Act84-第一関門
「ユズハ、魔法でなんとかならないのか!?」
「私そんな万能じゃないんだけど!」
全力で走りながら、そんなやり取りを交わす。
”魔法”という奇跡を唯一持ち得る彼女に助けを求めたくなるが、ユズハはあくまで”妖術師”であって、”魔法使い”ではない。
続けて放った「せめてこの空間を明るくできないか?」という問いには、「……闇魔法って光る?」という訳のわからない解答が返ってきた。ダメだこりゃ。
「ソウタ、あそこ!」
突然別の方向から声をかけられ驚くが、ミユだとわかると少し安心する。
「いやどこだよ!?」
しかし、どこかに指しているのであろう彼女の指先は全く見えない。
「んーと、ほら、あそこ!」
機転を利かせ、携帯端末の明かりで自らの指を照らして方向を指し示す。
彼女の指さす先、入ってきた階段とは別の方向に、小さな光点がうっすらと見える。出入り口が一つしかないダンジョンにおいて、それが別の出口でないことだけはわかった。ーーとなると。
「何かの……スイッチ?」
あれを押すとボスモンスターに大ダメージ! ……なんてことがもしもあったら俺は怒る。そんなつまらない仕様にした運営にクレーム入れるぞ。
きっと、ここの明かりか何かのスイッチだろう。
「フィリア! 今の話聞いてたか?」
「ん、闇魔法が光るとこまで聞いてた」
ーーそこかよ。しかも光らねぇよ。
心の中でツッコミを入れながら、簡単に目的を説明する。
「了解、あれを撃てばいいのね?」
「あぁ、お前の球体なら遠くからでも狙えるだろ」
「わかった」
暗闇の中で、ジジ……という機械音が鈍く響く。
そして闇を切り裂くような一条の光が、ターゲットのスイッチに向かって射出される。
パリンッ……。
なんかヤバそうな音がした気がするが、先の予想に違わず、大広間を隅々まで照らす大きな明かりがそこらじゅうに灯る。
今まで暗くて見えなかった内装は整った石造りで、まるで遺跡のような趣があり、普段俺たちが潜っている洞窟のようなダンジョンとは少し雰囲気が異なっている。
元が綺麗な石造りだったことを踏まえると、ボスモンスターによってデコボコにされてしまった地面がなおさら悔やまれる。けどまぁ、どうせ壊れるものではあるけど。
「よし、これで戦える。とりあえず皆集まってくれ!」
ボスモンスターの爪痕が残る不安定な足場を乗り越え、七人のプレイヤーが一箇所に集まる。
「ここからは俺とショウヤが注意を引き付ける。後衛の三人とユズハは、できるだけボスが来なさそうな出入り口付近で攻撃してくれ」
「りょーかい!」
駆けていく四人を見送りながら、片手で端末を操作し、武器を呼び出す。
「シルバリック・ブレイド」。もはや片方だけになってしまった白銀の銃剣を見つめながら、深く息を吐く。
さすがに「一本壊れちゃった。すまん」とミユに報告した時は想像以上に怒られたが、高月さんを助けるためだ、と弁解したところ、何故かあっさりと解放されてしまった。
彼女曰く、「全く同じのを作れる保証はないけど、できるだけ頑張るから、もう壊さないでね」だそうだ。
タダで武器を使わせてもらっている身なのに、本当にミユの優しさにはいつも救われる。
「……なんか変なこと考えてない?」
「いや。ミユって優しいよなって」
「えっ……」
まさか本人に対して直接言うことになるとは思わなかったが、別に隠すことでもない。感謝しているのは事実だ。
気恥ずかしそうに俯くミユから視線を外し、俺は「よし」と前置きしてから、気持ちを切り替える。
「じゃあ俺たちは……っと」
「まぁ今は囮だわな」
ショウヤからもっともな解答が来る。前衛とはいえ、敵の姿が見えないならやることがない。
「私も囮やろうか?」
「いや、危ないよ……と言いたいとこだけど、後衛組のところにこれ以上人数増やしたらあっちが狙われかねないからな、頼んだ」
「おぅけぃ」
「……それマイケルだっけ?」
「いいや、ダニエルだよ」
ミユの店を手伝っている外国人らしきNPCを思い出し、苦笑する。
「それじゃ、俺たち三人で大きく広がろうか」
大広間で巨大な三角形を形作るように広がり、どこから来ても迎え打てるような準備をする。
ーーあと四五分。まだ全然余裕だ。




