Act40-呪縛
フィリアは一度、この三人組と出会ったことがある。――いや、”出会してしまった”の方が正しいだろうか。
二ヶ月前、コンビニ帰りのフィリアを襲ってソルを奪おうとし、抵抗しようとした彼女のHPを瀕死寸前まで追い込み、心に深い傷を与えた張本人たち。
正直、フィリアは向こうが自分のことを覚えているとは思わなかった。ソルを要求し、最悪”プレイヤーの命を奪う”ということに手慣れた様子があった彼らは、おそらく何度も犯行を重ねている。
そのため、たった一度ターゲットにされただけのフィリアを覚えているとは思えなかった。
「どう……して……」
あの日の夜の出来事を、これまで必死に忘れようと頑張ってきたのに。
「もしかして、君も俺たちのことを覚えていてくれたのかい? なら話は早い」
わざわざ”ソルをよこせ”とは言わずに、三人がそれぞれ剣、ハンドガン、杖を片手にじり寄って来る。
「嫌だ……来ないで……!」
今度こそ確実に殺される。
耳を塞いでしゃがみこむフィリアに、黒いハンドガンが突きつけられる。
「じゃあ、こいつから始めっか」
「おい、ちょっと待てよ」
◇◆◇◆◇◆
「さっきから話を聞いてれば、好き勝手言いやがって。何があったのか知らないけど、そいつはうちの大切なギルドメンバーだ。手出しするなら容赦はしない」
「ハァ? 両手足縛られてんのに、お前に何ができんだよ?」
着ぐるみを着ていた男の言葉に、三人組がクスクスと笑う。
そうだ。確かに俺はまだ手足を麻縄で縛られている。
だからこそ――彼女の力が必要なんだ。
涙に濡れた瞳でこちらを見つめるフィリアに、俺が苦手なアイコンタクトで合図をする。
「……!?」
彼女の驚いたような表情から察するに、こちらの意図は伝わったようだ。だが、恐怖の中でそれを実行できるかは約束されていない。
――できるな?
無音の問いかけに対し、フィリアがわずかに俯く。
この最悪の状況を打破できるのは、フィリアしかいない。
もし彼女がここで「できない」と言えば、俺たちは四人まとめて全滅だ。
祈るような思いで返答を待つ。
だが次に俺が見たフィリアの表情には、強い意志が固まっていた。
――わかった。やってみる。
そんな風にも言っている気がした。
意思のやり取りを終えた俺は改めて三人組に向き直り、先ほどよりも強い語調で言い放つ。
「フィリアもお前らなんかに負けない、ってさ。残念だったな」
「さっきからゴチャゴチャと……。いいか? まともに動けない三人と、一度狩られた女が俺たちに勝てるわけないだろ」
剣を装備した男が呆れたように言う。
対して、俺はフィリアがやろうとしていることから意識を逸らさせるべく、会話を続ける。
「確かにフィリアは、お前たちに攻撃することはできない。でもその理由は、お前たちを恐れているからじゃない」
「じゃあ何だって言うんだよ?」
「あいつは、ただ”優しい”だけなんだ。この世界で他人を攻撃するってことは、現実なら人を殴ることと同じだろ?」
俺は時間稼ぎということを忘れ、今日まで恐怖に震えていた少女の本心を代弁しているつもりで続けた。
「お前たちにトラウマを植え付けられなくても、多分フィリアはプレイヤーに対する直接攻撃はしなかったと思う。だってこの世界、現時点では闘技場以外でプレイヤー同士が争う理由なんて無いだろ?」
「別にいいじゃねぇか。この世界で今、俺たちは”人間観察”されてんだぜ? 何も起こらない、つまんねぇ結果になるよりはさぁ、こうやってドンパチやって楽しんだもん勝ちってもんだ」
着ぐるみを着ていたリーダーらしき人物の返答を聞く限り、どうやら俺とは根本の考え方が合わないらしい。
あいつの言う事も一理ある。せっかくの異世界生活で、普段できないことに挑戦してみようとする気持ちは、誰だろうと少なからず持っているはずだ。
俺だって、現実で引きこもっていた自分が嫌で、こうして危険とわかっている実験に飛び込んでまで自分を変えようとした。
だが、PKとなると話は別だ。
現実と「パラレルコネクト・オンライン」。どちらの世界でも、”人殺し”は褒められるものではない。
だからこそ――。
「お前の言っていることは間違っちゃいない。けどな、心優しい少女を傷つけてまで人殺しをしようとするお前たちを、俺は絶対に許さない!」
その言葉とともに俺を拘束していた縄が、無数の赤いポリゴン片となって弾け飛んだ。




