Act46-狂気
――連れ去られた、だと?
誘拐の類だろうか。だが、それならばクライムチェッカーが発動する可能性があるはずだ。
「どういうことだ、ショウヤ。ちゃんと説明してくれ」
「……残念だが、お前の手を借りるつもりはない」
それで会話は終わりとばかりに、剣を引いてアーツの発動体勢に入る。うっすらとオーラを纏った黒剣は、真っ直ぐ俺に据えられていた。
「ちょっと待てよ! 話はまだ――」
「はぁぁぁぁッ!!」
目にも止まらぬ速さで距離を詰め、紫電一閃。
――ダメだ、間に合わない!
接近から振り下ろしまでの全動作に対し、イメージによる強化を仕込んだショウヤの攻撃。まだ会話を試みていた俺は、それを咄嗟に躱す術を持っていなかった。
諦め半分で瞳を閉じ、身体を裂かれる痛みとともに頭上に【Lose】の文字が浮かび上がるのを待つ。
俺の脳内に”あの声”が響いたのは、その時だった。
『勝手に諦められちゃ、困るなぁ』
カキィン――!
◇◆◇◆◇◆
闘技場にいた誰もが、ステージ上で起こった出来事を見て驚愕しただろう。
ショウヤの黒剣がソウタの頭上に振り下ろされる直前、彼の銃剣を持つ右手が閃き、目にも止まらぬ速さの黒剣をしっかりと受け止めていたのだから。
「こいつッ……!」
「この程度で驚かれてもなぁ」
ソウタの銃剣を、上から黒剣が押さえつけるような体勢のまま、二人が言葉を交わす。
「話は全部聞かせてもらったよ。メイ達がどうなったかを教えてもらうには、君を倒せばいいんだよね?」
「……できるものならな」
ショウヤが静かに言い放つ。
ソウタはその言葉だけで十分とばかりに、反撃を開始する。
「よし。じゃあ表の僕には悪いけど、出し惜しみ無しで行かせてもらう……よッ!」
唐突にソウタの右足が回り、ショウヤの腹部に不意打ち気味の蹴りが命中する。
「ぐはッ……」
ショウヤがたまらず飛び退くのと、ソウタが二本目の銃剣をストレージから取り出すのはほぼ同時だった。
左手にも剣形態の得物を握ったソウタは、二本の剣を翼状に広げて急速接近する。
「逃がさないよ?」
「くそッ!」
攻防一転。二本の剣で乱舞を繰り出すソウタの攻撃を、辛うじてショウヤが黒剣で受け流す。
「ほらほらァ! 切り刻んじゃうよ!」
右の剣を捌いても、次は左の剣。左の剣を捌いても、今度は右の剣と、絶え間なく続く連続攻撃。
最初こそ受け流す余裕のあったショウヤだが、一撃一撃にアーツを重ねているソウタの攻撃を流し続けるのは、どうにも限界がある。
途中からソウタの剣の軌道に黒剣を合わせて弾き返す戦法に変えるが、このままでは勝機が見えない。
この時、ショウヤの脳内活動の九割は防衛行動に割いていたが、残りの一割がソウタの動きに疑問を呈していた。
「なぜ、あれほどの連続攻撃全てにアーツをかけられるのか」と。
ソウタの攻撃をショウヤが弾く。この動作の流れに要する時間は一秒に満たない。
左右の違いはあれど、同じ行動をもう何十回も繰り返しているが、まるで精密機械のようにズレが見られない。
ソウタの集中力ももちろんだが、何より一秒単位でイメージを切り替えられる技術が飛び抜けている。
ーーこれが、お前の”裏”ってことかよ。
ショウヤは内心で毒づく。
あの日、ソウタを心配して声をかけたショウヤと初めて相対した、彼の”裏”と呼ぶべき人格。
『お前……何者だ?』
『僕? 僕はねーー
会話が、ショウヤの脳内にフラッシュバックする。
あの後、あいつは何て言っていただろうか。
ーー蒼汰だよ』
そうだ。あいつは躊躇うことなく、”蒼汰”を名乗った。俺の知っている”如月蒼汰”では無いことは確かだったけど。
だが、そんなことを今さら思い出したところで意味はない。ショウヤが防戦一方な状況に変わりはないのだから。
もはやギャラリーの歓声なんて聞こえない。
ここは俺たちの戦場だ。集中しろ、ショウヤ。
自分に言い聞かせるようにして、意識の全てを剣先に向ける。
ソウタの剣が通る軌跡に狂いは無い。それは即ち、全く同じところに二本の剣を通しているということ。
ーーよし、ずっと同じところを……いやッ!?
「ふふっ、君もバカだねぇ」
人を食ったような笑みを浮かべたソウタの表情を見た瞬間、ショウヤの右手から黒剣が飛び、意識は薄れ、【Lose】の文字とともにその場に倒れ込んだ。




