明かされる過去、真実
「で?」
レイ様が乗ってきた馬に乗せてもらい、走ること数十分。
住み慣れた、我が家とも言うべき邸に帰ってきて早々。
とりあえずみんな順にお風呂に入って、着替え。私含めて怪我をしている人達はモニカさんたちメイドさんから手当を受けた。
そして、一息着くためにとモニカさんが用意してくれたお茶やお菓子がテーブルに並ぶリビングで、私は目の前に正座する二人を見下ろしていた。
未だに憮然とした顔のイオと、その横で困った様に笑っているアレンさん。
「洗いざらい話してもらおうじゃないの」
両手を腰に当てて首を傾げて言い放つ。どうでもいいけど、この台詞いつか言ってみたい言葉だと思ってたから嬉しかったりして。
内心ほくほくと喜ぶ私は、それを顔に出さないように目を眇める。
私にじっと見られてなお、ニコニコと笑顔のアレンさんは、ちらりとイオに顔を向けたけれど、彼はそっぽを向いてしまった。
仕方ない、とため息をついたアレンさんは、私と、その隣に立つレイ様を見比べて口を開いた。
「話すと長くなるんですがね………」
今から十数年前、魔術師たちを騒然とさせた噂話が出回った。
何でも、魔術師の命ともいうべき魔力が限界を超えるかもしれないというのだ。
詳しくは、塔でイオが説明した通りであるが、とにかく、魔術師たちはその噂に一縷の希望を見出した。
何せ、魔術には未だ謎が多く、大きな魔術を生み出せば、それだけ多くの報酬が魔術協会から得られる。しかし、大きな魔術にはそれなりの魔力が必要になる。
限りがある魔力、完成するかもわからない魔術に実験的に用いるよりは、協会が用意した魔物討伐などにやつした方が効率がよかった。
それにより、昨今の魔術は停滞を期していた。
そんな時代に頭を抱える魔術協会にとって、この噂はまごうこと無く希望であった。
調べると、その噂の発端は、ある少女が生まれた事によるらしい。
そこで、協会はその少女を徹底的に調べることにした。
けれど、ここで大きな誤算が生まれた。少女の両親がそれに了承しなかったのだ。
この国の規則として、未成年の場合、両親の同意がなければ調査はできない。
再び頭を悩ませた協会に、ある貴族が提案した。
その貴族とは、グルーフィン公爵家。
表向きは王族と懇意にする貴族であり、そのうちの何人かは騎士団にも属する、国にとって存在の大きな貴族家。
しかし彼らは、協会に属する訳では無いが、その名前は魔術師なら誰でも知っているほどの高位魔術師一家でもあった。
グルーフィン公爵家の提案とは。
『彼の娘をグルーフィン家に招き入れ、一族で調査する』というものだった。
当然、協会としてはそんな勝手が許されるわけがない。しかし、一族は協会魔術師ではなく、加えて王族と深く関わりある強大な力を持つ。
協会は唇をかんで頷くしかなかった。
しかし、グルーフィンが調査を終える前に他の魔術師たちがなにかやらかさないとも限らない。
そこで、協会は『少女に手出し無用』と発表することにした、というわけである。
………もうこの時点で私は知らない事ばかりがどんどん出てきており、ストップをかけたいんだけども。
なんでそんなデカい一族に嫁いできちゃったの私。
もうなんだか、それからの話は察せられるのだけれど、一応のために、私は先を促した。
当のグルーフィン一家には、壮年の男性が当主としてついていた。
協会からGOサインがでた当主は、早速その少女と家族を本家に招き入れた。
ここでまた誤算が生まれる。
グルーフィンの当主も、さすがに自分より立場が上にある家の申し出なら断らないだろうと思っていたのだが、ここでも少女の両親は首を横に振った。
協会に堂々宣言してしまったグルーフィンは、簡単には引けない。そこで、ある提案をすることにした。
『少女が成長したとき、息子たちと結婚させられないか』と。
当時の当主には、息子が四人いた。
当時12歳になる長男、8歳の次男、4歳の三男に、まだ1歳に満たない赤ん坊。
少女は当時5歳だったため、次男か三男が適正だと見なされた。
あくまで少女の意思による、とされて、頑なだった少女の両親も頷くしかなかった。
そこまで聞いて、私は一旦止めた。
ついに止めてしまった。
………………どうしよう、身に覚えがありすぎる。
まさか夢で見たあの光景がその時のではないだろうな。
しかし、あの夢では女の子がいたはず。………違うと思いたい。
己の心臓への負担を減らすために深呼吸して、私は再び先を促した。
「それからあとは、そこの男に聞いてください」
まさかの、そういってアレンさんは私の横、いつの間にかソファに腰掛けて、足を組んでいたレイ様を示した。
え。と彼の顔を見ると、いつもの無表情で見返された。
視線が合うこと数秒、私はゆっくりと顔を背けた。
「………その少女は数日、グルーフィン家で預かることになった」
顔を背けられたことをどう思ったのか、そんな静かな声が聞こえた。
背けた先にいたアレンさんが、ニコニコと微笑んでいるのに気がついて、軽く睨んでからレイ様に身体を向けた。
「………………」
私が聞く体勢を取った事を確認したレイ様は、ぽんぽん、と自分の横を軽く叩いて、座れと示した。
何も言わずにそこに腰を下ろすと、レイ様はのんびりとお茶を啜って、未だに正座の二人に顔を向けた。
それを受けて、二人は背筋を伸ばした。
「……………………」
「レイ様?」
何も言わない3人の中に流れる空気に、不穏なものを感じて、横の彼の腕を掴んだ。
顔を私に戻したレイ様は、何故か私の頭を撫でて一言。
「…………やっぱり殺そうか」
「何故ですか」
今の空気に何があった。いったい何が貴方を触発した。
ぎゃん、と首を振る私を見て、レイ様はため息。
「じゃあ腕でも切り取ろうか。リィにあげるよ」
「要らないです」
じゃあじゃない。そんなスプラッタもういりません。
「腕のないネクロマンサーですか。中々不気味ですね」
飄々としてアレンさんがそんなことを言うものだから、ほらレイ様がサーベルに手を伸ばしちゃったよ。もう黙ってくれないかな。
恨みがましく師匠を睨み、レイ様のサーベルをやんわりと奪って、入り口に控えるモニカさんへパス。
武器が無くなったレイ様は、残念そうにソファに座り直した。
「ほら、早く話を終えましょう?じゃないと、待たせてるリリックたちが乗り込んできますよ」
「………面倒になるのはごめんだな」
ぽつりとそう呟いてから、レイ様は私の手を両手で包み込んだ。
「……今から話すのは、先ほどアレンが話した事のあとに起こった事だ。……しっかりと聞いていて欲しい。その後で、リィの不安なことや疑問な点を全て話そう」
澄んだ青い瞳に、何だか間抜けな私の顔が写っている。
時々瞬きで見えなくなる綺麗な青い瞳。まぶたが開く一瞬だけ、暗い感情が見える気がする。
………不安なのは、どっち?
私は、空いていた方の手を、私の手を握る彼の手に重ねて微笑んだ。
「はい。大丈夫です。ここまできて、私は逃げませんから」
そう言い切るかどうかのときに、そっと引き寄せられて、顔がレイ様の肩に埋まった。
何も言わないながら、彼の手は私の髪を優しく梳いてくれて。
きっと、自分が不安そうな顔をしていることなんて気が付いていないんだろうな、と微笑ましくなった。




