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脱出

 目を覚ました時、目に飛び込んできたのは、見慣れた美しいかんばせ。寝起きということもあって、たぶん見せられたものでない顔をしていたんだろうけど、彼はすっと真剣な顔をした。

 ここから出してくれるって、本当に?というか、どうしてアレンさんがここにいるの?

 寝起きでまとまらない、しっかりと動いてくれない脳を無理矢理に動かして考える。

 彼は、レイ様の邸から連れ出してくれた時もそうだった。突然に現れて手を差し伸べてくれた。彼は忍び込むのが得意なのだろうか。

 そう考えていると、彼はゆっくりと床に膝をつくと、そのまま深く頭を下げた。


「申し訳ございません」

「へ?」


 私は今一体何に対して謝られてるのだろう。全くと言っていいほど身に覚えがない。むしろ、連れ出してくれたのにまた捕まっちゃってごめんなさい状態なんだけど。

 ぱちぱちと瞬きをしている私にどう思ったのか、彼は顔をあげずに語り出す。


「ここに貴女を攫ったのは私なのです」


 ………アレ?

 聞き間違いだろうか。彼が攫ったと聞こえたんだけど。

 いや、攫っておいて逃がすわけないじゃない。何のためにそんな危ない橋を渡る理由が?ただのスリル狂かよ。うわ、幻聴まで聞こえだした、私やばいかも…。


「先ほど貴女に男性が会いに来たでしょう。名をイオといい、彼が首謀者ではありますが、私は彼に言われて貴女を攫ったのです」


 おっとぉ!?また聞こえてしまった!ということは幻聴ではないのか。いや、まてよ、だって…。


「幻聴ではありません。認めてください」


 嘘でしょ……。

 彼に私の思考回路が筒抜けなのも怖いけど、幻聴じゃないのか。それはもっと怖い。もしかしたらこれすら幻聴ということも…。


「くどいですよ」


 はい、事実だこれは。認めざるを得ないやつだ。

 信じられないという顔でアレンさんをみる。

 ショックが大きすぎる。

 彼だけは味方でいてくれると思っていた。けれど、それは間違いだという。そして今になってそれを謝罪しているのだからもう何を信じたらいいのか。

 もうわけわからない。待って本当に、情報を脳に詰めすぎて今日だけで10歳くらい年取った気がする。


「貴女は光属性だと、イオに聞きましたね?」


 何となく頭が重くなったように感じて、支えるように左右から抑えつつ頷く。


「その光属性と対極にあるのが、闇属性。……ネクロマンサーという魔術師を聞いたことはありませんか?」


 ねくろまんさー。ねくろまんさい………ネコロ満載……猫満載…?なんか可愛い気がする。


「落ち着きましょうか」


 あ、やっぱりわかってしまったか。自分でもほくほくとした気分になったのは認める。いや、話そらして申し訳ないとは思ってるから、その可哀想な子を見るような、仕方ない妹を見るような目はやめて…!!地味に刺さるから…!!

 だってそれくらいしないと頭爆発しそうなんだってば!


「ネクロマンサーとは、死者をこの世に戻すべく、屍に命を吹き込む術者のことです。ネクロマンサーが使う能力のことをネクロマンシーと言いますが、これによって蘇った死者たちは、その術者の意のままに動かされるのです」


 なんだか2年間共にいた頃、魔術について教えてもらった時と似た状況で、こんなときながら懐かしいなぁと思ってしまった。

 内容については死者とか屍とかめちゃくちゃ怖いけどね。私ホラー苦手なんだけど、そんなゾンビみたいなの見たら失神すると思う。

 実際連れてこられた時に死体が動き出して心中パニックだった。そういえばアレはどうなったんだろう。いや知りたくない。


「ネクロマンシーについては、貴女も見ましたね。えぇ、その攫った時です。そして、その術者は私なのですよ」


 はいまた情報が増えた。

 なんで今日降ってくる情報ってどれもこれも容量が大きいのだろう。噛み砕くのに時間がかかる。


「…………ネクロマンサー?」

「はい」


 ファイナルアンサー?みたいに聞いてみたけれど、彼はしれっと頷いてくれた。

 これはもう、噛み砕く前に飲み込んだ方が早いのでは。噛みすぎて顎が痛くなっている。比喩だけれど。


「けど、2年間そんなの全く…」

「そりゃあ年がら年中屍を侍らせているなんて、術者の方でも気味が悪いですから。屍のいれたお茶なんて飲みたくありませんよ」


 からからと笑うその笑い方は、言ってることとマッチしてないけれど、私の知ってるアレンさんだなぁとなんだか安心した。


「とにかく、そのネクロマンシーを駆使して貴女を攫い、ついでにレイたちを拘束したのですが」

「レイ様!大丈夫ですよね?無事ですよね?!」


 勢い込んで聞く私に、アレンさんは何故か微笑ましいものを見る目で見て、頭を撫でた。


「大丈夫ですよ。結構序盤で拘束術が解かれてますので」


 彼の言葉と表情、頭を撫でる手の温もりで安心して、ほっと息をついた。

 よかった。レイ様に何かあったらどうしようかと。

 攫われた身に心配されるのもどうかと思うが、それでも心配してしまう程には、彼が大切らしい。けれど、やっぱり何故なのかはわからないまま。


「……なんで、好きなんだろ」


 ほぼ無意識に言葉が零れていたことに気がついたのは、それに対する答えが返ってきた時だった。


「ずっと昔に好きだったから、じゃないですかね」

「え?」


 答えが返ってきたことにも驚きで赤面したけれど、彼の言葉を理解した時、その熱はすっと引いた。

 ずっと昔に好きだった?

 首を傾げて問いかけても、アレンさんはにこりと笑うだけ。

 またまた疑問だらけだ。

 戸惑いつつもむくれる私の頭をぽんぽんと撫でてから、彼は立ち上がった。


「この際、貴女が私を許してくれなくても構いません。行きますよ、早くしなければイオが来てしまう」

「あの、その前に一つだけ聞きたいんですけど」

「ここから出たら聞きましょう。今は何も言わずついてきてください」


 促されて、しぶしぶながらもベッドから降りて、アレンさんについて歩く。

  廊下を進む間、彼はなるべく足音を立てないように歩き、何かに神経を注いでいるようだった。

 何度か廊下を進み、扉をノックしてを繰り返した私たちは、やがて多くの階段が入り乱れる空間へとたどり着いた。

 迷いなく進んでいくアレンさんに若干不安要素を抱えていた私は、両手をついてすみませんでしたと謝りたい衝動に駆られた。

 もちろんそんなことをしている時間はないので、アレンさんはスタスタと階段を下がってく。そしてこれまた複雑なルートで登ったり下ったりを繰り返していた時、扉が開く音が聞こえた。


「!こちらへ」


 いち早くそれに気がついたアレンさんに促され、近くの等身大の鏡の前に立つ。どうするのかとハラハラしていると、彼は鏡の右側をぐっと押した。すると鏡は抵抗することもなくくるりと反転。人ひとり通れるくらいの隙間が出来た。

 そこに私が入り、アレンさんが身を滑り込ませると鏡を戻す。外からは鏡だと思っていたのに、中からはガラスになっていて、外が見える。これも魔法か。

 かつかつと靴音が響くのを、じっと息を潜めてやり過ごす。心臓の音がうるさい。隣のアレンさんどころか、鏡隔てた先に聞こえはしないかとハラハラとする。あちらからは見えないとわかっていても、靴音が近づくにつれて冷や汗が背中を伝う。

 ごくりと生唾を飲み込んだ時、私は目を見開いた。

 目の前を通り過ぎたその人には、見覚えがあった。

 整えられた黒髪、切れ長の目を隠すようにかけられた眼鏡。真っ直ぐ背筋の伸びたその姿は、忘れようもないあの人。

 私のせいで失職させてしまった、ロムさんだった。


 嘘、どうして、彼がここに。

 手が震えるのをどうにか抑えて、息を殺す。すると、隣のアレンさんが動いた。

 鏡を押して外に出る。慌てて彼のローブを掴むと、やんわりとさり気なく解かれた。

 こちらをみて大丈夫、と声に出さず告げると、彼は鏡を戻した。ここにいろということらしい。

 そして彼はロムさんを呼び止め、鏡の前で2人は会話を始めた。

 意外にも会話は微かしか聞こえてこなく、なんの話をしているのかは全くわからない。

 耳を当てて聞きたいけれど、それをして鏡が回ってしまうかもと考えるとそうもいかない。

 じっと動かずにやり過ごしていると、やがてロムさんは階段を下がっていった。

 しばらくそこに突っ立っていたアレンさんは、トンと鏡をノックした。どうやら出てこいということらしい。

 そっと鏡を開けると、彼はふっと微笑んだ。


「研究に集中するからと言って、彼に人払いをお願いしました。今のうちに出ましょう」


 さすが、と息を吐き出した私を見て、彼は満足そうな顔をして歩き出す。それに続いて私も階段を下がる。

 その背中が、やっぱり師匠なんだなぁと、大きく見えた。

 けれど、やはりさっきのロムさんが気になってしまった。


「彼は…」

「元々レイの邸で仕えてましたが、暇を出されたそうで………今はイオの元に」


 そう聞いて、やっぱり彼はレイ様を恨んでいるのかもと陰鬱になった。

 そんな私を察してか、それとも知らずか。

 アレンさんは振り返ることなく笑った。


「けれど、彼は信用して大丈夫ですよ。害にはなりません」


 断言する彼に疑問を隠せないけれど、先を歩く背中が聞くなと告げているようで、私は口に出すことなく、胸の内に秘めた。

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