Act41-通過点
「なっ……!」
俺を拘束していた縄が突然消失したことに気づき、三人組のリーダーが驚きの声を上げる。
「お前、どうやって……」
「簡単なことだ」
この世界のオブジェクトには全て”耐久値”が存在し、それが尽きると、物体は跡形もなく消失する。
もちろん麻縄とて例外ではない。
現実世界において、縛られた麻縄を外そうとした場合、”ほどく”か”切る”の二択に絞られるだろう。この世界では、そこに”破壊する”という選択肢が追加されるだけだ。
だからこそ、今この場で唯一攻撃することができる、フィリアの協力が必要だったのだ。
「フィリア、よくやった。あとは俺に任せろ」
「うん……」
美しい金髪を優しく撫でながら、フィリアの気持ちを落ち着かせる。
そこまで太くない麻縄にピンポイントで攻撃を当てなければならないため、もちろん失敗の可能性もある。加えて、あの三人組に対する恐怖。
フィリアはそんなプレッシャーと戦いながら、自分の目的を遂行したのだ。
「さて、と」
振り返って三人組を見据える。
自由になった両手で端末を操作し、それぞれ銃形態、剣形態の得物を握る。
「覚悟はいいな?」
「くそっ……、やっちまえ!」
リーダーの掛け声とともに、剣士のプレイヤーが向かってくる。後ろの二人も同時にハンドガンと杖による援護を――。
――って同時攻撃!?
一度に多くのライトエフェクトが瞬く光景に驚いたが、改めて見ると、攻撃の軌道がほぼ同じだ。
これでは間違いなく、前衛のプレイヤーに誤射をしてしまうだろう。せめてそれぞれの攻撃にディレイをかけるとか、何かしらの工夫をしないと多人数の方がむしろ不利になる。
そこまで考えたところで、ふと自分たちにも思い当たる節があることに気づく。
――俺たちも似たようなことやってたな。
俺が前衛の時、何故か狙いすましたようにユズハの闇魔法やフィリアのレーザーが突き刺さっていたのは、今と同じように攻撃の軌道が直線上に並んでいたからだろう。
「でも、ならどうすれば……」
振り下ろされた剣を軽くいなしながら、思考を続ける。
――前衛の俺が避けるか。いや、戦闘中に後ろから来る攻撃を見ずに避けるなんて不可能だ。
なら後衛の二人に工夫してもらうか。
フィリアは武器が浮遊している性質上、どの方向からでも撃てるが、問題はユズハだ。
魔法を左右に曲げながら撃ち分けるなんて芸当が、彼女にできるとは思えない。
たった今俺がいなした剣士は、案の定後方から来た攻撃を一身に受け、硬直が発生している。
そんな姿を哀れみの目で見ながらも、あることに気づく。
「いや待てよ……?」
後方の二人が同じ軌道で攻撃をしたことまでは視認できたが、それ以降は――。
前衛として疾走してくる剣士の身体に隠れ、後衛の攻撃はほとんど見えなかった。
――これだッ!
俺は今まで何を考えていたんだ。
後衛の二人を動きやすくするために存在しているのが、俺という前衛じゃないか。
別に俺がメインのダメージ源である必要はない。
二人の攻撃を通しやすくするために立ち回ればいいだけのことだ。
攻撃に集中しないということは、背後にも集中力を割くことができる。ユズハの直線的な闇魔法を避けることも可能なはずだ。
ミユとの連携はまだ試行錯誤が必要だが、作戦としては悪くないと思う。
「まさかこんな戦闘にヒントがあるなんてな……」
「何をゴチャゴチャと……、おいお前たち! もう一回行――」
リーダーの言葉は、意外な状況変化によって遮られた。
三人の武器が、突然無音の攻撃によって赤いポリゴン片へと姿を変えたのだ。
こんなことをできるプレイヤーは、この場に一人しかいない。
「フィ……リア?」
「ソウタ。今、多分私と同じこと考えてた」
「同じこと?」
「うん。ギルドの戦い方のこと。だから、こんな戦闘に時間をかけてはいられない。早く練習しないと」
強い意志を湛えた瞳で話すフィリア。きっと彼女なりに、ギルドの連携を考えてくれていたのだろう。
「……それもそうだな」
俺が今フィリアに抱いた感情は、感謝ももちろんあるが、それ以上に驚きの方が大きかった。
何せ、先ほどまであんなに恐れていた相手に対し、躊躇無く武器破壊を行うことができたのだ。
おそらく、彼女はギルドのことを優先するあまり、知らぬ間に過去のトラウマを乗り越えていたのだろう。
まだ完全に克服したわけではなく、ただの通過点に過ぎない。それでも大きな一歩だ。
俺は武器を失った三人組を殺さずに逃がし、一つの事件は終着を迎えた。




