Act98-狂化
ーーこれで、良かったんだ。
遠ざかって行く兄の姿を、全身を異物に蝕まれる感覚とともに見送る。
ーーきっと、これが私に与えられた”役”なんだ。
”Twin Berserk Fencer”。
まだこの役職の意味はわからないけど、私が想像しているより恐ろしいものなんだろうなぁ。
だってさ、いきなり意識失って、気がついたと思ったらお兄ちゃんに吹っ飛ばされてたんだよ。笑っちゃうよね。
しかも、何かかっこいい剣なんか持っちゃってさ。こんなの触るのなんて、子供の頃に剣道をやってたお兄ちゃんの木刀を借りた時以来じゃないかな。あれより断然軽いけど。
あれ、そう言えば誠也はどうしたんだろう。補填被験者として、私と同じタイミングで来たはずなのに。
まぁ、誠也なら何だかんだで一人でも生きていけそう。でもまずは、この世界を無事に脱出してほしいなぁ。
ーーあ……そろそろヤバそう。
この世界に来てから、何度かこの感覚に襲われている。
そのまま身を委ねるように楽にすると、一瞬でふっと意識が飛んで、気がつくと全然知らないところにいたりする。時には目の前で人が倒れていたりもした。
それが怖くないと言えば嘘になる。
自分の身体を、知らない何者かが操っていると考えるだけで背筋が凍るような気分だ。しかもそれが、誰かを殺めているのならなおのこと。
ーーもうダメ……かな。
「次に目覚めるのは、どこかなぁ……。何なら、今までのことが全部夢で、いつも通り家のベッドで起きたり……なんちゃって……はは……」
その言葉を最後に、香澄の意識は再び「狂化双剣士:Kasumi」の影となった。




