Act55-相対的感情
「メイ、何かあった?」
「こっちには何もーーうわぁ!?」
メイの方を見ると、彼女が開けた扉から何やら奇妙な人形が飛び出していた。”ビックリ箱”ならぬ”ビックリ部屋”とでも言うべきだろうか。
「もぉやだぁー!」
腰を抜かした体勢のまま、駄々をこねる子どものように叫ぶ。普段は何でも笑い飛ばして解決してしまうような彼女だが、驚かされることに関しては全くと言っていいほど耐性が無い。
「ヒナタちゃん開けて!」
「わかったわかった」
自分で言うのも何だが、私は感情の起伏があまりないため、こういったビックリイベントで心が揺らぐことはない。
昔、ショウヤに「ドッキリ誕生日パーティー」を開いてもらった時も、無反応過ぎて怒られたのは鮮明に覚えている。
もちろん、あの時は嬉しかった。
ただ、自分の気持ちをどう表現すればよいのかがわからなかっただけだ。
それだけに、常に感情を表に出せるメイの存在というのは、憧れでもあり、また嫉妬の対象にもなっていた。
「……ヒナタちゃん?」
「ごめん。考え事してた」
「もぉー、頼むよ!」
「うん」
考えていたことを中断し、まだ開けていない扉の中から無作為に選んで開いていく。
途中、部屋の中が全て空洞になっていたり、床がバルーンで敷き詰められていたり、メイの時のようによくわからない異形の怪物(の人形)が飛んできたりもした。
その全てに「うわぁ!」というワンパターンの驚き方を見せるメイに、簡潔な問いを投げかける。
「ねぇ。メイはさ、どうしてそんなに感情を出せるの?」
「え……どういうこと?」
こんな時に何を訳のわからないことを、とでも言いたげな声色で返答してくる。
私としても、特に意味があって聞いたわけではない。どうせ感情の出し方を知ったところで、私がそれを実践できるとも思えないからだ。
だが、興味はあった。
俯くような私を覗き込むようにして、彼女なりの答えを口にする。
「んー。よくわからないけど、私は思ったことをすぐ表に出しちゃうだけだよ。だから、私はヒナタちゃんが羨ましいな」
「私が?」
ーー羨ましい?
「うん。なんか大人っぽいっていうか……、こういう状況でも落ち着いてるのがすごいなぁって」
確かに、”落ち着いている”とはよく言われる。が、それはあくまで落ち着いているように見えるだけで、私だってこの状況は怖い。
その心境を見透かすかのように、メイは続ける。
「ほんとはヒナタちゃんだって怖いんだよね。わかってる。でも、『ヒナタちゃんは落ち着いてる、だから私も大丈夫』って自分に言い聞かせられなかったら、きっと私は何も出来なかった。ずっとあの牢獄にいたと思う」
「メイ……」
「もっと自信を持っていいんだよ。ヒナタちゃんは感情を表に出せなくても、ちゃんと周りの人の支えになってる。怖さを表に出してばっかりの私より、ずっといいよ」
ーーそういう考え方もあるのか……。
今まで私は、感情を出せない=悪い事という考えだった。けど、周りの人からしてみれば意外とそうでないのかもしれない。
「……ありがとう」
「いえいえ」
その簡単なやり取りで、会話の終了を確認する。
私たち二人は気を取り直し、端末の捜索を再開した。




