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決心

 モニカさんのいない日々は、ただ単に退屈だった。こういう時に思うよね、女子っておしゃべりだけで生きてけるんだなーって。

 そんでですね、その唯一の生きがいを取られると人間どうなるか。

 答えは簡単、嫌になる。

 そして私は、それを行動に移した。

 そして私には、ただ1人協力者がいた。






 その人は、またもやレイ様のいない時に来た。

 しかも、堂々と庭にいた。


 モニカさんとの楽しいおしゃべり散歩ができないため、その状況に陥って10日目、私はフツフツと苛立ちや不満が溜まっていた。

 ロムさんと散歩するのもなにかなーと思って散歩も自粛し、好きでもない本を3冊ほど読み終えた頃、流石に日の下を歩きたくなった。

 部屋にも窓はあるし、日向ぼっこはできる。けれど、ぽかぽかな中を歩くということが私が生きるにとって大切でね?

 と、言うわけで散歩に出た。……必然的にロムさんも付いてくるわけで。…まぁいいけど。

 久しぶりの散歩だったから、私は長いこと外にいた。動物たちを構い倒してみたり、草花の匂いを嗅いでみたり。とにかく色々寄り道しつつ散歩をしていた。

 ちょうど邸の周りを半分ほど回った時、ロムさんのところに警備の人が駆けつけてきた。

 そして、彼に何か耳打ちする。と、ロムさんの顔が一瞬焦ったように固まる。おぉ、初めて真顔が崩れた。

 ちょっと感動していると、ロムさんは私を振り返ると。


「すぐ戻りますので、ここら辺で大人しくしていてください」


 と、それだけ言い残して脱兎のごとく走り出した。

 まぁ、外で1人なんていつぶり!!

 手を組んで感動に震える私はそろそろやばいかも知れないってことくらいわかるよ。うん。

 と、まぁずっとそうしてる訳にもいかないので。少しだけ弾んだ足取りで歩き出す。

 大丈夫、そんな離れないから。だってロムさんここら辺って言ったもん。というわけで、邸の裏手に回る。

 すると、邸から10mくらい離れたところに噴水。そして、そばにはちょっとした日陰があって、よくモニカさんとお茶していた。

 そこに座って待ってようと思い、足を踏み出すと、人影に気がつく。

 黒い影。じっと私を見つめている。

 そしてその影は、ゆっくり立ち上がるとお辞儀をして、ニッコリと笑った。

 あ、と声を上げて私はその影に駆け寄る。


「アレンさん!」


 黒い人影は、黒いローブに身を包んだアレンさんだった。


「お久しぶりです、リィゼ嬢」


 そう言って笑った彼に、なんというか癒し?的なものを感じてしまった。

 それからアレンさんは自身の前の席を勧めてくれたので、したがってそこに座る。

 座ってすぐで申し訳ないのだけれど、前回からどうしても気になって仕方ないことを聞きたい。


「アレンさん、どうしてここにいるんですか?というか、どうやって入ったんですか?」


 直球で投げかけた質問は、くすくす笑いとともに粉砕された。


「昔からの知り合いでして」


 ………誰と?これは普通にレイ様と、と取っていいのかな?

 私が軽く首を捻っていると、今度は彼から質問が飛んできた。


「……使用人の彼女は、ご一緒ではないのですか?」


 その質問に、暗い顔を持って返した私に、アレンさんは瞬きを繰り返すだけ。

 言ってもいいものか考えあぐねていると、彼はこてん、と首をかしげた。


「横柄ですねぇ」


 え?

 彼の突然の言葉に、私も首をかしげて返す。

 横柄?誰が?私?

 眉を潜める私に、アレンさんは微笑むだけ。

 そして、こんなことを言い出した。


「その生活は貴女の望みですか?」


 実質、すぐにうなずけない事に気がつくと、意味もなく舌打ちしたくなった。

 苦虫を噛み潰したような私の顔で全てを悟ったらしい彼は畳み掛ける。


「幸せですか?苦痛ではありませんか?……逃げ出したいと思いませんか?」


 どくんと心臓が悲鳴をあげた。

 何かを堪えるように、ぐっと膝の上で拳を握る。

 アレンさんは、金髪に隠れた瞳で笑うと、こう言った。甘い、甘い誘惑的に。


「私なら、逃がしてあげられますよ」


 ごくごく真面目に告げられたその言葉に、固まる私。傍から見ればなんて滑稽なんだろう。

 と、それは置いとこう。今なんて言った?

 逃がしてあげられます?……なんの冗談。

 私が首をふると、アレンさんは身を乗り出した。


「望んできた?なら貴女は、こんな結婚生活を望んでいたのですか?」


 ぐっと言葉に詰まる。確かに、望んでなんかない。それは常々思っている事だ。

 誰が散歩以外部屋に軟禁されることを望むというのか。そしてついでに言えば、先日のモニカさんとの1件以来、散歩も禁止されそうになった。

 手紙を出そうにも中身はチェックされるし、友人と会うにしろ許可が必要だし。

 ……やっぱりリリックに会ったことバレたらやばいよね。

 というより。

 元々私はアウトドア派なのだ。馬乗りに行くのが趣味だったし。

 …………あれ、なんかそう思ったらイライラしてきた。

 我ながら感情豊かというか、情緒不安定というか、レイ様に対しての感情が一定しない。

 いや、……印象は悪い、これは確定だ。

 大体、レイ様に出会ってなきゃ私はそこそこの家に嫁いで、仕事をしようか、などとも思っていたのだ。ここだけの話。(両親に知られたら泣かれるから言わなかった)

 贅沢な暮らしはあるけど敷地内に瓶詰め状態と、贅沢はできない、働かなきゃいけないけど自由な生活。どっちをとるか。

 そりゃあ後者でしょ。自由はでかい。

 本来の私は自由が大好きなの。

 というか、今までの私の方がおかしかったのよ。黙っていうこと聞いてる(?)っていう方が。

 ………それと、よく考えると私、まだ婚約者という立場なんだよね。嫁いできたとか言ってるけど、まだ結婚はしていない。……なら。

 両親には悪い、というか家の一大事だけどごめんなさい。薄情な娘を許してください。

 私は知らず知らずのうちに下がっていた顔をあげると、アレンさんの手を取った。






 アレンさんは私の腕をとると、そのまま裏口に進んでいった。

 それを見て、私は違和感をおぼえる。

 裏口とは言えど、私は何度もそれを探した。けれど見つからなかったのだ。そこから出ようとしているならば、それは不可能だ。

 そう言おうと口を開きかけた時、アレンさんが立ち止まった。

 彼が前にしているのは、ただの茂み。

 まさか茂みをかき分けて進もうとしてるんじゃないだろうな、と怪訝に思っていると、彼は右手をその茂みにかざす。そして何事かを呟くと。

 不思議なことは、よくある。

 まさにその言葉の通りだった。

 なんの変哲もないただの茂みが、ゆっくりと、自分たちから分かれ始め、道を作り始めたのだ。

 それが動かなくなると、アレンさんは何のためらいもなくそこに入っていく。

 私はと言えばですね、頭が追いつかんですよ。

 なにこれ、魔法?

 呆気に取られる私に気がついたアレンさんは、振り返ると微笑んだ。


「……アレンさんて、ご職業は?」


 魔法使い、という言葉が頭に浮かんだけれど、果たしてそれは職業なのか。

 というか、リリックが彼は学者だって言ってなかったっけ?

 微笑んだままのアレンさんは、少し楽しそうに人差し指を立てて口に当てた。


「魔術師ですね。表立っては学者として薬草学などを研究していますが」


 魔法使いと近からず遠からず。というか近い?ってか同じじゃない?!

 動揺が隠せない私に、アレンさんは説明無しに笑うだけ。

 まさかの騎士様から魔術師に助け出されました、というわけわからん構成が成り立ってる。

 アレンさんに手招きされて、足を踏み出す。

 けれど、茂みに入る前に1度振り返る。

 胸の中を占めるのは、申し訳なさと高揚感。

 ただ、何も言わずにいなくなるのは薄情かな、とは思う。

 すると、アレンさんに肩を叩かれ、振り返る。アレンさんは私の目の前に2枚の紙とペンを差し出した。アレンさんの心遣いに感謝しつつ、膝を下敷きにして手短に手紙をしたためる。

 一枚は、両親あて。レイ様に不満があった訳では無い、少し辛くなってしまった。心配しないで欲しいという内容で書く。多少の嘘は許して欲しい。

 二枚目は、レイ様に。

 ……留守中にいなくなってごめんなさい。誰か、他の婚約者をお探し下さい。と。

 最後に、二枚ともにサインをする。

 それらをアレンさんに渡すと、彼は二度折って手を振った。そこにはもう手紙は存在していなくて。

 魔法で届けてくれたのだと、説明されなくても何となく理解した。

 ほんとに魔法なのかはこの際置いとく。だって目の前で見せられたら信じざるを得ない。

 私は、アレンさんの後ろをついて茂みを歩く。

 後ろでは、カサカサと音を立てて私たちを飲み込むように、茂みが元に戻っていった。

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