Act47-表裏
「おい、ショウヤ! くそッ……どうなってんだよ全く!」
一体何があったんだ。ふっと意識が遠のいたと思ったら目の前にショウヤが倒れてるし、何故か俺の頭上に【Win】の表示があるし、なんか頭がガンガン痛いし、もう訳がわからない。
いや、考えられる原因は一つしかない。
『あ、気づいた?』
図ったようなタイミングで、脳内に直接声が響く。まぁ、俺の思考を読んでいるわけだし、仕方ないこととも言えるが。
「気づいた? じゃねぇよお前。ショウヤと何があった」
『何がって、勝負して勝っただけだよ。闘技場だもん』
その言葉だけを聞くと間違ってはいない。だが、目の前に横たわるショウヤの姿から考えると、どうにもただ戦っただけのようには見えない。
闘技場のルール通り死ぬことはないため生きていることには間違いないが、仰向けに倒れたまま動かない。しかも愛剣はかなり離れたところに転がっている。
『ちょっと懲らしめただけだって』
「それは、今の俺の頭痛と関係しているのか?」
巨大な石を頭上に落とされたような痛みが、さっきから離れない。
脳内に『うーん』という考える声が聞こえた後、裏の人格は一つの可能性ーーいや、ほとんど真実を語った。
『それはわからないけど、僕と君じゃ演算処理能力が違い過ぎるから、僕の戦い方が”ソウタ”という人間の脳に負荷をかけてないとは言い切れないよ』
「演算……処理能力?」
『そう。例えば君は右手で文字を書きながら、左手で絵を描けるかい?』
俺の脳は即座に”不可能”の解答を導き出していた。そもそも、利き手ではない手で文字や絵を表せるわけがない。
「無理だろうな」
『君ならね。けど僕はできる。正確には、僕が君を動かしている時なら可能なんだよ』
例え話のおかげで、演算処理能力については少し理解できたような気がした。要は、一度に複数のことをできるかできないか、といった能力のことなのだろう。
だが、それがこの世界で何に繋がると言うんだ。
その思考を読み取った裏の人格は、まるで待ち構えていたように返答した。
『この世界で一番多く演算処理能力を必要とする場面は、戦闘中にアーツを使う時だ。いいかい、よく思い出してみて。君は一度でも、左右のアーツを同時に発動させたことがあるかい?』
俺の戦闘スタイルは、剣&剣の「二刀流スタイル」、剣&銃の「バランススタイル」、銃&銃の「遠距離スタイル」の三種類。我ながら安直すぎるニックネームだと思う。
考えてみれば、どのスタイルであれ今まで同時にアーツを発動させたことは無い。一番近いのは、バランススタイルにおける、銃で牽制してからアーツをかけた剣で斬りかかる、という戦い方。
もちろん、銃での攻撃もアーツを発動させる必要があるため、銃→剣のようにアーツを連続で使用することはよくある。が、同時にと言われると微妙なところだ。
「無いな。というか出来ないと思う」
『でしょ? さっきの話に戻るけど、ショウヤを懲らしめるために、僕は二刀流のスタイルで戦った。もちろん、どちらの剣にも常にアーツをかけてね』
当たり前のようにさらりと言ってのける裏の人格に、俺は得体の知れない戦慄を感じた。
「だからこんなに頭痛が……。でも、じゃあなんでショウヤは起き上がって来ないんだ?」
『おそらく、最後の攻撃がクリティカルヒットしたからだろうね。死ぬことはないけど、痛みのショックは相当なものだったと思うよ』
くくく、と笑いながら話し続ける。
『しかも、見事に僕の扇動に引っかかってくれたよ。わざと攻撃をワンパターンにしたら、吸い寄せられるように近づいてきてさ。あれは傑作だったね』
「なぁ、お前そんなにショウヤのことが嫌ーー」
『おっと、お目覚めのようだ。あとはよろしく』
俺の言葉を遮るようにして、そそくさと意識から消えていった裏の人格が言い残したように、目の前では先ほどまでピクリともしなかったショウヤが身を起こしていた。
「ショウヤ……」
心配の意を込めて名前を呼ぶ。相対するショウヤは、少しだけ悔しそうな表情をした後、意外な言葉を口にした。
「ソウタ、俺の負けだ。メイとヒナタの話だが、ここじゃ誰かに聞かれるし、他のところで話そう」
「いいのか? 俺の手は借りないんじゃ……」
「ふん、どうせ俺一人でどうにかなる問題でもないからな、ついて来い」
ショウヤにここまで言わせるとは、二人に何があったの
だろうか。
不安な気持ちをどうにか抑え、ショウヤとともに闘技場を後にした。




