Act72-光
俺は一歩前に進み出て、改めて小柄な少女と対峙する。
「……こ、来ないでッ!」
臆するどころかむしろ近づいてきた俺を見て、気圧されたように彼女の右手がトリガーから離れる。
「私と本気で戦うつもりなの?」
呟くように言った声が震えている。
高月さんが現実世界で物静かだったのは、争い事が嫌いだからなんだということを、俺はショウヤから聞かされたことがある。
「お前が望むなら、な」
戦うことを嫌う彼女が、そんなことを些細に思えるほどの殺意を持って俺たちに向かってくるのであれば、こちらも相応の覚悟が必要になる。
念のため、もう一本の「シルバリック・ブレイド」をいつでも取り出せる状態にしておく。
部屋に流れる一瞬の沈黙。
いきなり結論を出させるのは酷だっただろうか。
これ以上の会話は続かないと思い、地雷とはわかっていても、あえて別の質問をぶつける。
「一つだけ、質問に答えて欲しいんだ。いいか?」
「……それは内容による」
ーーきっとアウトだろうなぁ。
どうか高月さんの右手が暴発しませんように、とだけ神に願い、用意していた言葉を口にする。
「どうして、俺たちを”殺す”必要があるんだ?」
さっきは無言で答えてくれなかった質問に近しい内容だ。要は”俺たちを殺した”先の未来に何が待ち受けているのか、俺はそれが知りたかった。
俺が「一つだけ」と前置きしたのが効いたのか、今度はすんなりと答えを返してくれた。
「そうしないと、ここから出られないから」
「それは誰かの命令なのか?」
「もう答えないよ」
流れで二つ目の質問に行こうとしたが、何とも律儀なやつだ。
ーーでも、重要なヒントを得ることができた。察しのいいアスカも理解しているはずだろう。
まず、この屋敷の主は高月さんではない。何らかの方法で俺たちの行動にアプローチできる存在であったとは思うが、少なくとも彼女主体で屋敷を動かしていたわけではない気がする。
きっと黒幕がいる。そいつが高月さんに指示を出しているんだ。
そこまでの推論を展開したところで、ふと後ろに違和感を感じた。
チラリと視線だけを送ると、アスカが何やら小声で詠唱を行っていた。会話や推理に夢中になって全然気づかなかったが、俺は高月さんとのやり取りに集中しないと。
「……答えは出たか?」
きっと、俺が変な挑発をしなければ、彼女は”ここから出たい”の一心でアサルトライフルの斉射を再開しただろう。本人にとっては、その方が楽だったかもしれない。
でも、それは本当の高月さんじゃない。
何かに流されて自分の行動を決めるなんて、彼女らしくない……わけではないが、あくまで彼女の”何か”は他でもないショウヤだけだったはずだ。
「私は……」
その時だった。
まるで雷にでも打たれたかのように高月さんの体がピクンと跳ね、瞳に不吉な光が宿る。
「ヒナ……タ?」
無言でアサルトライフルの銃口をこちらに向ける。その表情に迷いはなく、いつ撃たれてもおかしくはない。
無意識に近づこうとした俺を、アスカの声が制す。
「黒幕が何か仕掛けたのね」
詠唱を終えたのだろうか。何かが起こったような感じはしないが、今はそれどころじゃない。
「黒幕って……どうすれば……」
見えない敵に対抗する術など無い。高月さんと直接戦って無力化すれば何かが起こるかもしれないが、下手をすれば殺してしまうことになる。
「私も一応手は打ったけど、今はとりあえず凌ぐことだけ考えることねーー来るわよッ!」
「凌ぐって言ったって……!」
待機状態だった「シルバリック・ブレイド」をさっきと同じ構えで呼び出した俺に、再び銃弾の雨が襲いかかる。
「いつまで凌げばいいんだッ!?」
「知らないわよッ! 私も手伝うから、できるだけ頑張って!」
その言葉とともに、俺の得物より少し相手に近い位置に円形の膜が出現する。
無色透明のその膜は、降り注ぐ銃弾のいくつかを包み込み、無効化しては地面に転がしている。
ーーお願い……、早く来て!
アスカの願いは、自らの詠唱とともに別世界の少年の元へと飛翔した。




