Act97-双の剣
「香澄……なん……で」
俺にとっては半年ぶりの再会だ。伝えたいこと、話したいことはたくさんあるはずなのに、上手く言葉が出てこない。
”感動の再会”というにはあまりにもかけ離れた状況に、死に瀕した思考がついて行けないのかもしれない。
「ソウちゃん、知り合いなの?」
通り魔の名を無意識に呼んだ俺を不審に思ったのか、ミユが回復アイテムを使用しながら問いかけてくる。
オンラインゲームには、「現実の問題をオンラインに持ち込まない」という暗黙の了解がある。これは大体どのゲームでも同じことだ。
だが、ここで嘘を言っても仕方が無いだろう。
「俺の……妹だ」
「え……」
通り魔が俺の身内だったことにショックを受けたのか、それとも現実のことを抵抗無く話したことに対する驚きか。もしくはその両方が合わさったかのような、簡潔な呟きが返ってくる。
強ばる彼女の両手に包まれた俺は、アイテムによるHP回復が完了。全身に普段通りの感覚が戻ってくる。
「もう大丈夫だ。ありがとな」
「大丈夫って……ソウちゃん、どうするつもり?」
「そりゃ、戦ーー」
戦う? 俺が、香澄と?
「いや、少し考えさせてくれ」
この世界の”戦う”は、つまりは単純な殺し合い。現実世界で日常茶飯事だった”喧嘩”とは訳が違う。
ーーどちらかが、死ぬ。
「う……うぅ……」
絶えず小さな呻きを漏らす香澄を見て、少しでも打開策を探そうと試みる。
「あれ……?」
何か見えざる力に抗っているかのような姿は、現実で共に過ごしてきた実の妹のそれとは思えない。
もし、香澄も誰かに操られているのだとしたら。
「来るよッ!」
ガキンッ!
いきなり目にも留まらぬ速さで突っ込んできた香澄に思考を無理矢理中断させられ、仕方無く銃剣で応戦する。
鍔迫り合いで時間を稼ごうとした俺の考え虚しく、香澄はすぐに一歩引き、二本の短剣による連撃を浴びせてくる。
「……速い!?」
剣の動きに、風切り音が遅れてついて来ている。今まで俺は、これほどのプレイヤーを見たことがない。
ーー何だこれ……? これが香澄の能力なのか?
まるで、ずっとここで戦ってきたかのような洗練された連撃は、銃剣一本で受けきるにはかなり厳しい。
右、左、右……と次々と繰り出される短剣は、刀身が短いせいもあって目で追うのがやっとだ。
「まずいな……」
現実世界でもテニス部で運動神経はいいはずだが、ゲーム慣れしていない香澄がここまで動けるとは思えない。
やはり現実世界とゲーム世界では反応速度も変わってくるし、初めてフルダイブしたプレイヤーなんか、下手したら酔って動けなくなったりもするらしい。
そんな俺の不安を微塵も感じさせない香澄の剣術はーー。
「はっ」
「!? すまん、香澄ッ!」
一瞬、香澄の剣が止まった。俺はその隙を見逃さず、思いっきり短剣を弾いて距離を広げる。
「痛ッ……」
構えを維持したまま見据え続ける俺の視線の先で、さっきの勢いは何処へやら、香澄はよろよろと起き上がった。
そして虚ろな目が、俺の姿を捉える。
「ちょっと何するの……。あれ、お兄……ちゃん?」
その言葉だけでわかる。いつもの香澄だ。
「香澄、なのか?」
「何言ってるの、私だよ?」
ーー元に、戻った……?
「せっかく探しに来たのに、いきなり……って、何これ!? 本物!?」
今起こった現象を確認していった過程で、香澄は自らの両手に短剣が握られていることにようやく気づく。
服装にも驚いているようで、「何この変な服!?」なんて上ずった声で嘆く。
まるでコントを見せられているような空気に内心ほっとしながら、再会の喜びを分かち合おうと近づく。
「ソウちゃん、気をつけてね」
まだ操られているかもしれないから、という意味が含まれていたのであろうミユの助言も、今は届かなかった。
「香澄……良かった……」
「お兄ちゃん、生きてたんだね……あ」
俺と同じく再会の喜びに満ちていた香澄の笑顔が、突然陰り始める。
どうかしたのか? なんて言う前に、香澄が自ら俺を拒絶した。
「……あ……来ちゃ……ダメ……」
俺はその言葉の真意を理解できず、なおも距離を詰める。
「香澄……?」
「逃げて……早くッ!」
「どうしたんだよ。せっかく会えたのに」
何で俺を避けるんだ。お前も言ってたじゃないか、せっかく探しに来たのに、って。
もっと色々話そうぜ。まぁお前にとっては数時間のことかもしれないけど、俺はあの日から、もう半年近く経ってるんだぜ。そうだ、誠也もどこかにいるのか? 何なら、今度みんなで一緒にダンジョン攻略でもーー。
「そこの人……お兄ちゃんを……お願……うぁぁぁ!」
「ほら、ソウちゃん! 一旦離れてッ!」
「あ……」
ミユがSTR値を限界まで振り絞り、俺の手を取ってその場から離脱する。
俺の意思に反して離れていく香澄の姿。
せっかく……会えたのに。




