Act95-奇襲
「はぁ……はぁ」
とりあえず狙撃手の死角となる場所を見つけた俺たちは、つかの間の休息を取る。
だが悠長にはしていられない。すぐにまた別のポイントに移動し、攻撃してくるだろう。
「ほんとに……スナイパー……だったね……」
息を切らしながら呟くミユの言葉を理解できたのは、もちろん俺だけだ。
他のメンバーは、ただただ通り魔の奇襲に驚いているだけでーーって、あれ?
「……みんなは?」
「はぐれたね」
「おいおいマジかよ」
こんな深い森の中。しかもいつ、どこで狙撃されるかもわからない状況ではぐれるなんて。最悪だ。
「ホノカ……は大丈夫だよな?」
「さぁ。ソウちゃんが連れて来るって言ったんだからね」
「……」
正直、他のメンバーは狙撃手の場所さえわかれば逃げることは可能だし、むしろユズハやフィリアに関しては遠距離戦を挑むこともできる。
だがホノカが一人で取り残されてしまえば、為すすべもなくゲームオーバーた。
「とりあえずメッセージは飛ばしておく」
ミユはそう言って、ユズハとフィリアへ同じ文章を送信する。
三人が一緒にいるというのが理想だが、そんな保証はどこにも無い。だがせめて、どちらかがホノカと一緒にいて欲しいと、俺はそう願った。
「頼んだ。じゃあとりあえず、ここじゃないどこかに行ーー」
ザシュッ!
俺が言葉を続けられなくなったのと、目の前に鮮血にも似たエフェクトが舞ったのは同時だった。
「ソウちゃんッ!!」
突然の出来事に腰を抜かすミユが視界の端に映る。そこでようやく自分の状況に気づき、痛みを感じる胸元へと視線を落とす。
ーー短剣が、刺さっていた。
「何だよ……これ……」
あまりの奇襲だったせいか、不思議と命が削り取られているようには感じられなかった。
だが、目に見える形で俺のHPはみるみる減少していき、同時に意識が虚ろになっていく。
ーーこのままじゃ……。
「ソウちゃんから……離れろッ!」
俺の顔を掠めるように、ミユの片手斧が飛んでくる。通り魔は軽く舌打ちをしながら、剣を抜いて後方へと回避する。
「今のうちに回復を……!」
「あぁ……そう……だな」
人間、死ぬ寸前にはこんな感じなんだろうか。
全身から力が抜け、もうどうなってもいいとさえ思える。”虚脱感”とでも言うべきか。
そんな俺の状況を見かねて、ミユが自らのストレージから回復アイテムを取り出し、使用する。
「ほら、もう大丈夫だよ」
「それより……通り魔は……大丈夫なのか」
襲おうとした相手がゆっくり回復している時間など、普通は与えようとしないだろう。
「わかんないよ……。だって、あんな装備を持ったプレイヤーなんて知らないし、職業も読めない」
規格外なのか、とも思ったが、それならそれでミユも「もしかしたら規格外かも」と言うだろう。
彼女でもわからない相手。そんな通り魔の姿を一目見ようと振り返る。
そして視界に入れた瞬間、全身が焼け付くような衝撃が一気に駆け抜けた。
「お前……嘘……だろ」
俺も数ヶ月前まで使っていた初期装備を身に纏い、両手にそれぞれ見慣れぬ短剣を持った少女。この世界特有の、オンラインゲーム風の見た目をしていても、見間違えることはない。
ーー如月香澄が、そこにいた。




