Act68-声
「ーーちょっと、起きなさいよ」
「ん……メイか……?」
虚ろな意識の中で何とか出てきた名前を口にするが、すぐにパシン、という快音と痛みによって我に返る。
「何を寝ぼけてるの。私よ」
「あぁアスカか」
「不満なの?」
「いや、俺を助けてくれたんだろ? ここはどこなんだ?」
今、俺が横たわっている部屋は、さっきとは別の部屋だ。狭苦しい玄関だったはずなのに、ここは応接間のような広い造りになっている。
おそらく、彼女が気を失った俺をここまで運んできたのだろう。
しかし、アスカはすぐに否定した。
「いいえ、私も助かった側よ。それに忘れた? この屋敷はヒナタさんの意思で形を変えるって」
「じゃあここって……」
「まだ玄関よ」
「はぁ……いや、ちょっと待て」
まだ事が進んですらいなかったことに対する落胆のため息をこらえ、一つの進展を口にする。
「屋敷が変化したってことは、ヒナタが動き出したってことか?」
「その表現は微妙だけど……まぁ、そういうことになるわね」
一時的に会話が止まるが、アスカが「そういえば」と前置きしてから再び会話のきっかけを作る。
「あなた、何か忘れてない?」
「何かって、何だよ」
「死にかけたのに?」
「あ……」
ーー天井。
逃げ場のない、かつ狭い玄関の天井に襲われて、俺たちは何故まだ生きながらえているのか。
「そういえば、なんでまだ生きてるんだ?」
まさかここが天国であるということもあるまい。
「あれはただの脅しよ」
「え、脅し?」
考えもしなかった答えに、思わず声が裏返る。
「あなたが気絶した後、天井の落下は止まった。あんなトラップはまだまだ序の口ってことよ。私の予想だけどね」
「……」
「そう簡単には殺さない、ってことかも。相当嫌われてるわね」
「それはもういいんだよ!」
『そうね』
とことん傷口を抉っーーいや待て。
「アスカ。聞こえたか?」
「えぇ、聞こえたわ」
突如として屋敷の中に響いた、少女の声。
「あなた、ヒナタさんなの?」
アスカがそう問いかけるが、返答はない。
代わりのつもりなのか、俺たちの正面に位置する壁に真っ直ぐな線が走り、綺麗に切り取られた。
その先には、部屋と同じ色に染まった長い廊下が見える。
「とりあえず、行くか」
「ずっとここにいてもアレだしね」
俺たちは立ち上がり、ひたすらに伸びる廊下へと向かって歩いていった。




