Act63-死の宣告
「うわ、真っ暗」
「なんだか目が悪くなりそうだね」
チカチカと明滅する電子機器類から目を逸らしながら、私と誠也はホールを進んでいく。
私たち二人が最後だったのか、後ろの扉は白衣を着たスタッフによって施錠される。もう後戻りはできない。
『これより、チュートリアルを始めさせていただきます』
映画に出てきそうな黒装束がホール中央部の壇上に立ち、演説の開始を告げる。
「(なんかハリー・ポッターに出てきそうだな)」
「(しっ、聞こえるよ)」
私たちの失言を知ってか知らずか、黒装束は演説を始めた。
『貴方達には、これから異世界で“ゲーム”という名の生活をしていただきます』
「うわぁ……まじか……」
いきなり誠也が辛そうに嘆く。
それもそのはず、私と誠也はあまりゲームが得意ではない。いや、正確には、”得意なジャンルが少なすぎる”の方が正しいだろうか。
多岐に渡ってそつなくこなしていた兄とは違い、私はパズルゲーム、誠也は格闘ゲームという、非常に偏ったジャンルのみを得意としていて、他はてんでダメだ。
早くも訪れた苦手要素に頭を悩ませている間にも、間延びした声の演説は続く。
『まず、このプロジェクトは、人間関係を構築する上でとりわけ大切な“コミュニケーション能力”と“協調的行動力”を向上させるための――いえ、これ以降はお手元の封筒に書いてある通りですので、省略させていただきます』
「「あ……」」
その”お手元の封筒”をほとんど読んでいない、私と誠也の声が重なる。
「(香澄、どうすんだよ)」
「(私もわかんないよ)」
おそらくそんな感じのアイコンタクトを交わす。
『ここからは、あなた方のみにお話しする”補填被験者”についてです。まずご存知の通り、あなた方に近しい人物は、既に向こうの世界で約四ヶ月もの時間を過ごしています』
「四ヶ月!? あいつはさっき出て行ったばかりだぜ?」
頭がツンツンした、ちょっと怖い雰囲気の人が突然問いを投げる。
”あいつ”が誰かは知らないが、きっと兄も同じ状況にあることは間違いない。
『あぁ、まだお話ししてませんでしたね。「パラレルコネクト・オンライン」と現実では時間の流れが異なっていて、こちらの一分はあちらの一日として換算されます。そのことを忘れないで下さい』
「お、おう。わかった」
まだ反論の余地はあったはずだが、彼は萎縮して引き下がってしまった。
時間の流れが違う。それが何を意味するかはわからないが、身体に悪影響が出る可能性は十二分にある。
そんな私たちの不安をよそに、黒装束は続ける。
『しかし、補填被験者であるあなた方の出番が来たということは、相応の人数が向こうで命を落としていることになります。この場にいるのは五〇〇人。現時点でのあちらの死者は一〇八人。そこで、これから皆さんに番号のついたタグをお配りします』
白衣のスタッフがこちらに来て、戸惑いを隠せないこの場の全員にタグを配っていく。
『先ほど、ランダムで試験的に一〇人ほどの補填被験者を送り込んだところ、大変良好な結果を生み出してくれました。もっともーー』
僅かに間を空けて、この場の全員が聞きたくなかった事実を口にする。
『ーー全員、死んでしまいましたけどねぇ』
その場に固まる者、施錠された扉をこじ開けようとする者、泣き崩れる者。黒装束が言い放った一言は、この場の全員の心境を揺り動かすには十分すぎるものだった。
当の黒装束本人は、そんな喧騒をものともせずに続ける。
『現時点での死者一〇八人の補填のため、一番から一〇八番のタグを受け取った方を順にお連れします。どうぞこちらへ』
「放してっ!」
「やめろ! 帰してくれ!」
抵抗虚しく、スタッフの先導でこの場の二割ほどの被験者が別室へと連れていかれた。
私と誠也は、それぞれ二三五番と二三六番。近くにいたからとはいえ、続き番号をもらえたことは幸いだった。
「俺たちはまだなのかな」
「まぁ……、回ってこない方がいいのかもしれないけどね」
もはや恐怖を通り越し、冗談半分の言葉を交わす。
つまり、私たちが呼ばれる頃、向こうでは二三六人もの死者が出るということだろう。
もしその中に兄が入ったらと思うと……、と考えずにはいられない。
『残りの方は、呼ばれるまでエントランスでお待ちください。以上でチュートリアルを終了いたします』




