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変わったこと

 再び目を覚ました時、私はあぁ、まだ夢を見ているんだな、と思った。

 だって部屋の入り口近くにいる男の人が正座でモニカさんに怒鳴られてるんだもん。

 2人の周りは、何があったのか料理やら毛布やらが散乱していた。

 モニカさんは私を起こさないようになのか、一応声を抑えてはいるけれど、ひそひそと聞こえてくるその声が、僅かに怒りから震えているのを感じる。

 ゆっくりと上体を起こすけれど、2人は気がつかずに説教モード続行。

 正座で座っている男性に目を向ける。ツンツンした黒い髪、シュッとした顔つき。そして一番目を引いたのは、めちゃくちゃ悪い目つき。

 あ、あれだ。マから始まってアで終わる自由業の方だ。やばい人や。

 そしてそんな人がピシッとめちゃくちゃ綺麗な正座で頭をたれている様たるや。逆に怖いったら。

 そしてその人を叱りつけるモニカさんもそういう人なのかなと思えてしまう。

 私のうわぁ、という独り言が聞こえたのか、2人はクルッと私を振り返った。

 瞬間、モニカさんはにこやかな笑顔に戻り、


「あら、お目覚めでしたのね。申し訳ありません、この愚か者を叱っていたのですわ」


 と、ほほほと楽しげに笑った。

 …………こわい、かな。その笑顔が。

 すると、モニカさんはすっと表情を消して、正座の男性を膝で蹴った。

 それが合図のように、男性は立ち上がると、ツカツカと私の方へ歩み寄ってきた。

 その勢いたるやもうね、これから首根っこひっつかまれんじゃないかという勢いで。

 ひっ、と息を呑むと、私の前まできた男性は私を見下ろす。

 眉にシワを寄せ、めちゃくちゃ怒ってる?という顔で私を見下ろすその人は、次の瞬間、ゴン!という音を立てて視界から消えた。

 と、思ったら、ベッドの横で素晴らしく華麗に美しい土下座をかましていた。


「真に申し訳ねぇ!」


 という大声とともに。

 何があったのか全く理解出来ていない私は、サボタージュし始めた脳をどうにか動かして考える。

 え、え?なんで私の目の前でマフィアの方が土下座してるの?

 なんですかその変な訛り。

 っていうかめちゃくちゃ頭打ってたよね?すっごい音したけど。


「……えっと、あのだ…」

「なんですかその謝り方は!!いい加減敬語を覚えろと何度言えばわかるのです!?」


 大丈夫?と聞こうとした私の声を消したのはモニカさんの怒号だった。

 モニカさんは怒号もろとも蹴りを男性にぶつけた。

 え。……………え?

 モニカさん、どうしたの……あれ?モニカさんだよね?


「この方は本来お前なぞが口を聞いて良いお人ではないのですよ!」


 いやいや待て待て待て。落ち着こうよ、うん。

 私そんなたいそーな身分の人じゃないです。やんごとない人じゃないです。

 と、言うべきかどうか迷っている間にも、マフィアさんはモニカさんに叱られている。

 その形相に、幼い頃母のお気に入りのティーセットを割ってしまった時の母の顔を思い出した。


「ふぅ、申し訳ありませんこんな醜態を。本当ならば貴方に見せるなど恥さらしもいいところですが、どうにも我慢ならなくて……」


 わぁ。拳が。握った拳がふるふると。

 私はどうにかモニカさんを落ち着けようと、口を開く。


「あの、モニカさん。この男性は…?」

「あぁ、そうでしたね。これはガフィク。ロムの代わりに入った新米です」


 ロムさんの姿が見えないのはそういうことか。

 しかし、その理由にめちゃくちゃ心当たりがある。おもしろいほどに。


「二年前、貴女様が消えた時、レイ様はたいそうお怒りになって。その時に命令を破り目を離した彼のせいだと、それに関わった人々もろとも…」


 笑顔でそういうと、モニカさんは指を揃えた手を、自身の首元に持って行って、横一文字に引いた。その仕草に私は顔が青くなる。

 果たしてそれは職についてか、はたまた魂的にか。

 聞けない……!ごめんなさいロムさん…!

 もう謝ってもどうしようもないけど…!!

 私の青い顔に気がついてか否か、モニカさんはそっと視線を下に向けた。

 その先には土下座で固まる彼。


「ガフィク。彼はグルーフィン家の生家から来たのですが…」


 そこで言葉を切ったモニカさんの目は、遠くを見つめて憂いていた。


「荷物を持たせれば潰すし、食事を運ばせれば強くテーブルに置くせいで食器にヒビが入るし、洗濯を任せたら破くし、掃除をさせればほうきの柄が折れる。食器を洗わせたときなんてもう……」


 ぶつぶつと遠い目をして呟く彼女はどうやら相当に苦労しているようだ。

 しかしまぁ、そんなにか、とガフィクさんに視線を向けると、彼は未だ華麗に土下座を披露していた。


「面目ねぇ……」


 ぼそりと呟いた言葉には覇気はない。しかしそれにしたって声がでかい。


「そのくせ刺繍は上手いし料理は美味しいしなんというか女子力で負けていると言いますか?なぜ私がこのような男と……」


 乙女か。土下座さん、そんな顔して乙女か。しかし何故。刺繍と料理はできて洗濯と掃除は出来ぬのか。うむ、解せぬ。


「申、し訳ありま、せん……」


 どうにか直そうとしているのが目に見えて、言葉が不自然に突っかかる。

 一体この人は何なんだろう。

 私はモニカさんを真似た訳では無いけれど、やはり彼を見て遠い目をせざるを得なかった。

 そして未だ土下座の彼を促して顔を挙げさせると、私は率直に聞いてみた。


「ガフィクさん、見た目と中身が一致しないって人に言われません?」

「いまのところは……」


 まじか。


「仲間にゃ10割型言われてるな」


 でしょうね安心した。

 私だけかと思ったびっくりした!!そっちね、よかった!!

 ふぅ、と長い息をついて独白から戻ってきたモニカさんは、キッと再びガフィクさんを睨む。


「ともかく、ここはさっさと片付けなさい!お嬢様には食堂にきていただきますから」


 ガバッと立ち上がったガフィクさんは、そして私にもう1度視線を送ると、ガバッと頭を下げて立ち去った。

 ロムさんもロムさんで扱いにくかったけど、別の意味での扱いづらさだな。

 そう思いつつ、私はモニカさんに誘導されて食堂にむかったのだった。

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