Act94-目撃
ーー翌日。
「おっはー!」
「……おはよう」
元気良く開け放たれたドアから現れた二人を見て、俺は真っ先に違和感を覚えた。
「おはよう。……って、ユズハ大丈夫か!?」
隣に立つフィリアと比較するとよくわかるが、ユズハの頬がうっすらと赤くなっている。
「え? あぁこれはね昨日ーー」
「ユズハ」
「はい何でもないです」
ーー……何があったのかはわからないが、詮索するのはよそう。
「ん、まぁいい。事件に巻き込まれたわけじゃなさそうだし、良かったな」
「そうだね」
既に俺の部屋に訪れていたミユと頷きを交わし、ほっと一安心。
「事件って、何かあったの?」
気になったのか、ユズハが質問してくる。彼女も事件に巻き込まれたような頬をしているが。
「昨日の夜、この街でも通り魔が出たんだって。もちろん街中じゃHPを減らすことはできないから、被害者は何とか助かったみたいだけど」
ユズハの問いに対して、この事件のことを友人から聞いたらしいミユが簡潔にまとめる。
俺がユズハの頬に驚いたのは、もちろんただの心配もあった。だが何より、この事件に巻き込まれたのではないか、という不安があったからだ。
「しかも、二人がいつも帰り道に使ってる通りの近くだって言うからさ、ほんと良かった」
「まぁ、私はそんなこと気にする余裕無かったけどね……だってフィ」
「ユズハ」
「ごめんなさい」
さっきから良く分からない漫才を続ける二人。
その後ろから、突然顔を出した人物がいた。ーーホノカだ。
「どうしたんだ急に……っていうか連れてきたのか!?」
「そろそろ我慢の限界みたいでね。今日の朝からずっと『お出かけしたい!』って騒がれたから仕方なく……」
四月に起こった”少女誘拐事件”(と勝手に名付けた)が解決した後、しばらくダンジョンに行くことがメインの活動だった俺たちのギルドは、ホノカにあまり構ってあげられる時間が取れなかった。
ユズハやフィリアの部屋で暮らしているため、もちろん彼女たちに遊んでもらってはいるだろうが、どうしても外に連れて行ってあげたりということは難しかった。
ホノカも子どもだ。さすがに飽きてきたのだろう。よく二ヶ月も我慢していたものだ。
「んじゃ、連れてくか。ここに置いておくわけにもいかないし」
「わーい」
「でも通り魔と戦うのに大丈夫なの!?」
「大丈夫……とは言えないけど、四人で守れば何とかなるよ、多分」
「そんな無茶苦茶な」
ミユの心配もわかる。昨日、”相手はスナイパーライフルを使用しているかもしれない”という仮説を立ててしまった以上、死角からの攻撃も視野に入れなければならない。
「四人でそれぞれ別方向を見張れば、そうそう不意打ちもできないだろう」
「ソウちゃん、昨日の話聞いてた……?」
そう言えば、昨日の噂話に出てきた三人組も似たような作戦を取っていたな。なんて今さらになって気づく。
けどそれは、まだ噂話に過ぎない。
真実なのかを実証するために今日の活動があるのだ。
「とーりまってなに?」
「まだ知らなくていい言葉だよ、うん」
興味津々のホノカをユズハが宥め、既に留守番させておくという選択肢は無いようだ。
アイコンタクトでミユにそう伝えると、彼女は渋々といった表情でホノカの同行を認めた。
「よし、じゃあ行くか」
「おー!」
乗り気のホノカを先頭にして部屋から出ていく。
「もうかえりたい」
「おい」
今、ホノカは最後尾を歩いている。
まだ森に入ってから五分と経っていない。ホテルからここに来るまでだって、せいぜい二〇分程度だ。
そんな短い間に、手のひらを返すようにホノカの気分が変わったとでも言うのか。
「あと少しだから」
「すこしってどのくらい?」
「少しは少しだ」
今時の子どもは飽きるのが早いんだろうか。せめて遊び道具でも用意しておくんだった。
とは言っても、この世界にはDSも無ければおままごとセットも存在しない。いや、おままごとセットくらいなら作れるかもしれないが、そもそもホノカの年齢に合った遊びとは思えない。
「そういや、ホノカって何歳なんだ?」
「じゅっさい」
「んー、難しい年頃だな」
現実なら小学四年生といったところか。俺ならその頃、まだレゴブロックで遊んでいたはずだ。
実際、俺も五年生でオンラインゲームに片足を突っ込むまでは、割と子どもっぽい遊びをしていた気がする。
「いつもどんな遊びしてたんだ?」
「ぼーるあそび」
確かに、出会った時のホノカはボールと戯れていた。でもそれはこの世界に来てからの話であって、現実世界でボール遊びをする女の子はなかなか少数派だろう。
「他には?」
「ほかには……えっと……おんらいんげーむ?」
ーーまじか。
この子、俺より早くオンラインゲームを始めてやがる。
その経緯を聞きたいのは山々だったが、今回の目的たる人物はそうさせてくれないようだった。
「……うわぁ!?」
「ユズハ、どうした?」
彼女の足元の地面では、何やら弾痕のようなものが煙を上げていた。
ーースナイパー……!?
ミユと同時に頷きを交わし、狙撃手が身を隠せそうな場所を目線だけで探す。
すると遠く離れた木々の間に、何やら大きな銃器を抱えた人物。じっとこちらを見据えている。
向こうもこちらの視線に気づいたのか、すぐにスコープを覗き始めた。
「来るぞ!」
マズルフラッシュを視認してから動いたせいか、わずかに回避が遅れ、右腕を超弾速の何かがかすめ取っていく。
「これが……通り魔……?」
「通ってないけどね……」
ユズハとミユが、そんな笑えない冗談を交わす。
「今のうちに隠れよう」
銃器の発砲には、弾薬はもちろんMPも必要になる。
スナイパーライフルというからには、弾薬はそう多くないだろう。しかも、ここまで強力な攻撃をしてくるからには相当のMP消費があるはず……。
そこから連射は不可能だろうと踏み、俺たちは迷わず暗い森の中を走り始めた。
途中、俺は奇妙な既視感を抱いていた。
向こうは特にフード等で顔を隠してはおらず、きっと近づけば素顔がわかるだろう。距離のせいでぼやけてはいたが、俺は遠くからでも違和感を感じた。
ーー俺は、あいつを知っている……?




