Act59-問答
『さて、着いたわよ』
黒い影がそう言って歩みを止めたのは、多くの建物が立ち並ぶ大通りの隙間の路地だった。
特に薄暗いわけでもないのに、誰もこちらを見ている様子はない。本当に、周りからはどう見えているのだろうか。
「着いた……って、何もないよ、ここ」
『今にわかるわ』
言いながら、懐から杖を取り出す。
その色、形、長さを見て確信する。
ーー間違いない。私が作った杖だ。
だが妙だ。一度もメンテナンスをしていないはずなのに、杖の輝きは全く衰えていない。一体どんな使い方をすればこんなに長持ちするんだろうか。
そもそも、この黒い影は私が杖の製作者だということを覚えているのか。
二つの疑問が渦巻く中、ひとまず片方だけは解決しておきたいと思った私は、とあるアプローチをかけてみることにした。
「……その杖、素敵ね」
表情を悟られないように、俯きながら呟く。
我ながら下手だとは思う。いきなりただの杖を褒めるなんて、あまりにも不自然すぎるからだ。
黒い影は数秒考えてからーー杖を改めて見ているのか、あるいは私の真意をはかろうとしているのかもしれないがーー、一言。
『もしかして、自画自賛?』
「コホン……何でもないです」
ーーやばい、恥ずかしい。
「じがじさんってなにー?」
「わーわーわー! 何でもないよ!」
ホノカちゃん、やめて。
私の恥ずかしさと引き換えに、相手が私の素性を知っていることは確認できた。
次は杖の使い方だ。
少し言葉を探してから、簡潔な一言にまとめる。
「あなた、なかなかメンテナンスに来なかったね」
『メンテナンス? あぁ、そういえばそうだったわね』
杖を軽く振りながら、とぼけるような素振りを見せる。
「うちの店は武器のことを第一に考えてるからね。理由なくメンテに来ない人は許さないよ」
『……』
わずかな沈黙。
突然の険悪なムードに、ホノカがぷるぷると震える。
『ほら、この子も怖がってるじゃない。早く楽しいところに行きましょう』
「いこいこー!」
「はぁ……」
完全に相手のペースに変わってしまった。再び問いただす隙もなさそうだ。
『じゃ、行くわよ』
空中で杖を振ると、まるで今までそこにあったかのような、縦長い青色の扉が出現する。
「うわぁ……!」
「なんかヤバそうなんだけど」
ホノカにはメルヘンな夢の扉に見えているのかもしれないが、私には不吉な闇の世界に通じる扉にしか見えない。
『入っていいわよ』
「……私はお断りします」
『まぁ連れていくけど』
まだ両手の枷は外されていない。抵抗できても数秒だろう。
諦めて、黒い影に体重を委ねた時だった。
「……そこまでだ」
ーーやっぱり、来てくれた。




