Act75‐変われたこと
ーーまた、だ。
さっきもそうだ。普通に会話している最中に異変が起こり、そこからは迷いなく戦う冷酷な少女に変貌してしまった。
アスカが”黒幕”と称していた何者かによる仕業だろう。
しかし、ここまでの流れを知らないショウヤがそれを察知できるはずもない。
「ヒナタ……?」
呟きながら、次第に前へと進んでいく。
ダメだ、逃げろ、と言わなきゃいけないはずなのに、何故か今のショウヤは誰の言葉も受け入れないような、そんな雰囲気がある。
「……来、ないで」
震えながら声を振り絞る高月さんの制止も聞かず、何かに取り憑かれたように足を動かしている。
自分の弱さ故に、二ヶ月も会うことを許されなかった少女にようやく会えた。ショウヤにとっては、ずっと待ち望んでいたことなのだろう。
でも、今の高月さんにショウヤの声は届かないーー。
互いの距離が一メートルを切ったあたりで立ち止まり、そっと彼女の「D・アサルトライフル」の銃身に触れる。
きょとんと見上げる高月さんと視線を合わせながら、静かに語り始めた。
「覚えてるか? ヒナタ。お前最初は、銃なんて怖いから嫌だ、って言ってたよな。初期装備のハンドガンすら怖がってさ……」
そう呟く表情はこの位置からでは見えない。俺とアスカは二人の顛末を見守ることしかできなかった。
「だから、ずっとお前に謝りたかったんだ」
「……私に?」
「あぁ。そもそも、こんな戦いだらけの危険な世界にお前を誘ったのは俺だ。あの時、興味本位で二人を誘ったことを今でも後悔してる」
メイと高月さんを誘ったのがショウヤだということを、俺は今まで知らなかった。まぁ二人の普段の姿をある程度知っていれば、自ずと予想できそうではあるが。
「(あの二人、なんかあったの?)」
完全においてけぼりを食らっているアスカが、たまらず問いかけてくる。
とはいえ、ショウヤと高月さんの関係についての知識が小学生時代で止まっている俺に、答えられることは皆無だ。
「(……正直、俺にもわからん)」
「(あら……)」
音速で会話が終了し、二人の行く末を見守ることに徹する。
「俺が誘わなければ、お前もメイもこんな目に遭わなくて済んだんだ。……ごめんな」
時が止まったように静寂が訪れる。それを破ったのは、今までじっと話を聞いていた高月さんだった。
「私は、後悔してない」
「そんなわけ……」
「本当。私はここに来ることができたおかげで、強くなれた。だから、ショウヤには感謝してる」
今度はショウヤが押し黙ってしまう番だった。
「メイと一緒によくわからない人に捕まって、二ヶ月間、何もできなかった。でも脱出する時、私の心が成長していたことを感じることができた」
「心?」
「そう。今までショウヤについて行ってばかりだったけど、初めて人の前に立って、自然に行動することができた」
そんなことがあったんだなぁ、と感心する俺の傍らで、”よくわからない人”は何とも微妙な表情をしている。
「だからーー、ありがとう」
その一言で締めくくった高月さんの声からは、もう何かに操られているような冷酷さは感じられなかった。
その後一言二言の小声を交わし、銃を床に置いて俺たち二人の前に出てくる。
一瞬身構えたが、彼女の取った行動はお辞儀だった。
「あなたたちのことはよく知らないけど、まずは攻撃してごめんなさい」
そこで疑問を抱いたのは、他でもないショウヤだ。
「なぁヒナタ、女性の方はともかく、ソウタのこと覚えてないのか?」
「知らない。名前だけは覚えたけど」
これが本当なのか嘘なのか定かでないが、今はとりあえず戦いを終えたことの安堵感の方が強かった。
しかし、アスカは、まだ何かを気にしているようだ。
「どうかしたか?」
「忘れたの? 黒幕の存在を」
そういえば、高月さんを操っていた何者かの正体はまだ判明していない。
「さっきのやり取りで消えたんじゃないのか?」
「あんたね……そんな都合よく……」
『消えるわけないだろ』
部屋に響いた重低音の声が、俺たちに再び緊張感を与える。
『もうそいつは返してやる。ーーだが、このままこの屋敷から出られると思うなよ』




