Act90-役決め
「それでは二三〇番からーー」
少しだけ開いたドアの影から顔を出して、白衣の男が淡々と番号を読み上げていく。
エントランスに座る私たちはそれを無言で聞き続ける。時には落胆のため息をつく人もいたが、声を上げる気力がある者は誰一人いなかった。
「ーーから、二五〇番の方。どうぞこちらへ」
「……来ちゃったね」
「あぁ」
周りが静かだっただけに、私たちの呟きがやけに大きく響いたように感じた。
私と誠也の番号はそれぞれ二三五番と二三六番。ようやく「パラレルコネクト・オンライン」の世界へと足を踏み入れることになる。
先ほどのチュートリアルから、待ち時間にして数十分。これを長いと見るか、短いと見るか。
「短い……ね」
「どうした?」
「何でもない。行こう」
あちらの世界と現実世界の時間の進みが異なっているとはいえ、こんなにも早く補填が必要になるのだろうか。
ーーもし……既に失われた被験者の中に、兄が入っていたら。
行けばわかることだが、どうしても考えてしまう。
白衣の男に誘導されるがまま、二〇人の被験者が薄暗い部屋へと連れて行かれる。
「それでは、番号に対応した個室へどうぞ」
言葉と同時に、部屋に明かりが灯る。
「うわ……」
部屋だと思っていた巨大な空間は、まるでシャワールームのような個室によって区切られており、ドアには三桁の番号が振られている。
せまい通路を進んで行き、自分たちの個室の前に着く。
「じゃあ、後で」
「おう。会えたらな」
「絶対会いにきてよ」
その会話を最後に、私は躊躇いながら二三五番の部屋に入る。
「……」
まず目の前に飛び込んできたのは、赤い小さな椅子と、壁に取り付けられたテーブル。その上には明滅する機械が置いてあり、第一印象は診察室のようだった。
監視カメラらしきものも天井に取り付けられていて、何だか誰かに監視されているようだ。まぁ、そのためのものだけど。
一通り確認し終えたが、まだ気がかりな点がある。
「あれ?」
機械の操作方法が、どこにも記載されていない。
目の前のコンピュータらしきものの画面には、赤や黄色、緑といった様々な色の明滅しか表示されておらず、マウスも無ければキーボードも無い。
学校の授業で少し触れただけの私でも、使いこなせるものだといいけれど。
とりあえず赤椅子に座ると、すぐに変化は訪れた。
コンピュータの画面に”Welcome!!”の文字列が映る。良かった、私でも読める英単語で。
だがーーそこまでだった。
「うわ……なんじゃこりゃ」
一番上の”Role set up”に始まり、見たこともない単語が羅列されていく。一つ一つのアルファベットは読めても、それらが組み合わせると何が何だかわからない。
英語の隣には”(1)”や”(2)”のような表記があり、これではまるでーー。
「役決め……?」
小学校で毎年行われていた学芸会で、似たような雰囲気のプリントを何度も見たことがある。
上は主役級なのか(1)や(2)の文字が多く、下の方に進むにつれて(10)や(20)が増えているようだ。多いのは村人Aとかそういう役だろうか。
既にいくつか埋まっているものもあり、それは私たちより前に呼ばれた補填被験者が選んだということは、私でもすぐにわかった。
”Dungeon Boss”、”Extra skill player”。
ーーダメだ、読めない。
しばらく画面と睨めっこし、唯一知っている英単語を見つけた。
”Twin Berserk Fencer”
「ついん……べ、べー……うん無理だ」
全て読めなくても、最初の単語だけはわかった。
どんな役なのかはわからないが、人数が(2)となっていたのも決定打だった。
もしかしたら、誠也もこれを選んでいるかもしれないし。
本当は大声を出して隣の部屋にいる弟と相談したいところだが、こういうのは自分で決めるべきだとも思う。
「これでいっかな」
マウスが無く、スマートフォンを使い慣れていることもあり、反射的に画面をタッチしてしまう。
「あ……」
どうやら正しかったようで、”Final Answer?”の文字と”Yes&No”の画面に移行する。
何だか昔のクイズ番組で見たことがあるような英語だ。迷わずYesを選択してーー。
私の意識はそこで途切れた。




