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逆戻り

 食堂も二年前とほぼ変わらず、提供される食事も変わらない美味しさのもので、懐かしいなぁとおもうと同時にやっぱり、あぁ、戻ってきてしまった…という。

 ついでに、二年前にはなかったガフィクさんの暴れる音?が始終聞こえ続けていた。

 その度にモニカさんがため息をつくものだから、なんだか私はどっちに同情したらよいものか……。


「大変ですね、モニカさん」

「えぇ全く。ロムがいた頃が懐かしゅうございますわ」


 はぁ、とモニカさんがため息つくと、色気が溢れ出てくるものだから、私にはないもので悲しくなってくるのは仕方ないかな。

 けれど、モニカさんはため息をつきつつもなんだか心から嫌とか面倒だとは思って無さそうに見える。例えるなら、手のかかる子供を見ている親って感じ。

 そう本人に聞いてみると、一瞬キョトン、としたものの、彼女は少しだけ微笑んで。


「あぁ、だって、なんだか可愛いと思いません?」


 と、クスクスと笑って言った。

 可愛い、あれが。……………………えっと、ん?


「一生懸命やっているのにから回っている所とか、見ていて可愛らしくて。つい苛めたくなってしまうんですの」


 あぁ、そっかあれだ。

 モニカさん、そっちの人だ。

 それ以上は何も突っ込むまいとして、若干味が薄れた気がするスープを飲み干し、食事を終えると部屋に戻る。

 この短時間でどれだけ戻っているかな、と少々不安を抱いていたのだけれど、まぁ……不安というものは大体がっつり現実となってしまうもので。

 部屋に足を踏み入れた瞬間、何かを踏んだ。

 いやーな感触に下を見下ろすと、何故か割れたお皿が重なっていた。これは私靴履いてたからいいけど裸足だったら笑えない。ぱっくりいってたやつだよ。

 そう思って、サーっと血の気が引いていくのを感じた私の隣で、またもやモニカさんのため息。

 その視線の先には割れたお皿を震える手で給仕用のトレーに戻しているガフィクさん。

 これはもう、かける言葉が見つからない。

 なぜこうも綺麗にお皿が四等分されているのかな。ついでにトレー近くに割れているお皿は、ステンドグラスを思い出させるレベルでカラフル。

 私が綺麗だなぁ、と現実逃避している間にも、彼の手から1枚2枚とお皿が滑り落ちる。

 5枚目が大きな音を立てた時、私の半歩後ろに控えていたモニカさんが、こめかみを押さえつつ前に出た。


「ガフィク。もうよいです。片付け方はそのうち教えますので、貴方はリネンの繕いものをしていてください」


 あぁ、ついにモニカさんの声にも覇気がなくなった。

 ガフィクさんは顔を僅かに歪めてから立ち上がり、私にお辞儀をしてから部屋を去っていった。

 私は、この人近いうちにクビになるのでは、と去りゆく後ろ姿に意味もなく手を合わせた。






 それからは、二年前と変わらない午後を過ごした。二年前に読んでいた本を何冊か引っ張り出して目を通したり、外を眺めてぼーっとしたり。

 二年前も苦痛だったけれど、今は比じゃない。

 あの忙しかった宿の仕事をしている間は、時間なんて気にしてる暇がなかったのに。

 今は1分ですらとっても長い。

 何か趣味を見つけておくんだったなぁ、と、今更後悔しても後の祭り。

 ここで趣味なんてみつかりっこないかな?

 私は二年ぶりと思われるくらいのながーいため息をついたのだった。

 そして、やってくる忌まわしき時間。

 そう、この家の主が帰ってきたのだ。

 二年前は出迎えに行っていたものの、私は少なくない反抗心から、部屋にこもっていた。

 彼は朝と同じく白い隊服に身を包んだ姿で現れた。

 私が出迎えしなかったことに対して、なんらダメージのなさ気な様子に、小さく舌打ちしてしまった。

 彼は、窓際に座って顔を外に向けていた私の隣までやってくると、片足を折って私に跪いた。

 そして、柔らかく微笑んだ。


「リィ。また会えて嬉しいよ」


 よくもまぁそんな言葉が出てくるものだ。人を拉致って置いて。

 反応を示さずにいた私に、何を思ったのか。彼はそっと私の頬に手を当てて、強制的に自身と視線を合わさせる。

 その時初めて気がついた。

 私の頬に当てる手が、二年前とは違って、マメが出来て少しだけボコボコしていること。

 そして、彼のサファイア色の目の下、右頬あたりに、パックリと大きな傷跡があること。

 二年前にはなかったその痛々しい傷跡に、無意識に手を伸ばしてしまう。

 そっと傷跡を撫でると、彼が目を細めた。まさか痛いのか、と思って(というか私何してんだと思って)手を引き戻すと、パッとその手を掴まれた。

 そして彼は、私の頬に当てていた手を外して、両手で私の手を握り直した。

 その手が、やっぱり二年前と比べてボロボロなのを見て、隊長から副団長まで上り詰めるのはなかなか容易なことでなかったのは想像がついた。

 そして、彼が死にものぐるいでそれらを達成してきたのだろうことも。


 しかし。

 それと拉致とは別の話なのだ。

 どれだけ私を見つけるために努力してようが、顔に傷をつくろうが、私としては自由を奪われた過程にしか過ぎないのだ。

 …………ちょっとだけ揺らいだけれども。

 …というわけで、私は彼が帰ってきたら絶対にしようと心に決めていたことを実行に移す。

 皆さんも少なからずお気づきかと思うが。

 私は彼に握られていない方の手を振り上げ、そのままの勢いで彼の頬を打った。

 パシィン!と子気味良い音が鳴って、少しだけ胸がスカッとする。けれども。

 彼は一瞬、叩かれた方へ顔が逸れたものの、直ぐに私に真っ直ぐ顔を向けた。

 ……流石は騎士様と言うべきか。小娘1人のビンタくらい、どうということはないのか。

 無意識に眉間にシワを寄せた私を見て彼は少しだけ悲しそうな顔をした。


「すまない。二年もの間、君を危険に晒してしまった。俺に腹を立てるのは仕方ない」


 あ、始まったよ、始まりましたよ。自分に都合のいいように取る貴方の思考回路。

 何ででしょう。どこら辺が危険だと。日常生活をおくっていて、危険など遭遇したことないわ。二年もの間めちゃくちゃ平穏でしたよ。

 私が貴方に腹を立ててるとしたら、その平穏をぶち壊した事ですね。

 そう言いたい、が、言うだけ無駄だろうということは朝のやり取りでわかっている。

 人間諦めを覚えてしまうとこうなるのだ。


「でも安心していい。これからは、絶対に俺が君を守り通すから」


 好きな相手に言われたら真っ赤になるであろう台詞も、この男に言われると鳥肌が立つ。

 この男の守り通す=軟禁だからだ。

 二年前、何故私がここから居なくなったのか、全く理解しようとしていない。

 私は、ふつふつと燃え上がる怒りに任せて、もう1度彼の白い頬を叩いた。

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