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31 炎の地


 ヴェイセルは辺りを見回し、額を手の甲で拭った。

 入って間もないというのに、じっとりした汗が浮かんでいる。


「うーん、暑い。こんなところに長くいたら、蒸し焼きになっちまう。さっさと終わらせて帰ろう」


 ヴェイセルは懐から茶色の手のようなものを取り出す。それを前方に向けると、茶色のモグラっぽい生き物――ノームが姿を現した。


 それはミティラが契約しているノームとは違い魔法道具で生じさせているため、ヴェイセルがなにかすると嫌がったりするなど、自我を保つことはない。


 だから命令を出せば、その通りに動いてくれる。


 この辺りの土地をまずは調べさせる。うっかり、炎が噴き出しているところを踏んでしまってはたまらないのだ。


 ノームは早速、あたかも泥を掘り進むように岩の中を進んでいく。高位の魔物ともなれば肉体を一時的に消しておくこともできるため、土の精霊であるノームはその応用で岩や土の中を移動することができるのである。


 そうしてノームに調べさせつつ、地上はヤタガラスの視界で把握していく。

 すると、すぐにノームから反応があった。


「宝石か。採掘したいけれど、時間がかかりそうだからなあ」


 ノームが実体を持たない状態で土の中を探ることができるとはいえ、掘り出すとなれば話が異なる。深いところとなればなるほど労力は増えていくし、ダンジョンが常に変化していることもあって、間に合わなくなることもある。


 当然、高ランクの魔物を用いるほど効率よく行えるのだが、契約した魔物ではなく魔法道具を用いて行うとなれば、採算が取れるかどうかはわからない。ランク5の魔物の魔法道具となれば、そこらの宝石よりはよほど高額になるのだから。


(そこらに岩石の魔物いないかな?)


 そういった系統の魔物は村の畑に埋めるよりも、ここらの地面を掘ったほうが作りやすいだろう。もっとも、埋めた魔物がどうなったかを確認するために時間を取らねばならなくなるのだが。


 ヴェイセルはそんなことを思いながら、ヤタガラスの視界に意識を向ける。そうすると、丁度いいものが見えた。


 岩を適当にくっつけた人型だ。ランク3の魔物ロックゴーレムである。

 こちらを捕らえてしまえば、魔力以外のコストなしで採掘ができることになる。


「よし、あいつを捕まえよう」


 ヴェイセルは早速、リビングメイルにひょいと飛びつき――


「あっつ!!」


 思わず飛び退いた。

 リビングメイルはすっかり熱せられて高温になっており、肉だって焼けそうだ。これではとても乗ることなどできやしない。


 いきなり彼の予定はすっかり外れ、渋々徒歩で行くことになる。

 魔法道具を用いて脚力を強化し一気に地を駆けると、吹き付けてくる風がぬるく、気分が悪い。


 お供はガシャガシャとうるさいリビングメイルただ一体。ノームもヤタガラスもすでに先の調査を行っている。


 そうしてヴェイセルは進んでいくと、やがてリビングメイルの動きを止めた。振動や音で気づかれる可能性があるためだ。


 岩陰からひょいと顔を覗かせて向こうを探る。

 微動だにせず立ち尽くしているロックゴーレムが一体。大きさはヴェイセルよりも大きく、ぶん殴られたらそこらの兵など一撃で気絶してしまいそうだ。


 近くには岩場もなく、これでは接近する前に気づかれてしまう。

 だが、その代わりに、近くは崖のようになっており、そこから一気に急降下すれば気づかれずに背後を取ることもできよう。


 ヴェイセルは早速、そちらに向かっていく。

 手頃な岩の上を飛び移っていき、やがて崖の上に到達。見下ろせば、ロックゴーレムが見える。


 迷うことなく跳躍すると、魔法道具で膂力を強化し、一気に組みつく。

 魔力を高めると精霊が浮かび上がり、ロックゴーレムは倒れていく。と同時、ヴェイセルは慌てて離れた。


「あっちい!」


 ヴェイセルは手をぱたぱたと振り動かす。

 そして赤くなった手を見て、そこに魔法を使用する。途端、赤みがゆっくりと引いていった。


 ユニコーンの癒やしの魔法である。


 さて、それからヴェイセルはノームを呼び寄せて、ロックゴーレムを埋めることになる。


 そのための穴を掘ろうと思ったのだが……。


(この辺り、宝石が多いな? 丁度いいかもしれない)


 ヴェイセルはとりあえず宝石がよく埋まっているところを選んで、そこに埋めるように指示を出す。


 ノームが岩を掘るのをしばらく待つ間、リビングメイルにロックゴーレムをばらしてもらう。そうして取り出した魔石は綺麗な黄色だった。ランク3の魔石だ。


 それを地面に埋めて精霊契約を済ませ、なにかができてくるまで待つ。その間にもヤタガラスは調査を続けている。


 やがて、見えてきたのは一つの光景。

 真っ赤な、炎を纏った鳥が優雅に飛んでいる。ランク5の魔物フェニックスだ。


 炎を纏うことで再生する魔物だが、このダンジョンではあちこちから火が噴き出しているため、常に補給ができる状態になっている。


 しかも、そのフェニックスは数体いる。ランク5の魔物が複数いる状況は一般的には見られるものではない。


(魔力の高まりの原因はあれだろう。今度こそ、ダンジョンの原因だといいんだが)


 ヴェイセルは早速、魔法道具の確認を行い、そちらに向かわんとする。

 その直後、地面から半透明の塊が飛び出してきた。魔物が生えたのである。


「お、当たりか」


 見れば、それはゴーレムの頭部によく似ている。思い当たる魔物は一体しかいない。

 リビングメイルが頭をがっしり掴むと、ノームが下から押し上げる。そうして飛び出したのは、僅かに赤みがかった、美しいゴーレム。


 レアな魔物であるクリスタルゴーレムだ。元となった鉱石によって色が変わる特徴がある。


「よし、これでレシアの勧誘に一歩近づいたな。調査にほしがるかもしれないから、この辺りの鉱石も取っていこう」


 クリスタルゴーレムに命じると、つるりとした頭を動かした後、地面を掘り始めた。このゴーレムは宝石を探し当てる能力があり、掘り当てるのが得意なのだ。


 ヴェイセルが魔力をかなり多く流し込むと、それは勢いよく動き始める。


 ノームに協力させ、リビングメイルを護衛として残しておく。そしてヴェイセルは一人歩き始めた。


(……さて、さっさとこのダンジョンの調査を終わらせるとしよう)


 向かう先はランク5の魔物がたくさんいる状況だ。しかしヴェイセルはまったく臆することもない。


 彼の一番の問題は、リーシャが起きてしまわないかどうか、ということ。そしてレシアとエイネがこのダンジョンの土産を気に入るかどうか、であった。


 なんにせよ、敵を倒さねば話は進まない。


 ヴェイセルは懐から魔法道具を取り出すと、魔力を込める。

 途端、彼の全身は氷に覆われて、鎧姿となる。霜の巨人、フリームスルスの力だ。


 高温にも耐えうる状態となったヴェイセルは、勢いよく駆け出した。もはや熱など気にはならなかった。


 やがて、舞う炎の鳥が見えてきた。


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