Act60-対峙
ーー間に合って良かった。
『あら、どちら様?』
黒い影は一度ふふっ、と笑ってから言った。
「さっき目が合っただろ? 気づかなかった、とは言わせないぞ」
『そちらこそ気づいてたのね』
その言葉を聞き届けてから、迷わず俺は端末を操作し、右手に銃剣を握らせる。
「メイたちだけでなく、ミユとホノカにまで手を出したお前を、俺は許さない」
『どうするのかしら?』
ダンジョンが存在する地下や、戦闘するための闘技場以外において、攻撃によるダメージは発生しない。
しかし痛みは伴うため、”痛みで相手を気絶させる”ことは可能だ。
本当は殺してやりたいところだが、一プレイヤーである俺にはシステムの壁を超えられないため、今は諦めるしかない。
すぅ……と息を吸い、銃剣にアーツを通す。
「今の俺にお前は殺せない。だから痛みで気絶する前に、ヒナタの居場所を教えろ」
メイは何があったのかわからないが、とりあえず俺たちのもとに戻ってきている。ミユとホノカは、今ここで取り戻す。
だが高月さんだけは、全く居場所がわからない。
黒い影はため息をついた後、俺たちにも聞こえる程度の小声で呟いた。
『……あの子はもうダメよ』
「どういうことだ」
『私に勝てたら教えてあげる』
それで会話は終わりとばかりに、杖の先をこちらに向けてくる。ミユが言っていたとおり、何か特徴があるわけではない、オーソドックスな杖だ。
『ふふ、まずはこの子たちと遊んで頂戴』
杖の先が光ったかと思うと、次の瞬間には、俺は五体の異形の怪物に囲まれていた。
よくRPGに出てくる”ゾンビ”のような見た目をしており、それぞれ剣やら斧やらを片手に俺を凝視している。
「おいおい……まさかこいつらに任せて、お前は逃げるわけじゃないだろうな?」
『さぁ、どうかしらね。ーーAttack!』
慌てて左手にも銃剣を装備し、多方からの攻撃に備える。
ーー右から剣、左から槍。そして後ろから斧。
まずは三体の同時攻撃。
残りの二体の動きも気になるところだが、今は驚異から外す。
「ハァッ……!」
直線的な左右からの攻撃を両手の銃剣で弾き、その勢いで銃形態に変形させ、後ろに向かって発砲。
得物を弾かれただけの二体は健在だが、胴を撃ち抜かれた斧持ちのゾンビは、その身をポリゴンへと変えて四散していった。
「次ッ!」
黒い影が残る四体に再び指示を与える前に、自ら敵陣に斬り込む。
ーーしかし。
『くっ……戻れ!』
悔しげなその叫びとともに、残りのゾンビが音もなく消えてしまった。
行き場のなくなった四つの武器がその場に落ち、路地に静寂が戻る。
「なんだ、もう終わりか?」
『こちらにもMPというものがありますから。どうやらあなたを下に見すぎていたようです』
ーー違う。
こいつのレベルはわからないが、少なくともあの程度のモンスターを召喚するだけで消え去るMP量じゃないはずだ。
まだ何か裏がある。少しでも情報が欲しい。
「そういや、路地とはいえこんなにドンパチやって、誰一人駆けつけないんだな」
『周りからは、この路地すら見えていませんからね』
「え?」
戦闘中だということを忘れ、思わずキョトンとする。
『この路地は私が屋敷と街を行き来するために作った、人工物よ。何故あなたがここを見破れたのかはわからないけど』
「俺はただ、地図を頼りに来ただけだ」
『まだまだ改良が必要ね。まぁいいわ、あなたにはもっと強力な魔法を見せてあげる』
ーー強力な魔法。
『場所を変えましょう、ついて来なさい』
「……わかった。だがミユとホノカは巻き込むな」
『もちろんよ』
俺は不安げな眼差しの二人の方を向き「待っていてくれよな」とだけ告げ、黒い影とともに青いワープゲートを通っていった。




