Act44-エンターテイナー
――速い……。
それが二人の戦闘を見ていた俺の、第一の感想だった。
ショウヤの速度もそれなりではあるが、正直言って俺と大差がない。問題はハヤトさんの方だ。
戦闘が始まるや否やステージの外周まで飛び退き、一〇〇メートル四方の大きなステージの端っこをグルグル回っている。一周にかかる時間はわずか一〇秒足らずだ。
現実世界では、一〇〇メートルを一〇秒で走ることができればオリンピックにだって出られるレベルなのに、あの人は四〇〇メートルを一〇秒で走り抜けている。ゲームとはいえ化け物だ。
脅威はそれだけじゃない。
装備可能武器が短剣のみという暗殺者の特性を活かし、あらかじめ腰かどこかに大量の短剣を忍ばせているらしく、走りながら要所要所で投擲しているのだ。
剣や斧などのほとんどの武器は、いくらSTRが高かろうが持てる本数は二〜三本に限られる。しかし短剣のみに与えられたシステム上の性質として、「重量が他武器の一〇分の一」というものがある。
つまりSTR補正の無い暗殺者は、仮に片手剣を装備できたところで一本が限界だろうが、短剣なら一〇本まで持っておけるということだ。
「厄介だなこりゃ……」
ここまで短剣六本ほどを消費した暗殺者の攻撃は、おそらくどれも牽制に過ぎない。その場から動かない――”動けない”のかもしれないが――ショウヤの周りにストッ、という奇妙な音とともに突き刺しているだけだ。
盛り上がりのタイミングがわからずに困惑する観客の目の前で、ついに七本目の短剣が投擲された。
今までとは明らかに挙動が違う。
――当てにきた!?
今度は射線上にショウヤを捉えている。
短剣が唸りを上げて心臓に向かって一直線。だが当のショウヤはまだ動じない。いくら短剣とは言えど、心臓と頭はプレイヤーに与えられた唯一の弱点ポイントであり、レベル差を考慮しても致命傷は免れない。
観客が息を呑む音が聞こえてくる中、ショウヤは予想外の行動に出た。
装備のチェーンメイルと同じ黒色の剣。その切っ先を、相手が短剣を投擲したポイントに向ける。
キンッ――。
静寂に包まれた観客席に、針金か何かをコンクリートに落としたような涼しい音が鳴り響く。
「嘘だろおい……」
ショウヤは開始地点から一歩も動いていない。自らの剣先を向けただけだ。
だが一番驚くべきは、ハヤトさんの動きを”見ていない”ことだ。
もしかすると目で追っていたのかもしれないが、顔を動かしていない以上、視覚の範囲には限界がある。
ショウヤは死角から放たれた短剣を、剣先同士をぶつけて落としたということだ。
『やっぱすげぇな、ショウヤは!』
『まさに魅せプレイだな』
周りの観客が口々にショウヤを評価する。しかし、そのどれにも、俺が感じたような”驚き”の色は見られない。
そこまで考えたところで、俺は隣で観戦する見知らぬプレイヤーに質問を投げかけた。
「あの……、ショウヤさんって、いつもあんな感じなんですか?」
「ん? あぁ、毎試合必ず一度は魅せプレイをしてるよ。すげぇよな」
毎試合……?
それで勝ち続けているのであれば、相当な実力だろう。ランキング1位に君臨しているのも頷ける。
しかし、それを”ショウヤがやっている”ことに対して、どうにも納得がいかない。
「……本当に俺の知っているショウヤなのか?」
「ん、どうかしたか?」
心の呟きが漏れていた。
「あ、いや何でもないです。ありがとうございました」
その場から逃げるように立ち去り、もう一度ステージ上に立つ黒色のプレイヤーを見据える。
「待ってろよ……ショウヤ」
この闘技場のステージに行く方法は二つ。
観客席の中央通路から降りるか、闘技場の裏口から入るかのどちらかだ。
前者は主に目立ちたがり屋のプレイヤーが、エンターテインメント目的で利用する通路。客席の中央だけあって、注目を浴びたい人にはもってこいである。
そのため、大半のプレイヤーは裏口を利用してステージという名の戦場に上がることになる。俺が前にフィリアと戦った時は、そもそも裏口の存在を知らなかったので、気づかずエンターテイナーになっていたわけだが。
今回は別に、”ランキング1位に挑む無名プレイヤー”を演じたいわけではないので、一度外に出てから裏の入口に回る。
挑戦者の姿をシステムが認めたのか、ギィ……と重そうな石の扉が開く。入る前に、装備と武器の耐久力を確認。
「よし、準備完了」
静かに呟き、暗闇の中へと進んでいった。




