Act92-噂
「……っていう噂聞いたことある?」
「いや知らないけど」
ギルド会議中に突然始まったユズハの噂話に困惑しながらも、わずかな興味から話を広げる。
「でもさ、そういう噂ってどこから生まれるんだろうな」
「そりゃあ……。なんでだろ」
今度は噂話をしたユズハが困惑する番だった。
「その話のとおりだと、通り魔に出会って無事だったやつはいないんだろ? なんか矛盾してないか?」
確かに実際にありそうな噂話ではあるが、まるでその場から上手く逃げ出して来れたかのように、やけに詳しい情報が入った話だった。
ーーまぁ、肝心の通り魔は一瞬しか出てこなかったけど。
「あれ、ソウタ君。もしかして信じてる?」
「え……」
何だって。
「私は聞いた瞬間、『あ、作り話だ』って思ったけど……」
「あぁー。そうだよな! 作り話だよな! うん……」
少し間が空き、なんとか弁解しようとするが三人の視線が突き刺さる。
「きっとオカルトマニアか何かが作った、手の込んだ作り話だよな。うん。わかってたわかってた」
「明日行ってみない?」
俺の苦しい言い訳はスルーされ、何故か司会の座までもがユズハに移る。
「さんせー!」
「……行きたい」
「ソウタ君は?」
作り話だと連呼してしまった手前、「俺も行きたい!」などと元気よく返すのはなんか違う気がする。
「あぁ、行ってやっても……いいぞ」
「よし決まり。じゃあ今日はもう解散しよっか」
もう深夜だ。まるで怪談話のテンションで話し続けていたユズハが一番眠そうで、今にもテーブルの隣にある俺のベッドで勝手に寝てしまいそうだ。
「おいここで寝るなよ。頑張って帰ってくれ」
一瞬、送って行くべきか、とも考えた。
ここから一〇分程度で着くミユはともかく、ユズハとフィリアの生活するホテルはそれなりに遠い。
でもまぁ、いつものことだし。通り魔の話を聞いた後だけに不安はあるが、戦闘区域以外でダメージは受けないし。多分大丈夫だろう。
「ふぁあ……じゃあ、おやすみ。みんな」
「おやすみ」
「おう。二人ともおやすみ」
ユズハに肩を貸すようにして、フィリアと二人で部屋を出ていく。
ドアが閉まり、部屋に静寂が訪れる。
特に話すことも無いだろうし仕方のないことだが、ミユは基本話していないと気がすまない少女だ。
「私もそろそろ帰ろっかな」
まぁ、そうなるだろう。このままだと沈黙が続くだけだ。
だが俺はあえて、沈黙を破った。
「あ、最後に一ついいか?」
どうしたの? と言わんばかりに首を傾げるミユに、さっきの話題を吹き返す。
「ミユは……その、信じてるのか?」
「あの作り話のこと?」
俺の真剣な頷きに、少し考える様子を見せてから返答する。
「どうだろ。でも、やろうと思えばありえない話ではないよね」
「どういうことだ?」
「さっきのユズハの話を例にして考えるけど、まず”遠距離から即死級の攻撃を放ってきた”ってところが問題だよね」
「あぁ」
現状、NPCからそのような武器を買うことはできない。もし可能性があるとすれば三つ。
一つ目はプレイヤーメイド。まぁ、これはとりあえず除外してもいいかもしれない。
二つ目はボスドロップ。情報通のミユだって、この世界の全てを知っているわけではない。もし彼女の知らない種類の武器が現れても、何ら不思議ではない。
そして最後は、フィリアのような遠距離タイプの規格外の場合。これは完全に未知の世界であり、それこそ実際に戦わないとわからないだろう。
「ソウちゃん。現実世界で、人を一撃で殺せる武器があるとしたら、何だと思う?」
ーーなんて物騒な会話だ。
真っ先に浮かんだのは、昔父親の影響で見ていたロボットアニメでのワンシーンだった。
「……レーザー光線とか?」
「ふざけないで」
「すみません」
現実世界で、って言ってたな。現実にはビームでできたサーベルも無ければライフルもーー。
「あ、ライフル」
「そう。正解」
意外とあっさり答えを出してしまった。もっとボケ……いや考えようと思ってたのに。
「現実にも色んな銃があるけど、”一撃必殺”って聞いたら、まずスナイパーライフルを思い浮かべるよね」
「この世界にスナイパーライフルなんてあるのか?」
「わからない。けど、あの……ヒナタちゃん、だっけ? 彼女も持ってたけど、アサルトライフルが存在するなら可能性はあるよね」
「そっか……引き止めて悪かったな」
「じゃあ、おやすみ」
そう言って、静かに部屋を出ていく。
「……おやすみ」




