Act52-脱出
すごく棒読みではあったけれど、確かに彼はそう言った。
「あの、何か勘違いしてない?」
私は思わず聞き返していた。
私とメイはただの女子高生であり、こっちの世界では弓兵と高位治癒師と呼ばれることはあっても、決してお嬢様なんて呼び方をされたことはない。
『何をおっしゃっているんですか。あなた方お二人は、アスカ様に直接ご指名されたお嬢様じゃありませんか』
「は、はぁ……」
もう何を言っても通じなさそうな看守ーーお嬢様を守っているという意味なら、”騎士”とかの方が合ってるかもしれないけどーーの話を流し気味に聞きながら、私は今の会話の中で明かされた自分の状況を整理した。
ーーアスカ様? とかいう人に指名されて、私たちはお嬢様になった。理由はわからない。以上。
とにかく、もっと情報を引き出さないと。そのアスカ様とやらが敵かどうかはともかく、こんなところに監禁している時点で常人とは思えない。
「ここは、どこ?」
『……』
いくら待っても答えは返ってこない。
ーーあれ……じゃあ別の質問で。
「そのアスカ様、っていうのはどんな人?」
『……』
さっきまでの饒舌が嘘のようにだんまりだ。
ーーまさか。
ふと一つの可能性に思い当たった私は、ついさっきと全く同じことを問いかける。
「ねぇ、ここから出して」
『いけません、お嬢様』
やっぱりそうだ。
今までの疑いが確信に変わる。彼はメイの言う通りNPCで、おそらく決められた受け答えしかできないのだろう。
とりあえず状況をメイに報告しようと思い、鉄格子を離れて部屋の奥へと戻る。
「ヒナタちゃん、どうだった?」
その問いかけには、わずかだが期待が込められていた。
この牢獄に入れられてからというもの、看守に話しかけるなんて無謀なことを一度もしなかったため、私の唐突な行動がメイに希望を与えたのかもしれない。
もしかしたら、この現状が変わるかもしれないーーと。
そこまで理解してしまった私は、”お嬢様”などというよくわからない説明をして、彼女を混乱させてしまうのが心苦しかった。
「えっと……あの……うん」
言葉が出てこない。
だが次の瞬間には、私の口は勝手に動いていた。
「あの看守をどうにかできるかもしれない」
「ほんとに!?」
言ってから、しまったと思う。いくらメイを安心させるためとはいえ、あんな得体の知れないNPCを会話だけでどうにかするなんて不可能に近い。
それでも、一度動いてしまった口を止めることはできなかった。
「うん、だから一緒に来て手伝って欲しい」
もしかしたら、メイならNPCを対処できるかもしれない。そんな淡い期待を込めて、無理やり言葉の辻褄を合わせる。
「わかった、私がんばるよ!」
「じゃあ行こう」
◇◆◇◆◇◆
再び鉄格子の前まで訪れた私たちを、さっきと同じように看守の鋭い眼光が射る。
「ねぇ、めっちゃこっち見てるけど大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。何か話しかけてみて」
「うーん……」
メイは既に看守をNPCだと思っている。ならば、彼女なりにNPCが答えやすい言葉を選ぶだろう。
「ここはどこですか?」
『……』
「ダメか……」
即座に結果を判断してガックリと肩を落とす。だが、すぐに次の問いを思いついたのか、「じゃあ……」と前置きしてから続けた。
「外に出たいな、なんて……ダメですよね」
それは先ほど私が言った、「ここから出して」と言葉の意味はほぼ同じようなものだった。ーーはずなのだが。
『少々お待ち下さい』
ーーえ。
恭しく頭を下げると、いそいそと懐から牢獄の鍵を取り出し、私たちが今まさに掴んでいる鉄格子を開け放った。
「やったよ、ヒナタちゃん!」
「さ、さすが……」
まさか”ここから出して”と、”外に出たい”でこんなに対応が違うとは思わなかった。メイを連れてきたのは正解だった、ということだろう。
それは自分の嘘を棚に上げた思考だが、結果的にいい方向に転んだため、気にしないことにした。
「早く外に出ようよ!」
「そうだね」
看守に軽く会釈しながら牢獄の外に出ると、左右に長い廊下が続いているのが見えた。
どっちだろう、と頭を抱えるメイを引っ張るようにして、廊下を右に走り出す。
「こっちなの?」
「わからない、けど急ごう」
「わ、わかった……」
気圧されるようにメイが頷く。
後方から『お早めにお戻りくださいね、お嬢様』という声が聞こえたが、おそらくメイには届いていないだろう。




