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18 北の異変

 翌日、ヴェイセルは村の外に向かっていた。

 お供に十匹のゴブリンを連れてきているが、こちらは荷物を運ぶための要員だ。ゴブリンたちはすっかり散歩気分である。なにかあれば彼の影に隠れるつもりでいるのだろう。


 そんなヴェイセルも一日たっぷり休むと、ほんの少しばかり気力が充実してきたので、仕事をこなすことにしたのである。


 というのも、ヴェイセルはエイネからランク6の魔物についても任されてしまったからだ。王の依頼であれば割と適当な対応をする彼だったが、彼女の頼みであれば聞くのもやぶさかではない。


 ヴェイセルがエイネと出会ったのは、コーヤン国に来たばかりのときのことだった。

 精霊契約を行わず魔法道具しか使えないヴェイセルは、腕のいい工房がないものかと探していたのだが、彼は新人族ということでよい顔をされず、相手にされてこなかったのだ。


 そんな折、まだ幼いがなかなかいいものを作るという少女の話を聞いて、訪ねたのがきっかけとなった。


 ヴェイセルもあまり当てにしていなかったのもあって、あれこれと聞くこともせず、ただ自分の要求だけを伝えた。それも、周りの職人たちが聞けば、こんな小僧がなんとほらを吹くことか、と一蹴されるようなことを。


 そのときエイネは子供扱いされてばかりだったため、腕を疑われるのにうんざりしていた頃合いだった。それがいきなり、とんでもないことを言うやつが現れたものだと、話を聞くことになったのだ。


 それからは、ヴェイセルが任務で魔物を倒すたびに、あまり手に入らない魔物の素材を持ち込むようになった。エイネもそのたびに魔法道具を作り、彼の要求に応える。


 ずっとそんな関係が続いてきたため、もしかするとエイネは、ヴェイセルに命令を出している王たちよりも、彼の実力というものを理解していたかもしれない。


 ともかく、そんなエイネの頼みなのだ。ランク6の魔物を倒してきて、というのも冗談ばかりではない。彼の実力を信頼しているこその言葉なのだ。


 だからヴェイセルも、倒した魔物を彼女のところに持っていかねばと思う。

 そのついでに、北の異変を調査しよう、ということである。欲を言えば、レシアやエイネが気に入るようなものが手に入ればいい。


 今日はさっさと仕事を終わらせたという大義名分を得て、昼からは誰にも邪魔されずに寝て過ごす予定なので、どんどん進んでいく。


 やがて結構深いところまで来ると、懐から魔法道具を取り出す。

 エイネから頼まれていた新作である。ゴブリンの爪とコケッコーの羽がくっつけられたものだ。


 それらの魔物はなんら珍しいものではないが、魔法道具で複数の魔物を使うことは滅多にない。というのも、理由は魔法道具の仕組みにある。


 魔法道具は、そもそも人ではなく内側に宿った精霊が魔物の肉体で魔法を用いるというものを流用したものであるため、人が外部から魔力を供給することで魔法を利用できる形にしなければならない。


 そのため、部位ごとに魔力の伝導が異なることなどを利用して、成形することで指向性を与える。それから、魔物は基本的にどの部位であろうと保持するすべての魔法が使えるようになっているため、魔法の発現を抑制する塗料などを塗っておくなどして、特定の魔法のみが現れるようにしておくのだ。


 ようするに魔物の素材を切ったり化学物質で加工したりするのだが、人と魔物の違いを埋めるのだけで難しいのに、複数の魔物を使えばさらに難易度は跳ね上がる、ということだ。


 作るだけでなく、用いるほうに要求される技術も当然高まる。エイネは「失敗したらごめんねっ!」なんて可愛く言っていたが、試されるほうの身にもなってほしい、と思わなくもない。


 ヴェイセルは早速、新作魔法道具に魔力を込める。

 すると、そこにゴブリンが現れた。手がコケッコーの羽になったゴブリンが。


「ゴブッゴー!」


 ゴブリンは元気に鳴くが、いくら羽を動かしても飛べやしない。


(まあ、そうだよな……)


 いくら実験とはいえ、こんなものを作ってどうするのか。

 ヴェイセルは悩みつつも、次々とゴブリンを生み出していく。


 手が羽になったゴブリンはしきりに羽ばたきながら、走り回り、木々にぶち当たって大きな音を立てた。鳴き声、動きともにコケッコーのものだとヴェイセルは記録しておく。


 そしてそこでヴェイセルの魔法道具が限界を迎えて砕け散る。

 すると羽の生えたゴブリンは消えていく。が、衝撃を受けた木々からどさどさと音を立てて、野生のゴブリンが落ちてきた。


 それらは寝ていたらしく、恨みがましい目を向けてくるが、すぐにゴブゴブ言いながら草むらへと消えていった。


「ここらへん、ゴブリンしかいないのか。となれば、平和なんだろうなあ」


 ゴブリンは弱い魔物なので、基本的に強い魔物が敵対している場合、まず生き残れない。だからそんな外敵がいない可能性が高まる。


 ヴェイセルは実験も済ませたので、エイネからもらった新しい魔法道具、大きな黒い翼を取り出すと、黒い鳥を生み出した。以前の羽と素材になった魔物自体は変わらずヤタガラスだが、かなり遠方まで視認することができるようにしてある。


 街から離れた広範囲を調べるため、まずは上空から眺めてみる。

 そうすると、向こうに比較的大きな山が見えてきた。かなり距離があるためよくわからないが、通常と見た目が異なるため、もしかするとダンジョンかもしれない。


 そしてその手前には、いくつかのゆがみが見えるため、そこはダンジョンなのだろう。それにしても随分と数が多い。


(これが北の異変に関わってるってことか。この中にはランク6の魔物はいないようだが……)


 外からでははっきりしたことがわからない上、距離があるためどのようなダンジョンなのかすら判別ができない。


 となれば、接近させるしかない。ヴェイセルはヤタガラスを数匹生み出して、ダンジョンまで近づけていく。


 すると、ほとんどのダンジョンは外からでは中がわからないことが明らかになる。

 しかし、いくつかは問題なく中が見えた。


 一つは平原。かなりの広さがあるようで、調査には時間がかかるだろう。

 そして洞窟。これも奥が見えないため、どうしようもない。

 それから滝だ。これもどうやら水中には洞窟があるようだが、息が続かねばそちらを調べようもない。


 一番近いところには、不気味な洋館が建っている。


(うーん、これが魔女の噂の原因かな?)


 ダンジョンでも館のものは多くない。基本的には、そこら辺に元々存在していたものをベースに作られるため、自然にある地形が残っている場合が多いのだ。


 となると、あそこには元々洋館があったのかもしれない。

 ダンジョン化する前は立派な館ではなかっただろうが、なんにせよこんなところで住んでいる者がいれば、噂されてもおかしくない。距離としても、北に住んでいる者が日帰りできる距離でもある。


 とりあえず行ってみるだけ行ってみよう、とヴェイセルはそちらに向かって歩き始めた。


 しかし、足音がついてこない。振り返ると、ゴブリンたちは固まって震えていた。


「魔物のくせに、ダンジョンに怯えるとかどうよ……」


 ヴェイセルは思わずため息をつき、ゴブリンたちの尻をひっぱたく。

 それらはゴブゴブと不平を言いながら、渋々動き始めた。



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