Act51-牢獄の二人
ーーもう何日経っただろうか。
薄暗い部屋に監禁され続けた私とメイには、もはや時間を数える余力なんて残っていなかった。
与えられるのは、一日三食の簡素なご飯だけ。それも毎日似たようなメニューであり、これではまるで牢獄だ。
「ヒナタちゃん……大丈夫?」
時々、メイはこうして私の安否を確認する。同じ部屋にいるのだからわかるはずだけど、おかげで心細さは感じていない。
「うん、大丈夫」
「そう……」
携帯端末を奪われ、誰かに連絡を取ることすら許されない状況で、私たちはただ互いに存在を確かめ合うことくらいしかできなかった。
うっすらと光が差し込む鉄格子の外には、いつ見ても看守らしき人物がいて、脱出を許してくれそうもない。
ーーあの人、寝てるのかな……。
私の知る限り、あの看守は四六時中同じ場所に立っており、休憩している様子を見たことがない。ゲームの中とはいえ、さすがに寝不足もいいところだ。
「メイ、あの人のことどう思う?」
今しがた思考の中心にいた看守を指さしながら、外に聞こえない小声で問いかける。
すると暗がりの向こうの影が動き、ぼんやりとした声が返ってくる。
「え……あれ人なの……。てっきりNPCかと思ってたんだけど……」
精神的に辛いのか、声を出すことすら億劫になっているようだった。
ーー”NPC”。
よくショウヤとメイの会話の中に出てきた言葉だけど、それが何なのかを私はあまり理解していない。
『見た目は人間。だが、それを動かしているのは外部から加わる何らかの力であり、決してNPCが自分で意思決定し、行動することはない』
前に、一度NPCの何たるかをショウヤに聞いた時に返ってきた言葉を思い出す。
あの時は「それってもう人間と同じじゃないの?」なんて聞き返してショウヤに笑われたが、今ならその言葉の意味がわかる気がする。
もし、外の看守がメイの言う通りNPCなんだとしたら、彼は誰かの指示であそこに立ち続けていることになる。捕らわれているとはいえ、自由に考え、動くことができる私たちの方がまだ恵まれているかもしれない。
「……かわいそう」
それが自分から発せられた言葉だということを理解するのに、数秒を要した。
『なぜ、かわいそうなの?』
ーーそれは……。
『自分の意思が無いから? それとも誰かに操作されているから?』
ーー違う。
『じゃあ、なんで?』
ーーわからない。
ふと沸き上がってきた感情に自問自答する。
「ヒナタちゃん、何か言った……?」
メイは心配しているつもりでそう言ったのだろうが、抑揚があまりないせいで、とても不自然に聞こえる。
いつも楽しそうにしていた現実世界での彼女を思い出すと、どうにも胸が痛くなる。
「メイ、ここから出よう」
「え……?」
これ以上ここに居続ければ、メイの中で何かが壊れてしまう。私はそんなことを思った。
「でも、どうやって?」
「うーん……」
自分たちが今いる場所もわからなければ、戦うための武器もない。あるのは丸腰の身体のみ。
しかし何よりも、まずは外に出ないと状況は変わらない。
「ちょっと試したいことがある」
言いながら立ち上がり、鉄格子に両手をかけながら看守の様子を窺う。
顔が装備でほとんど隠れているため、どんな人かを悟ることはできない。だが、生気の宿っていない漆黒の瞳だけは、静かに一点だけを見つめていた。
私の存在に気づいたのか、両目がぎょろりとこちらを向く。
一瞬たじろぐが、それでも臆することなく正直な願いをぶつける。
「ねぇ、ここから出して」
この時の私は、まさかNPCから答えが返ってくるとは思わなかった。
しかも、それは私の予想を遥かに超えるものだった。
『いけません、お嬢様』
「え……?」
ーーお嬢……様?




