Act71-逃げない力
「下がれ、アスカ!」
俺は端末を取り出すのももどかしく、ショートカット設定してある「シルバリック・ブレイド」を装備し、刀身を相手に向けたまま縦に構え、防御の体勢を取る。
直後、今までシューティングゲームでしか聞いたことのなかった連射音が鼓膜の感覚を鈍らせる。
「くそっ……、耐えろ!」
しかし両手に絶え間なく伝わる衝撃が、”これは現実だ”とでも告げているかのようだ。
ーーはは……、これじゃミユに怒られちまうな。
眼前に構える得物の輝きが次第に鈍くなっていく。耐久値が下がり続けている証拠だ。
この世界では攻撃力が「ゼロ」でない限り、必ず最低ダメージが保証される。
それは武器相手にも同じことで、例えばダメージ設定されている木の枝ーーこの世界の大半の木の枝は武器ではなくただのオブジェクトとして設定されているためかーーで「シルバリック・ブレイド」を叩き続ければ、いつかは破壊することができるというわけだ。
つまり連射武器で一斉射撃を浴びせ続ければ、いくらメンテナンスを終えたばかりの武器だってーー。
パリィン……!
爽やかな音を立てて「シルバリック・ブレイド」が赤いポリゴン片に変わり果てるのと、相手のアサルトライフルの斉射が止むのはほぼ同時だった。
「ソウタ……」
プレイヤーメイドの得物を失った俺を気にかけるように、アスカが何やら言いかける。
虚しく空いてしまった右手でそれを制し、まだ殺気が収まっていない様子の相手を真っ直ぐに見据える。
「……そんな武器があるなんて聞いてねぇぞ」
「諦めるなら今だよ」
そう言って、改めて無骨な銃器を構え直す。あとは銃弾をイメージして引き金を引かれれば、今度こそ俺たちはゲームオーバーだ。
もう一本の「シルバリック・ブレイド」を使う手もあるが、ショートカット設定していないそちらは取り出すのに時間がかかる。
「ここでお前たちを殺せば、私は……もう一度……」
その発言に不穏な気配を感じ取った俺は、意味のない時間稼ぎとはわかっていても会話を続ける。
「もう一度……何だよ?」
しかし、高月さんは口をつぐんだまま答えない。答えの代わりなのか、引き金に右手の人差し指をかけているのが見える。
「逃げて、ソウタ!」
”二人とも助かる道は無い。俺が囮になるから、お前が逃げてくれ”。
そんな反論をしようとして、ふと前にあった出来事を思い出す。
ーー前にも、こんなことあったよな……。
この世界での初戦で、俺はユズハを逃がそうとした。でもあいつは、逃げることなく俺と一緒に戦った。
”逃げてくれ”なんて言葉を間に受ける人間を、俺は今まで見たことがない。そんな危機に出会った回数がそもそも少ないけど。
きっと、誰かを見捨てたい人間なんていない。
後になって必ず後悔してしまうから。
”逃げる”ことが後悔なら、”逃がす”ことも後悔だ。
だから俺は後悔しないために、アスカに言う。
「大丈夫だ、俺に任せろ!」




