで何度君を強制的に攫ってしまおうかと考えたことか。………何度か行動に移そうとしたけどね」
と、至極嬉しそうに語ってくれる彼の隣で、知らない内に誘拐計画が成されていた事に軽く恐怖した私です。
この人は本当に末恐ろしい。
「それで、やっと会えたのが3年前のあの時」
他に質問は?と言うようにこちらを見つめる彼の顔は、一見するとやはり無表情のようだけれど、いつもよりとても饒舌なことを考えて、きっと気分がいいのだろうと思った。
ずっと心に溜め込んでいた何かが外れたのかもしれない。
「……なんで、イオは私を狙っていたんですか?」
じゃあ、と前振りをしてから聞いた言葉には、彼はゆっくりと首を振った。
「大体は予想がつくが、詳しくはどうか。本人に問うた方が早いだろう」
そういったレイ様は、音も無く立ち上がって、扉に近づく。
そして、なんの躊躇いもなくドアを開く。
「わっ!!」「ぎゃっ!」
と、悲鳴にも似た声を上げつつ、人が雪崩のように崩れ落ちた。
いたた、とぶったらしい頭をさすりつつ、顔を上げたのは。
リリック、ヴィオラ、ロルフ。そして、倒れ込む3人の横でやれやれと言った体で笑うモニカさんとアレンさん。その横にはイオが仏頂面で立っていた。
「なんで、こんな大勢……」
ヴィオラに手を貸しつつ問いかけた私に、彼女は悪戯っ子のように笑った。
「だって退屈だったし……エリィがホントに全部話すかも気になったし、何より貴女たちの会話って気になっちゃって」
「いつから気付いてた?」
というロルフの声に、レイ様は鼻で笑って返す。
「最初から」
私は全く気付かなかったし、気付いていたのに平然と会話をしていたこの男が、ひたすらに末恐ろしく感じた。




