Act56-幻術?
「ソウタ、これいつまでやるんだ?」
「……ミユに聞いてくれ」
通りを見渡せる建物の影に隠れながら、ショウヤと呆れ半分で言葉を交わす。
射的や金魚すくいなど、まるでお祭りのような屋台ばかりが並ぶ大通りのど真ん中で、ホノカは相変わらず”迷子になった女の子”を演じている。
ーー近くに怪しいやつがウロウロしてるけどな。
心中で呟きながら、ホノカの近くでわざとらしく口笛を吹いたり、時々アドバイスを与えたりしているミユに目を向ける。
「あれじゃ保護者どころか姉妹だよ……」
いや。不審者か、と付け加えながらも、彼女に言われたとおり監視を続ける。
「なぁ、ソウタ。あれ……」
ふいに、ショウヤが何か含みを持った呟きを口にする。
「ん?」
ショウヤが指さす先、こことはちょうど反対側の路地から、ミユとホノカのいるあたりを凝視しているプレイヤーがいる。ーーいや、あれをプレイヤーとして認識していいのだろうか?
わざわざ自問自答した理由は、他ならぬその姿にあった。
身体の輪郭がふわふわとしていて、正確な体型がわからない。特に足元はほとんど影になっていて、本当にその場に立っているかすら定かではない。
「ソウタ!」
「ちょっと待て、まだあいつの様子を……」
「ミユさんが!」
「え?」
慌てて、さっきまでミユたちがいた方を向くが、そこには既に誰もいなかった。
そこでふと、ミユが言っていた犯人の情報を思い出す。
ーー”幻術”。
「くそっ、やられた!」
俺が今ずっと見ていた影は、ーーミユの予想が正しければーー職業によって作り出された幻術。
「どうすんだよ、ソウタ!」
正直、こうなってしまっては手も足も出ない。
犯人がホノカを連れ去る瞬間に、無理やり戦闘に持ち込めば可能性はあった。だが、所在も実態もわからない相手にできることなんて……。
そう諦めかけた時、俺のポケットで端末が駆動した。
◇◆◇◆◇◆
ーーお願い、気づいて!
両手を拘束され、黒い影のようなプレイヤーに連れ去られながらも、私はポケットの中の端末でソウタへと電話をかけた。
せめてメッセージでも飛ばせれば状況は好転したかもしれないが、縛られた両手で出来ることは限られている。
ぐいぐいと手を引かれながら無理やり歩かされている中、私は何か逃げられる手段はないものかと周囲を確認した。
そこで、あることに気づく。
黒い影が二人の女の子を鎖で繋いで連れていく様を、何かの娯楽イベントと捉える人は少ない。きっと普通は誘拐か何かだと思うだろう。
なのに、誰一人こちらを見向きもしない。
ーーこれも幻術なの……?
もしかしたら、周りのプレイヤーには、この光景が何か別のものにすり替えられているのではないだろうか。
そんな不安に駆られるが、隣で必死に歩き続けるホノカの姿を見ると、自分がしっかりしなければ、と考えざるを得ない。
「(ホノカちゃん、あと少し頑張ってね)」
「(……うん)」
今にも泣き出してしまいそうなホノカを小声で励ます。
それが聞こえてしまったのか、私たちを連れ去る手が鎖を通してピクリと反応する。
『あら、別に私はあなたたちに危害を与えるつもりはないわよ』
どこから発せられたか一瞬わからなかったが、おそらくこの黒い影からの声だろう。
「私たちをどこへ連れていくつもり?」
『そうね……楽しい場所よ』
「そこにメイさんやヒナタさんもいるのね?」
『お知り合いだったの。なら話は早いわね』
そこで会話は途切れる。この場での”話が早い”の意味が気になったが、ホノカがいる手前、あまり彼女を怖がらせたくなかったため、聞き返すのを躊躇ってしまった。
代わりに、相手にとっては意味なく聞こえる単語を口にする。
「発信機……だよ」
『何か言った?』
”発信機”は一度で理解できない単語ではない。だが、私の発言の意図を図りかねたが故に聞き返してくることは予想できた。
「何でもない。早く連れていくなら連れてって」
『可愛くない子ね』
ーーこれで誤魔化せていればいいんだけど。
でもソウちゃんなら、私の言葉にきっと気づくはず……!




