表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラレルコネクト・オンライン  作者: yuto*
パラレルコネクト・オンライン標準時:5月
88/118

Act87-反撃

 しばらくサンドバッグとなっていたモグラのHPが、ついにレッドゾーンに突入した時だった。

「あれ……?」

 おかしい。さっきから同じペースで攻撃を撃ち込んでいるはずなのに、ある時点を境に敵のHPが変わっていない。

 隣に立つショウヤもそれに気づいたようで、顔を見合わせて首を傾げる。

「ストッパー的なシステムがあるのかな?」

「わかんないけど、とりあえず皆に伝ーー」



「グォアアアアアッ!!」



 俺の言葉を遮るように、野獣の咆哮が大広間に響き渡る。それが、今まで動かなかったモグラのものだと気づくのに数秒を要した。

 ーー逃げなきゃ……。

 目の前で咆哮を受け、真っ先にそんな考えが浮かぶ。

 だが、身体が動かない。

「なん……で……」

 そこでとある可能性に思い至った俺は、左上に浮かぶ自らのHPバーを注視する。


 まだ減少していない緑色のバーの下に、赤文字でうっすらと”W”の表記。

 ”Wince”ーーいわゆる、怯み状態だ。


 「パラレルコネクト・オンライン」のアプリケーション上による説明では読んだことがあるが、実際に受けるのはこれが初めてだ。

「ショウヤは大丈夫か!?」

「あぁ、それよりお前が……」

 不幸中の幸いと言うべきか、ほぼ同じ距離で咆哮を直に受けたショウヤは確率による回避が成功したようで、俺の心配をする余裕があるようだ。


「いいから早く逃げろ!」

 全身の中で唯一動く口を使って離脱を促す。


 俺のオンラインゲームの経験上、こういったスタン系攻撃の後には大技を放ってくることが多い。

 同時に隙を見せることになるため、攻撃対象はもれなくスタン状態のプレイヤー。反撃される心配が無いからだ。

 とはいえ、今この場所には俺以外に六人のプレイヤーがいる。巨大モグラにもそれは見えているだろうが、まず確実に潰せる俺を狙ってくるだろう。

 そこまで考えたところで、ようやくモグラが巨体を揺らして前進を開始する。

 怯んでいてもわかるほどの地響きが、俺の三半規管までも麻痺させる。


 そして俺の目の前で止まると、大木ほどもありそうな右腕を振り上げーー思いっきり振り下ろす。


「ソウタ君、危ない!」

 予想通りといえば予想通りだが、ユズハが迷わず障壁を展開する。今まで何度もこれに救われてきた。


 だがーー。


 モグラの右腕が触れた刹那、ガラスが割れるような音を響かせながら障壁が四散した。

 ユズハのイメージ力が弱かったわけじゃない。このボスの一撃が強すぎたんだ。

「くっ……!」

 威力減衰がほとんどされなかった右腕がそのまま直撃し、俺の身体はボロ切れのように宙を舞う。

 視界の端のHPバーが恐ろしいスピードで減少し、辛うじてレッドゾーンで停止する。数値的に、レベルがあと3低かったら即死圏内だった。それはつまりーー。


 ーーここにいる俺以外が同じ攻撃をもらえば、間違いなく即死する。

 それを伝えるべきか否か。


 迷っている間にも、モグラはゆったりと前進を続けている。

 下手に恐怖を与えれば、動けなくなるものも出てくるかもしれない。特にメイとか。

 ただでさえ今、精神的に辛い状況にある彼女がそんな情報を聞いたらーー考えるだけでも恐ろしい。

「大丈夫、ソウちゃん!?」

 ちょうど入り口近くまで吹っ飛んでしまった俺のもとに、ミユが駆け寄ってくる。

 これでメンバー全員が、俺の声が届く範囲に集まったことになる。もし伝えられるチャンスがあるとすれば、今しかない。

「あぁ、大丈夫だけど……」

「……だけど?」

 俺に治癒(ヒール)を施しながら、最も不安要素の強いメイが自ら質問してくる。

 ーーダメだ。

「何でもない。ヒールありがとな、メイ」

「……」

 なおも何か言いたげな様子だったが、俺はそれを聞かずに身を翻し、再び巨大モグラの前へと走った。



「……おい、ソウタ!」

 少し遅れて駆け寄って来たショウヤが、近距離でしか聞こえないほどの声量で俺の名前を呼ぶ。

「なんだよ」

「いや、メイが……」

 ショウヤも気づいていた。メイが何かを言いかけていたことに。


 しかし俺はあえて話題を変える。空気を重くしたくなかったというのもあるが、何より同じく前衛に立つ彼には伝えておくべきだと思う。

「なぁショウヤ。さっきの攻撃さ、どのくらいHP削られたと思う?」

「え……。まぁレベル差っつっても10程度だろうし、半分くらいか?」

 いきなりの話題転換に戸惑いながらも、敵味方の情報をしっかり考慮した上で答えを示す。

 妥当だ。妥当過ぎる。

 俺も自分で経験していなければ、きっと同じような答えを返しただろう。

「……九割だよ」

「……は?」

「俺のHPは九割削られたんだ。あとレベルが3低かったら即死だよ」

「そんな……。ってことはもしかしてーー」


 そこで俺と同じ考えに至ったようだ。”ソウタだから耐えられた”、と。


「そういうことだ。今のメイに伝えるのは得策じゃないだろ?」

「確かに……でも何で俺にだけ?」

「そりゃまぁ、前衛で同じ危険と戦うわけだからな。というか、多分高月さんとメイ以外は言わなくても気づいてると思うけど」

 言いながら、自分のHPバーの少し下ーー小さく三本並んだパーティメンバーのHP欄に視線を合わせる。

「あぁ……」

 同じパーティに属していれば、自分以外のHPバーのおおよその値を知ることができる。

 きっとユズハ、ミユ、フィリアの三人は俺のHPバーが一瞬でレッドゾーンに陥ったのを見ていただろう。

「だから気をつけろ。どうせ物理攻撃は効かないんだ。だったら、ひたすら当たらないように囮で動くしかない」

「……わかった」


 そこで会話を終え、再び銃剣を握り直す。


 ーー当たれば死ぬ。残り時間は一〇分。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ