Act50-見えない手がかり
カランカラン。
聞き慣れた鈴の音とともに、奥から店の主と可愛らしい店員が顔を出す。
「いらっしゃいませー! あ、ソウちゃん。……と誰?」
「いらっしゃーい」
俺の横に立つ知らない少年に目線を合わせ、ミユが訝しげに首を傾げる。隣でホノカが真似をするあたり、普段の仲の良さが窺える。
「俺の幼なじみのショウヤだ」
「初めまして、ショウヤです」
隣で深々と頭を下げるショウヤを横目に、本題に入る前の確認を取る。
「ミユ、今ちょっと時間あるか?」
「あるけど……どうしたの? 装備のメンテってわけでもなさそうだけど」
数日前にここでメンテナンスを行った俺はまだしも、ショウヤの腰に吊るされた黒剣の輝きから、咄嗟に「装備のメンテナンス」を否定したミユの洞察力はさすがと言うべきか。
「実は、とあるプレイヤーを探してるんだ」
「人探し?」
「あぁ。情報は少ないけど、知り合いの多いミユならもしかしたら、と思って」
俺たちが住んでいる地域には錬金術師の数が少なく、ミユのように店まで構えるプレイヤーとなると、本当に数えるほどしかいない。
そうなると、店のリピーターは必然的に増えるため、彼女のフレンドリストが俺の数十倍なのは想像に難くない。
「情報屋を仕事にしてる友達はいるけど……ちなみにその少ない情報だけでも教えてもらっていいかな?」
俺は一歩下がり、相対的にショウヤが前に出る。
「えっと、そのプレイヤーの他に、たくさんの取り巻きがいました」
そこで会話が切れ、ミユが急かすように続きを促す。
「……あとは?」
「すみません……これだけです」
予想以上の情報量の少なさにガッカリするかと思いきや、ミユは右手を顎に当てて考えるポーズを取る。
「見た目は、どんな感じだった?」
いつの間にか馴れ馴れしい話し方に変わっていることに気づいたのは、おそらくこの場では俺だけだろう。
「黒っぽい……というのはわかったんですが、あれが鎧なのか、それともローブの類なのか、そこまではわからなかったです」
「あと取り巻きのことだけど、もしかしたら傭兵NPCかもしれないから、そこから当たってみるのもアリだな」
ショウヤの情報に補足するように、俺が口を挟む。
しかし、俺の補足に対するミユの反応は予想外のものだった。
「いや、それは違うよ。ショウヤさんの話だと取り巻きは一人じゃないらしいし、そんなにたくさんの傭兵NPCを雇えるプレイヤーがいるとは思えない」
「そうか? もう遊園地を運営できるレベルの金持ちはいるんだぞ?」
俺は先月の出来事を例に出しながら反論するが、即座に一蹴される。
「あぁ、あれね。帰ってから調べたんだけど、あそこの遊園地は有志でお金を出し合って運営してるらしいよ。だから、誰か一人の超お金持ちがいるわけじゃないみたい」
ミユはそれから数秒の黙考を経て、一つの答えを導き出した。
「今の情報からして、そのプレイヤーはソウちゃんやフィリアと同じ、規格外の可能性がある」
その言葉に、今度はショウヤが首を傾げる番だった。
「エクストラ……って何ですか?」
無理もない。規格外職業という単語は、完全に俺たちの間の造語であるため、外部の人間であるショウヤが知っているはずがない。
「簡単に説明すると、そのプレイヤーのために特別に用意された職業ってところかな」
「ってことはソウタ、さっき闘技場で見た銃剣士っていうのは……」
ミユの説明を聞いたショウヤの目の色が変わり、食いつくように俺に詰め寄ってくる。
「あれも一応、規格外だな」
ショウヤが羨ましそうな視線を向けて来るが、気にせずミユに続きを促す。
「話を戻すけど、そのプレイヤーが本当に規格外職業なら、かなりの強敵だよ」
「どんな能力を使う……とかまではわからないか?」
強敵と戦うには、まずは敵を知ることが大切だ。
俺の質問に答えるミユの口調には、明らかな確信があった。
「一言で表すなら、”幻術”かな。たくさんの取り巻きがいたということと、ショウヤさんが装備を判別出来なかったことの二点。どちらも、これで説明がつく」
仮定とはいえ、あの数少ない情報でここまでの犯人像を引き出すミユに感嘆しつつ、無理だとは思いながらも続けざまに質問をする。
「そんな技を使うプレイヤーに当ては……ないよな」
「ん、あるよ?」
ーーえ、事件解決しちゃいますけど。
唖然とする俺をよそに、ミユは何かを思い出すように話し始めた。
「二月くらいかな。一回だけうちの店に、それっぽいお客さんが来たことはあるよ。オーダーメイドの杖を買っていったから、多分職業は魔術師の系統だと思う」
ここの話だけを聞けば、なんてことの無いただのお客さんだ。だがそれに続く話は、明らかにそのお客さんの異質な怪しさを象徴していた。
「オーダーメイド武器を作る時って、その職業に沿った性能にしたいから、毎回お客さんに聞くんだよね。けど、そのお客さんが今のところ最初で最後かな、職業を公開しなかったのは」
そこまで聞いたところで、ショウヤが質問を挟む。
「じゃあ、そのお客さんにはどんな杖を作ったんですか?」
「なんか『オーダーメイドの杖であれば何でもいい』みたいな振る舞いだったから、平均的な性能の杖を作って売ったよ。それでもNPC製よりは数段強いけどね」
すらすらと話すミユの言葉をしばらく聞いていた俺は、そこにわずかな希望を見出した。
オーダーメイドの武器をメンテナンスできるのは、他でもない製作者だけ。どんなに優れた錬金術師でも、他人の作った武器を調整することはシステム上不可能だ。
ならば、杖が消耗するタイミングで再びこの店に姿を現すこともありえるのではないか。
そんな俺の表情から思考を何となく読み取ったのか、ミユが先に否定をする。
「あぁソウちゃん、メンテの線はもう無理だよ。どのくらい使ってるかにもよるけど、二ヶ月も使い続ければ間違いなく壊れるからね」
ーーこりゃ迷宮入りしそうだな……。
既に飽きてしまったのか、売り物の剣を重たそうに振り回しているホノカを見て、俺はそう思った。




