Act48-密会
俺たちが密会をするために選んだ場所は、闘技場近くのファストフード店。
現実世界ではコンビニエンスストアになっていた物件だが、こちらの世界でこの物件を購入したプレイヤーの趣味で改装したのだろう。
「珍しい人もいるもんだな……」
「何がだ?」
「いや、こういう店って少ないからさ」
昔のように仲良さげに言葉を交わす俺たちだが、どこかで互いを牽制し合っているようにも見えた。
「そうか? 俺はよく見るけどな」
現在の「パラレルコネクト・オンライン」に、ファストフード店は数えるほどしか存在していない。しかもほとんどが密集して建ち並んでいるため、プレイヤーの生活している地域によって、俺たちのように「珍しいな」ともなるし、「よく見るよ」ともなり得る。
もちろん、ファストフード店が少ない理由はある。
情報通のミユから聞いた話だと、ファストフード店で扱うハンバーガーを作るためには、様々な素材、そしてそれを調理できるコックとなるプレイヤーが必要となる。NPCにコックを頼むという選択肢もあるが、それは後の理由からあまり推奨されていない。
素材については、言ってしまえば何でもいいらしい。人間の口に合わないものでなければ、大体は美味しく食べられるのだとか。
問題はコックの方だ。
プレイヤーが担当する場合、ミユのように錬金術師を一次職に選び、転職で調理師という二次職になっている前提が必要だ。そうでないプレイヤーが調理をすると、それはもう目も当てられない料理になるらしい。
そしてNPCがコックを担当する場合。こちらはまず店のオーナーが「パラレルコネクト・オンライン」のアプリケーションから、コックとなるNPCを雇うところからなのだが、また大層な額のソルを要求されるらしい。
ただでさえ「安さ」をウリにしているファストフード店において、人件費の方が高額になってしまうようでは、全くもって商売とは言えない。NPCコックが敬遠されがちなのは、やはりここがネックなのだろう。
立地についても、いわゆる”生産職”に好まれる地域ーー生産系の素材が採りやすいダンジョンが多かったりーーというものがあるため、こういった特殊な店が一部に集中するのも頷ける。
「いらっしゃいませ!!」
ピロンピロン、という入店音とともに、二人の女性が笑顔で挨拶してくる。どちらもプレイヤーだ。
視線をずらして目を凝らすと、奥にもう一人誰かがいるようで、おそらくその人がコックなのだろう。となると、この二人は接客担当といった具合か。
冷静に店内の様子を分析する俺を見て、ショウヤが呆れたように口を開く。
「お前なぁ、物珍しいのはわかるけど、そんなにまじまじと見なくてもいいだろ……」
「だってさ、気になるじゃん。コックがプレイヤーなのかNPCなのかっていうのはさ」
「いやどうでもいいけど。早く座ろうぜ」
目星の席を見つけて、そそくさと座りに行ったショウヤを追いかける前に「アイスコーヒー二つ」とだけ接客担当の女性に注文し、ショウヤの向かい側に腰を下ろす。
「さて、と。まずどこから話したもんかな……」
会話の切り出しに困っているショウヤをフォローするように、俺がずっと気になっていた質問を投げかける。
「とりあえず、メイとヒナタさんは何処にいるんだ?」
”連れ去られた”と言っていたが、一体どこへ。
「それがわかれば俺もとっくに助けに行ってるよ。居場所がわからないんだ」
「じゃあ、何があったんだ?」
少し考えた後、ショウヤは過去を振り返るような口調で話し始めた。
「先月の中旬くらいに、俺たち三人はダンジョンに潜ってたんだ。お前に言われた通り、ちゃんとレベル差も考えて安全なダンジョンを選んだ……はずだったのに」
「まさか……高レベルのモンスターに当たったのか?」
話の流れから予想できた推測を問うが、ショウヤは静かに首を振った。
「違う。そもそも俺たちがあのダンジョンでモンスターに会うことは無かった」
「じゃあ、何でショウヤは今ここにいるんだ?」
どのダンジョンにも、必ずそこを守護するモンスターが配置されている。彼らを討伐しない限り、外に出ることは許されないはずだ。
「もっと早く気づくべきだったんだ。俺たち三人がダンジョンに入った時、何故か出入り口が封鎖されないことに……」
「ってことは、もしかして……?」
俺の脳内に、最悪なシナリオが浮かんだ。
「あのダンジョンには、先客がいたんだ」
ーーやはりそうだ。
この世界の「地下ダンジョン」のシステムを最初に見た時、俺は真っ先にPKに悪用されると思った。
ダンジョンのモンスターを倒した時点で出入り口の壁は開かれ、外に出ることができる。だが選択肢として、そのまま居座ることも可能だ。
ましてや内部で戦闘が行われていれば、入り口に「In battle」という表示が出るのでーー俺は過去にショウヤたちの戦闘に介入したことがあるため、戦闘中でも入ることはできるはずだーー、「あぁプレイヤーがいるんだな」となるが、既に戦闘が終わっているのであればその限りではない。
「じゃあ、そいつらに二人は……」
「そうだ。しかも、相手はたった一人」
悔しそうに嘆くショウヤの言葉の中に、不穏な単語を感じ取った。
「一人……だって?」
「あぁ、プレイヤーは、だがな。どこから湧いて出たのかは知らないが、数人の取り巻きNPCがいた」
ーーこれは厄介だな。
この世界には様々なNPCが存在していて、ソルさえ払えば、いつでもアプリケーションで雇うことができる。
中でも「NPC傭兵」はトップクラスに高い。
「NPCコック」の値段を、現実世界におけるデスクトップパソコンくらいだとすると、「NPC傭兵」は普通車の新車一台分に相当する。
この世界で物件や高額商品を購入すると、最初にチュートリアルを行った噴水広場の石碑に名前が刻まれるため、そのプレイヤーの名前が載っている可能性は高い。
「じゃあ、石碑に載っている名前を片っ端から調べていけば……」
「そんなことはもうやったよ。石碑のプレイヤーには全て声をかけたが、俺がダンジョンで見たプレイヤーはいなかった」
俯きながら、続ける。
「だからさ、俺がわざわざ闘技場で1位なんて取って目立ったのは、ある種の抵抗みたいなもんだったんだよ。変な魅せキャラまで演じてさ」
「確かに、目立てばそいつと遭遇できる確率も上がるかもしれないしな」
「最初はそう思ったさ。闘技場ランキングに名前が載れば、向こうもビビって出てくるんじゃないかって」
口調からして、失敗したんだということは汲み取れた。
「でも、ダメだった。最近はほとんど惰性で闘技場に行ってたんだ。急に姿を消すのも不自然だしさ。そこに、突然お前が現れたってわけだ」
「よし、話は大体わかった」
俺は端末の時計を確認し、続けた。
「今すぐにでも探しに行こう」
「は……?」
素っ頓狂な声を上げるショウヤを引っ張るようにして、俺たちはミユの店に向かった。店員の「お客様、アイスコーヒーは……」という声は、もはや俺の耳には届かなかった。




