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66 やる気なし魔導師の雪祭り! ② ~おサボりゴブリン大作戦!~



 聞こえてくる賑やかな声には聞き覚えがあった。

 いったいなにをしているのかと思ってそちらに視線を向けると、氷で作られた滑り台がある。子供向けに作ったものだが、大人たちにも好評らしい。


 滑っている際に尻尾が引っかからないように、少しばかり姿勢に工夫がいるようだ、と眺めていたヴェイセルの視線の先では、次々と入れ替わりに楽しんでいる者たちの姿がある。


 尻尾、尻尾、緑の頭、緑の頭、緑の頭……


「ゴブリンばっかりじゃねえか! あいつら、仕事もしないで遊んでやがる!」


 ヴェイセルは思わず突っ込んだ。

 監視の役割をしているゴブリンはちゃんといるが、頭数が多いため、交代で遊んでいるようだ。暇を見つけるなりこれなのだからしょうもない。


「客よりゴブリンのほうが多いのはちょっと問題だな。暇そうにしているし、間引くか」


 ヴェイセルは滑り台のところまで進んでいくと、ゴブリンたちが彼に気がついてはっとする。けれど、素知らぬ顔をし始める。


(こいつら、しらばっくれる気か!)


 おサボりゴブリンたちには、相応の対応をしなければなるまい。

 ヴェイセルはそのゴブリンのほか、遠くでバレないように遊んでいるゴブリンをかき集めると、フリームスルスの力を用いて氷のステージを作り上げる。


「雪玉をゴブリンに当てる的当てだ。一回雪玉20個。当てたら商品プレゼントでどうですかリーシャ様」

「こんな大がかりなものを作ってから相談するなよ、まったく」

「ヴィーくん、もう進める気しかないじゃない」


 リーシャとミティラが呆れてしまう。

 そんなゴブリンたちを眺めていたレシアは、


「20個も商品用意するの?」


 と、全部当たる前提で話をしてしまう。

 リーシャも頷いた。


「うむ。確かにゴブリンが避けられる姿は想像できないな」


 リーシャに馬鹿にされたとなると、ゴブリンたちは「ゴブゴブ」と不満げな顔で詰め寄ってくる。ヴェイセルはしめたものだと思いながら、


「それじゃあ頼むよ」


 と、ゴブリンにその仕事を押しつけた。おサボりゴブリンを一掃して、さらにはお金も稼げる。なんと名案を生み出したのだろうかと、ヴェイセルはいい気分になった。


 そうするとエイネが手を上げた。


「じゃあ機神兵に判定させるよ。商品はどうするの?」

「この村で使える券にしよう。それなら多くを用意しなくて済む。あとはマモリンゴとかの詰め合わせとかも用意したいけれど……配送とか、機神兵にお願いできる?」

「おっけー。でも、ゴブリンで大丈夫?」

「そりゃあ、もちろん。俺には秘策があるからな」


 ヴェイセルはそう言いながら、村の兵たちに対しても、券が利用できるように伝達する。


 そうして20体のゴブリンがリングに上がる。やられたゴブリンが抜けていって、残った数で商品が決まる。


 最初にやってきた客は、尻尾のある母と息子だ。

 氷の壁からひょこひょこと顔を覗かせる緑の小鬼を見て、


「お母さん、変なのがいる!」


 大喜びである。緑の小鬼の顔がぷんぷんと赤くなっていく。

 絶対に負けないと気合いを入れるゴブリンである。大人げない。


 機神兵は雪を呑み込むと、そこから雪玉を吐き出していく。


 そうして生み出された雪玉がぽいぽいと投げられると、ゴブリンは軽やかに回避していく。さらには決めポーズすら取る有様だ。


 けれど……すてんと滑って転ぶと、そこ目がけて、その子供は雪玉を数個をまとめて投げつけた。


「ゴブッ!? ゴブブ!」


 転んで頭を打ったところに次々と襲いかかる雪玉。機神兵がヒットの判定で点滅した。


「一つずつ投げてくださいねー」


 一応、そういうルールである。とはいえ、これならばなんとか利益も出るだろう。頭を打ったゴブリンはそそくさと退場していく。

 次からはそいつとは入れ変わりに、別のゴブリンが入っていく。


「エイネ。雪玉一つずつ出せるようにできない?」

「そりゃもちろん、あたしにかかればどんな機能だってバッチリだよ!」


 それならば初めからそうしてくれればよかったのに、と思うヴェイセルであった。


 ここでは、一方的にぶつけられるだけのゴブリンであるが、じっと監視しているよりも楽しいらしく、問題もないだろう。


 けれど、若者たちが来ると、ゴブリンはぽこぽこと当てられてしまう。


(うーん。これじゃあマモリンゴの詰め合わせを出さないといけなくなっちまう。そんな簡単にやるわけにはいかない)


 ヴェイセルはちょいちょいとゴブリンたちを手招きすると、その頭をぽんぽんと叩いた。途端、ゴブリンの目がかっと見開き、動きが機敏になる。ヴェイセルの魔力を大量に注ぎ込んだのである。今晩は目が冴えて眠れないことだろう。


「屈強な若者がいるときは、お前たちの出番だ」


 ゴブリンは頷いた。


「ヴェイセル、お前はなかなかに悪巧みが得意だな?」

「ヴィーくんは自分が楽をするための方法、考えるの得意ですからね」

「ヴェルっち、ゴブリンは所詮ゴブリン」


 口々に言われたヴェイセルである。せっかく、リーシャのために運営を頑張っているというのに。


「ヴェイセルさんは知的でかっこいいです!」


 唯一、イリナが褒めてくれる。ヴェイセルはいい気になる。そうするとイリナもますます調子に乗る。


「素敵です! 立派です!」

「だろう? 俺はいつも名案を出しているのに、なかなか評価されないんだ」


 などと言うのだが、


「それ以上にサボってるからな」

「普段、お昼寝と食事しかしてないもの」


 と、ますますひどい言われようになってしまうのだ。

 肩を落とした魔導師は、アルラウネになでなでされて、慰められるのだった。


 そうしているうちに、ガタイのいい男たちもやってくる。


 それに対して、半分くらいは魔力たっぷりのゴブリンが対応する。それらはゴブリンとは思えない動きで、さっと回避するのだが、やはり所詮はゴブリン。調子に乗ってぶつけられる個体が出てくる。それくらいでちょうどいいのかもしれない。


「それじゃあ機神兵。ゴブリンの面倒は頼んだよ」


 ヴェイセルは雪玉をぶつけられるゴブリンを見つつ、その場をあとにするのだった。


 それからヴェイセルはたいして働いてもいないのに、休憩すべく、レストランにやってきた。


 温かな料理を注文すると、ゴブリンたちが運んでくる。ここで普段から働いているゴブリンらしく、なかなか手慣れている。


「なあ、本当に滑り台で遊んでいたゴブリンとこいつら、おんなじ魔物なのか……?」

「ヴェルっち。ゴブリンにもいろいろいる」

「人間にもいろいろいるじゃないか。いつも寝ているやつとかな?」


 リーシャに言われると、ヴェイセルは聞こえなかった振りをして、料理を堪能するのだった。


「それでヴィーくん。これからどうするの?」

「え? 見回りが終わったしご飯も食べたから、寝る予定だけど……」

「やっぱり、それしか考えてなかったんじゃない。もう、夜のだしものが始まるときには、ちゃんと起きてきてよね?」

「うーん。保証はできないけれど善処するよ」


 ヴェイセルが欠伸をしながらのそのそと家に戻っていくのを六人の少女は眺める。


「ミティラよ、少しヴェイセルを甘やかせすぎじゃないか?」

「そんなことないと思うけれど……ヴィーくんもあんまり動かすとかわいそうかなって」

「ヴェルくんはあの十倍くらい動かしても大丈夫だよ?」


 レシアもそれに同意する。ミティラはやはり笑って、


「ほら、皆が動かすから」


 と、告げるのだ。ミティラとアルラウネ、そしてイリナはヴェイセルに甘いし、リーシャにエイネ、レシアは遠慮なくヴェイセルを働かせる。


 そうしてバランスが取れているのかもしれない。

 少女たちはその場にはいない魔導師の話で盛り上がるのだった。

いつもお読みいただきありがとうございます。


活動報告のほうにはすでにあげておりますが、「魔物と始める村づくり!」の刊行予定日が4月22日決まりました。また、イラストは「40原」先生が担当してくださっております。


リーシャたちも素敵に仕上がっておりますので、楽しみにしていただけると嬉しいです。


次話にて第四章もお終いです。ようやく冬の話も終わって、次章からは春になります。

今後ともよろしくお願いします。

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