Act85-既視感
意外なことに、ボスはすぐに姿を現した。
この手のモンスターはずっと潜っていれば強いのに、何故出たがるんだろう……といつも思う。
『Plant MoleーLv.75』
その名に違わず、植物とモグラをかけ合わせたような巨体は赤銅色の胴体から多くの触手を伸ばしていて、それらが自らの大きな体躯を支えているようだった。
どれが足なのか、どれが腕なのか。……は別に気にしなくてもいいか。
それらの長さは後衛まで届く心配は無さそうだが、数が多いため遊撃のミユが危険だ。
まずはヘイトを俺たちに向けさせないと……。
「行くぞ、ショウヤ!」
「おうよ!」
こうしていると、何だか小学生の頃を思い出す。まだオンラインゲームを始めたばかりで、とにかく敵に特攻することが楽しかった、あの頃を。
ーーけど今は違う。
生身の命がかかった戦いだ。
白銀の銃剣と漆黒の剣が別方向からボスに突き刺さる。半ば予想していたことだが、ダメージはほとんど無い。きっとどこかに弱点があるのだろう。
そう考えた時、ボスを挟んで反対側から声が飛んだ。
「ヒナタ、頼んだ!」
「わかった」
まさに以心伝心というべきか。ショウヤの「頼んだ」だけで彼の意図を理解したのだろう。
それを証明するかのように、高月さんは自らの小柄な見た目に似合わない、無骨なアサルトライフルで斉射を開始した。
俺たちの剣戟音をかき消すような轟音を響かせながら、無数の弾丸がボスモンスターのあちこちにヒットエフェクトを生み出す。
「ショウヤ、頭と右から二番目、五番目、七番目の触手!」
「よし、でかした!」
俺たちには見えないが、攻撃によるダメージを与えた本人には、一瞬だけクリティカル表示が現れる。
適当に撃っているように見えて、高月さんは手数の多さを活かしてしっかり弱点を探していたのだ。
「ソウタ、聞こえたか!?」
「あぁ聞こえてる。俺は二番目の触手を狙うから、ショウヤは七番目を頼む! ーー頭はフィリアとユズハに任せる!」
後半は出入り口付近で援護する後衛組に伝え、すぐに目的の触手を注視する。常に動いているため、しっかり見ていないと、どれがどれだかわからなくなりそうだ。
「ソウちゃん、私は!?」
口頭で役目を与えられなかったミユは、忘れられたように聞き返してくる。
俺も本当はミユに五番目の触手を頼みたかったが、彼女の得物である”片手斧”は俺たちのような”剣”よりわずかに取り回しが劣る分、火力が高めに設定されている。ーーもちろん武器ごとの誤差もあるため一概には言えないが。
そのため、全員で同時にボスのウィークポイントを攻撃した場合、下手したら俺たちの火力を上回ってヘイトが向いてしまう危険性がある。
それを今すぐ簡潔に表すのは難しいし、ショウヤと高月さんのような意思疎通ができるわけでもない。
「えーと……」
「わかった!」
まだ何も言ってないぞ、おい。
あと、なんで斧を振りかぶってんだよーーあ……。
「えいっ!」
気合いの一声とともに、唯一の片手斧を放り投げる。なんだか既視感のある光景だが、もちろん俺が意図したものではない。
前に見た時と同じくーーあの時はユズハだったがーー、綺麗な放物線を描いてモグラの頭にヒットする。
てか頭なんかにクリティカルしたらーー。
「ガァァァァッ!」
おおよそそんな感じの叫び声を上げながら、全ての触手をミユに向けて伸ばす。もちろん射程圏内だ。
「あ、やばっ」
若者らしく簡潔に危機的状況を表すミユに触手が届くのと、その間に薄い障壁が割って入ったのはほぼ同時だった。
ーーユズハだ。
「ふぅ……間に合った」
さすがは過去に同じ過ちを犯したというべきか。素早く敵の反応を察知するとは、流石の一言だ。
「ありがとー!」
「いえいえー! 頑張ってー!」
なんて危機感の無い会話なんだろうか。いや、それよりも早くヘイトを取り戻さないと。
再び、俺とショウヤはそれぞれの触手に向かって斬りかかった。




