表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/60

計画

 みなさん、突然ですが、私は限界です。

 このままここにいたら感情というものが枯れる気がする。

 暇つぶしにやっていた魔法陣も、もう教えてもらったものはほぼやり尽くした。石灰色の紙が3枚埋まるほどに。

 なので私は、2度目の脱走を計画中です。しかしこの部屋からは出れない。ならばこの部屋から直接外に出てやろうではないか。

 この部屋は3階。しかもこの邸は一部屋一部屋が天井が高いため、ゆうに地上からの距離7、8mはある。そんな場所からどうやって逃げるのか。それは意外とシンプルなものである。

 私は部屋のウォークインクローゼットに入ると、その奥にあるシーツを5枚ほど引っ張り出す。その内の2枚の角同士をまず固く結ぶ。その対角線上の角をもう1枚と結ぶ、を繰り返す。

 1枚の対角線の長さは2m弱。5枚結べば約10m。

 部屋の高さは多く見積もって8mだが、シーツの角を部屋のベッドの足に結び付けるため、余分に1枚。

 ちゃちゃっと終わらせると、それをグルグルとまとめてクローゼットの奥にしまい込む。

 あの人が長期で出かけた時には、使用人も何人かいなくなるので、その時を狙って逃げ出す算段だ。

 などと考えていると、開けっ放しの窓から馬車の音が聞こえた。

 クローゼットのドアを閉め、窓際まで走っていくと、豪華な馬車。

 どうやらご帰宅のようだが、時計を見るにまだ定刻より2時間ほど早い。

 小さな疑問を感じ首をひねっていると、馬車から見慣れた金色が降りてきて、こちらを見上げた。

 そして、彼は何故か目を細めた。

 口元は緩く弧を描き、その表情ときたら、まるで愛しい者を見るような、深く愛情溢れたものだった。

 不覚にも、じわりと頬が熱を持ち、慌てて視線から逃れるようにしゃがみこむ。

 ……なにあの顔。今までそんな顔1度だってしなかったじゃない。

 二年前の夜会であった時なども、あそこまでの甘さはなかった。

 ずるずると足を伸ばし、そのまま壁を背に床に座り込むと、バタバタと慌ただしく走る音が聞こえ、モニカさんが息も荒く入ってきた。

 そして私を視界に捉えると、大声でこう言った。


「お出かけですのよ!早く支度をなさいませ!」







 あれよあれよという間に、私は気がついたら美しいドレスを身にまとい、馬車に乗っていた。

 若草色のドレスは、胸元を紅とクリーム色のレースが彩り、そのレースの下は金糸で細かな刺繍が施されている。腰元をぐるりと小さな宝石が縁取り、裾に行くにつれて若草色から深緑色へと色を変えているが、その深緑色はよく見ると刺繍によるもので、なんと手の込んだ、と冷や汗が流れた。

 そして胸元には、隣のレイ様の瞳とお揃いのサファイア。それも5センチはあろう大きさの。

 着せられてる感がすごい気がする……。

 緩く編み込んだ髪を揺らしながら、胸を占めるのは疑問の波。

 何故外に出さない主義のこの男が急に外に連れ出すなど。何か前触れがあっても良くないか。

 ドレスを見るに、前から決まっていたことで、それを狙うように仕立てたような気がする。

 うーむ、とこの頃考えすぎて痛む頭をグルグル巡らせていると、隣から視線を感じた。

 ちらりと隣を見ると、先ほどと同じ視線。

 なぜ急にそんな目をするようになったんですか貴方は……!

 パッと顔を逸らせば、横から伸びてきた手に顎を捕えられ、強制的に顔を合わされる。

 ち、近い……!!というか、いつもと違う…!

 視線が気になってよく見ていなかったが、今日のレイ様は違う装いをしていた。

 いつもの白い隊服でなく、紺色の地に金糸刺繍の見たことのない隊服を身にまとい、輝く金の前髪は左側に流されていた。

 私は意思と反して熱くなる頬を誤魔化すように口を開いた。


「ど、どちらに行かれるのですか…?」

「皇太子に婚約者を紹介しろと言われた」


 皇太子、という単語に、ひぇっと喉の奥で悲鳴が上がる。

 皇太子とは、すなわち次国王ではないのか。

 私は一生関わりなく終わると思っていたが。

 青くなる私を見て、心配そうに眉を寄せた彼は、私の頬をゆるゆると撫でた。


「君を男に見せるのは至極嫌だが、皇太子の命には逆らえないからな」


 わかりますけどね、わかるんですけど。

 久々のお出かけ先が皇太子の前って、些かハードル高くないですか…!?

 私は揺れる馬車の中で、出来れば予告しておいて欲しかったと声にならない悲鳴をあげた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ