Act73-届いていますか
ーーヒナタ……どこにいるんだよ。
もう随分と時間をかけて探しているが、ヒナタどころか手がかりすら見当たらない。
通りかかったプレイヤーに写真を見せながら「この子を知りませんか」と聞いた回数は、もう数えることすら疲れるほどだ。
「くそッ……」
二ヶ月前にメイと一緒に連れ去られた幼なじみのことだけを考えながら、なおも捜索の範囲を広げていく。
ーーあいつは、俺がいないと何もできないんだ。
昔からそうだった。いつも俺の後ろを、一定の距離を保ってついて来る。
そこから近づきもせず、遠ざかりもせず。
人生の半分以上をそんな生活で占めていたヒナタが、右も左もわからない異世界のどこかで取り残されている。
「……急ぐか」
フレンドリストにまだ彼女は存在している。決して死んだりしてはいない。
一瞬でも立ち止まってしまった自分に憤りさえ覚えながら、捜索を再開しようとした時だった。
まず、視界の端で何かが光った。
誰かが街中で魔法でも使ったんだろうか、なら別に気にする必要はないか、とも思った。
ダメージの発生しない街中で、覚えたての魔法の練習をするプレイヤーは多い。
だが俺の意思とは裏腹に、無意識に首がそちらに向いていた。
そして、見たものに言い表せない不安感を覚えた。
「なんだよ……これ」
さっきまで何もなく通り過ぎた建物の壁が、小さく裂けている。
巨大な斧が振り下ろされたような、何とも不規則な壁の裂け目は青白く、ずっと見ていると視力に悪影響が出そうな気がするほどだ。
しかも、ただの裂け目じゃない。
間から除き見える裂け目の奥は歪んでいて、まるで別の次元にでも飛ばされそうな感じがする。
「いやいやいや」
ゲームだと裏世界とかの入り口だったりしそうなものだが、同じくらいの確率でトラップの可能性も捨てきれない。
心中でそんな葛藤を繰り返す俺の身に、立て続けにもう一つ予想外の出来事が起こった。
『お願い……、早く来て!』
裂け目の奥から聞こえてきた女性の声に、俺の心はさらなる警戒態勢に入った。
「すっげぇ怪しい……」
でも、もしかしたら何かがあるかもしれない。ヒナタに関わる手がかりが。
もちろん確証はない。むしろ罠の方がありえる話だ。
「どうする……」
どうせこのまま探し続けたって見つかる可能性は低い。唯一の頼みだったメイの様子がおかしくなったのも気になるが、それもヒナタを見つければ解決するだろう。
ーー行こう。
今まで情報ばかりに頼っていたため、自分でこんな決断をしたのは久しぶりともいえる。
「頼むぞ……いけっ!」
自らを鼓舞し、勢いよく裂け目に飛び込む。
次の瞬間、俺の身体は見たことない森の中に降り立っていた。




