Act62-変わる屋敷
ーーヒナタ……。
ショウヤとの会話の中で出てきた言葉。
私はたまたま通りかかったホテルの一室を借り、もう何ヶ月も味わっていなかったベッドの心地よさに身を預けながら、自らの記憶を辿っていた。
「思い……出さなきゃ」
私と関わりのあった人物であることは間違いない。それも、かなり深く。
きっと、忘れてはいけないはずの名前。
今まで共に過ごし戦ってきた、大切な友達。
「まだ、時間がかかるかも……」
◇◆◇◆◇◆
「さぁ入って」
「あぁ……。それにしてもデカイな」
遠くから見ても十分な大きさだった屋敷は、目の前にするとさらに圧倒されるものだった。
近づいただけでギィ……という重苦しい音とともに扉が開き、まるで俺たちを歓迎しているかのようだ。
しかし、何か違和感がある。
その原因は、ここから入り口を隔てて見える屋敷の内部にあった。
煌びやかな装飾が天井に散りばめられていて、とても作り込まれている内装かと思いきや、入り口からどこの部屋にも通じておらず、例えるなら、”玄関しか存在しない家”とでも言うべきだろうか。
だとすると、この巨大な外装になんの意味があるのだろうか。
疑問ばかりが生まれる俺の思考を読み取ったのか、アスカが補足のように説明を入れる。
「さっきも言った通り、ここはもうヒナタさんのものだから、この屋敷は彼女の意思で動くのよ」
「ヒナタの……意思?」
「そう。この屋敷自体をイメージしたのは私だけど、もう構造を操作する権限は彼女にあるってこと」
「ヒナタ次第で屋敷の構造が変わるってことか?」
「そういうこと」
ーーすげぇファンタジー……。
昔何かの本で読んだことがあるような内容だが、それが実際に起こっていると考えると、何とも言えない不安感に襲われる。
しかも、俺と高月さんはそこまで面識があるわけでもなく、どっちかというとショウヤのライバル=敵と認識している節があるため、俺を快く屋敷に受け入れてくれるだろうかすら定かではない。
「入らないの?」
「いや、ちょっとな……」
さすがに、「俺ヒナタとそんなに面識ないからお断りされるかも」なんて恥ずかしくて言えたもんじゃない。
ーー仕方ない。行くか。
頼むから応接室くらいまでは通してくれ、と心の中で念じながら、俺は屋敷の中へと入っていった。




