変わらない再会
馬車に押し入れられ、無理やり座らされる。
しかし、負けてたまるか。ここで諦めたら私は終わる。自由を知ってしまった今、また籠の中の鳥になるのはゴメンだ。
彼の手が離れた瞬間、私は腰を上げて馬車から飛び降りる……が、腕が伸びてきて阻止される。
それでも腕を振り払って降りようとすると、一層強い力で押し戻される。
「リィ、大人しくしてくれ」
言葉とともに、ぼすん、と座席に押し付けられるが、私も諦めない。腕を振り払いつつ足に力を込めて立ち上がろうとする。
「離して!」
大声で叫ぶと、彼はまた私の口を塞いだ。
モゴモゴと非難していると、先ほどと違い、私の口と彼の手の間にハンカチがあり、そこから甘い匂いがしていることに気がつく。
モロにそれを吸い込んだ瞬間、くらりと身体の重心がぶれた。
まずい。直感的にそう思った。
私を見る少しだけ寂しそうな瞳が、余計に腹立つ。叩きたくても腕に力が入らない。
「君の為なんだよ……理解してくれ」
はっ、ほざけ。私が居たい場所から居たくない場所に連れていくことが私の為。笑ってしまうね。
あぁ、ダメだ。身体から力が抜ける。
目を覚ましたら覚えておけよ、と最後に弱々しくも彼を睨む。
意識を手放す直前、身体が暖かい何かに包まれるのを感じた。
目が覚めた時、真っ白な天井を見て、あぁ戻ってきてしまったと思った。
薬のせいか、ガンガンと痛む頭を押さえながら起き上がる。
こんちきしょー、あのやろう。痛いじゃないか。後遺症があるなんて聞いてない。
周りを見回すと、2年と変わらない、私の部屋だった場所。
ため息をつきたくなるのは仕方ないと思う。
思うんだけど、これ拉致だよね。
これでまた部屋から出るなって言われたら拉致監禁で訴えてもいいと思う。
そう考えている間にも、頭が痛すぎて反対の手で押さえると、あることに気がつく。
胸ポケットに入れていたはずのブレスレットが、腕で揺れている。
所有印のつもり?と、眉間にシワがよる。
じっとブレスレットを睨んでいると、ノックの後にドアが開いた。
「失礼します」
そこには、二年前と変わらない笑顔の女性。モニカさんが桶に入ったタオルを持って立っていた。
ただ、背中まで伸びていた髪が、肩口で切りそろえられていた。
「……モニカさん……」
無意識に名前を呟くと、モニカさんはとびきり優しい笑顔を向けてくれた。
「お久しぶりでございます、リィゼ様。お変わりないようで、嬉しゅうございます」
二年前、彼女がいなければ私はとっくに壊れていたかもしれない。彼女には感謝してもしきれない。
なのに、私はそんな彼女を置いてきてしまったんだ。
罪悪感に顔を背けると、彼女は私に近づいてきて、ベッドの隣に桶を置くと、タオルを水に浸して絞った。
そして私を横にさせると、額にそれを置く。
ガンガンと痛む額に、冷たさはとても心地よく、気持ち痛みが引いた気がした。
「あの日、リィゼ様がいなくなってしまったと聞いて、慌てたのは事実です」
作業をしつつ口を開いた彼女は、昔を思い出すように目を細めていた。
やっぱり、迷惑だったんだろうな、と目を伏せる。
「貴女が居なくなってから、レイ様は変わってしまったものですから」
変わった。
何かしら。婚約者に逃げられて怒り狂ったのかしら。それは使用人さんたちに頭が上がらない。
しかし、彼女は何故か嬉しそうに微笑んだ。
「毎日、抜け殻の様でした。何故、どうして、とうわ言のように仰って」
少し意外な言葉に、顔をモニカさんに向けると、額の上のタオルが落ちた。
彼女はそれを拾うと、水につけて冷やし、また額に置いてくれた。
「それほど大切だったのか、と使用人一同感激しました」
大切ね。愛玩動物的なあれかしら。
それからも、モニカさんは私に2年の間のレイ様の話を聞かせてくれた。
私に会うため、私を探しやすい環境を作るために、仕事に今まで以上に時間も体力も費やし、一年前、隊長から副団長まで登りつめたのだ、と誇らしげに語っていた。
……あの人20歳くらいよね?それで副団長はやばくないか?
それだけ私に会いたかったのか、しかし何のために。
……荒んだなぁ。私。
そして、しばらくモニカさんの話を聞いていると、額の冷たさも相まって眠気に襲われる。
瞼が落ちてくる私を見ると、モニカさんは1度私の頭を撫でてくれた。
「おやすみなさいませ。リィゼ様」
2年とは、短いようで長かったのかな、と、久しぶりの感触に身を委ねて、私は意識を手放した。




