Act61-もう一つの世界
この世界にログインした時に似た浮遊感の後、俺はワープゲートの終着点にたどり着いた。
「なんだ……ここは……」
天高く伸びる木々に囲まれた、どこまでも続くジャングルのような景色。多くの草木が我先にと伸びているせいか、まるで子どもが描いた落書きのような色合いを醸し出している。
現実世界でこういった景色を見たことはないが、きっと似たようなものなんだろう。
しかし生き物の気配が全くないことから、ここが普通でないことはすぐに察することができた。
そんなジャングルのわずかに開けた空間に、ワープゲートは俺と黒い影を導いた。
『どう? 素敵な場所でしょ』
「随分と悪趣味だな」
こんな薄暗いところにずっと居続ければ、精神がおかしくなりそうな自信がある。
『……つまらない人ね。あ、そうだわ』
「おい、何を……」
何かを思いついたかのように、持っていた杖の先を自分に向ける。
『じゃあ、こういうのはどう?』
そのまま胸のあたりをトン、と叩くと、そこを基点に身体全体に拡散するように眩い光が走る。
そして今まで輪郭を覆っていた黒い影が晴れ、中から黒髪の長身の女性が現れた。
唖然とする俺をよそに、んー、と背伸びし、一言。
「あー、久しぶりに戻ったー」
ごく自然な一連の行動は、先ほどまでミユやホノカを誘拐したり、ワープゲートを出現させていた黒い影と同じ人物のものとは思えなかった。
故に、俺の口からはこんな言葉が漏れ出ていた。
「あんた、プレイヤーなのか?」
「失礼ね。もし私がプレイヤーじゃなかったら、ただのチーターか運営の回し者じゃない」
「それもそうか。なんかすまん」
腰まで伸びる長髪と、ほぼ同じ長さまであるマントのせいで、彼女の後ろ姿はきっと真っ黒だろう。
そんなことを考えていた俺の脳にふと、一つの疑問が生まれた。
「けどさ、ええと……」
「アスカよ」
「アスカさん。こんな別世界に行けたり、路地を人工的に作れてる時点で結構チートっぽくないか?」
ミユが言っていた”幻術”の規格外職業にしては、なんだか規模が大きい気もする。
この世界を作った運営がどこから監視しているのかはわからないが、世界の構造に直接干渉することができる職業の存在を、普通、放っておくはずがない。
「まぁ、あなたの言いたいこともわかるわ。けど、あなたたちは何かを勘違いしている」
「勘違い?」
「えぇ。あなたーーいや、これはミユさんの予想かしらね。私は確かに”幻術”を扱うことができる職業ではあるけど、それだけじゃない」
ーーそれだけじゃない。
この単語の意味を、俺はすぐに理解した。
そしてその理解に差異が無かったことは、次の彼女の言葉によって証明された。
「私の職業はねーー、”幻術想像師”っていうの」
「イマジン……イリュージョニスト?」
それが規格外職業であることは間違いない。けどーー。
幻術だけならまだしも、一体どこから想像の要素が出てきたのか。
「アスカさんの職業は、他人に幻術を見せるだけじゃないのか?」
「そこが勘違いなのよ。”幻術”だけでこんな世界が見せられると思う?」
「思っ……てたけど、違うみたいだな」
アスカは杖を懐に戻しながら、順番に説明を始めた。
「まず、今まであなたたちに見せていたのは、私の想像した世界。まぁ、夢の中みたいなものね」
ーー俺たちは、夢を見せられていた……ということか?
いきなり始まった理解しがたい説明に困惑する。
「じゃあ、あの路地とかワープゲートは……」
「私が思い描いた幻想の景色よ」
「……うん、大体わかった」
これがゲーム世界じゃなかったら結構ヤバイ人だなぁ、なんて思いながらも、新たに生まれた疑問を口にする。
「なら、メイやヒナタはどうなったんだ? 自分の幻想世界なら、把握はしているんだろ?」
「えぇ、メイさんは私の世界から去ったわ。ただヒナタさんは……」
そういえば、さっきも「あの子はもうダメ」みたいなことを言っていた気がする。
「何があったんだ?」
「会わせてあげるわ。すぐそこだから」
アスカの指さす先。立ち並ぶ木々の間に、わずかながら屋敷のような建物の屋根が見える。
先の説明から察するに、あれもアスカが見せる幻想、ということになるわけだが。
「あそこにいるのか?」
「そうよ。もっと言うと、あの屋敷は彼女のものだから」
聞けば聞くほど混乱してくる。
けど、あの屋敷で何かが起こった。
ーー俺はショウヤの代わりに、それが何なのかを確かめなければならない。




