Act83‐地下の地下
「うぅ……怖いねぇ」
二人ほど通れる横幅しかない階段を慎重に降りて行く俺たちの耳に、ユズハの震えた声が反響する。
設置されている明かりの類は無く、自分たちの携帯端末による光でどうにか視界を確保している状態だ。
さすがにこんな狭い通路でモンスターが出てくるとも思えないが、どうしても薄暗さによる恐怖は感じてしまう。
先頭を歩く俺は、皆を落ち着かせるつもりで声を出した。
「あと少しで大広間に着く。作戦はセオリー通りに俺とショウヤが前衛、ミユとユズハが遊撃、フィリアとメイとヒナタには後衛を頼みたい」
各々の職業を考えた時に、これが一番安定しそうな気がする。片手斧を主武器とするミユも前衛に置きたかったというのが本音だが、まだ戦闘経験の浅い彼女をボス前に出すのは危険だ。
そこまで考えたところで、後方からミユの質問が飛んでくる。
「ねぇ、ゆーげきって何するの?」
「前衛の俺たちがボスを引き付けるから、その死角から近接攻撃を叩き込んで欲しいんだ。だからミユは”前衛寄りの遊撃”だと思っといてくれ」
「うん。何となくわかった」
すると、ユズハがすかさず「じゃあ私は”後衛寄りの遊撃”ってところかな」なんて呟いていた。彼女にしては理解が早くて助かる。
ちなみに後衛職三人は言わずもがな。弓兵ーーなのに何故かアサルトライフル装備ーーの高月さん、高位治癒師のメイ。そして球体術者のフィリア。
フィリアの普段の立ち位置は遊撃だが、攻撃手段の無いメイのことを守るために判断力の高い彼女を後衛に回したのは、我ながらいい判断だったと思う。
ーーあとは、銃剣士の俺と剣修士のショウヤがどれだけ敵のヘイトを集められるか……。
ボスモンスターの事前情報は、時間限定であること以外は全く無い。もし遠距離攻撃を多用してくるような敵だった場合、防御魔法を使えるユズハを後衛に回して守りを固める必要も出てくる。
そう言った咄嗟の判断が、俺にできるのか……。
いやーー、考えても仕方が無い。
覚悟を決めた俺の右足が、今までとは違う材質の地面を踏んだ。
「気をつけろ、着いたぞ」
「もうどこから襲われてもおかしくないんだよな……」
すぐ後ろを歩くショウヤが早くも弱気なコメント。
せめて二足歩行かそれ以外なのかがわかれば、おおよその出現位置も掴めるというのに。
ーーどこだ。どこから来る……。
まさに一寸先は闇の状況で、どこから襲われるかわかっていても確実に防御できる自信は無い。
「こういう時って、上から来ること多いよねぇ」
のんきにそんなことを呟くミユに釣られ、地下とは思えないほど高い天井を振り仰ぐ。
暗さのせいもあるが、何も見えない。
「んー、どこかにはいるはずなんだけどな」
辺りに気配は無く、頭上でもない。ーーとなると……。
「きゃっ!」
突然聞こえた悲鳴に振り返る。すると、メイの端末に照らされた、彼女の近くの地面が深く抉れていた。
「まさか……下だ!」
「えぇぇぇ!? 見えないよ!」
「とにかく走れ! 暗いから壁に気をつけろよ!」
立ち止まっていたらやられる。どうにかして地上ーー地下だけどーーに誘い出さなければ、前衛も後衛もあったもんじゃない。
それぞれが自分の端末の明かりを頼りに走り出す。時折、ガツン、という音が大広間に響き渡る。
ーー時間限定ボスにしては、最悪の環境設定だ。
あと五〇分。
それが俺たちに与えられた制限時間だった。




