Act33-真意
敵対する者がいなくなった地下ダンジョンの中で、俺たちはしばらく、その場から動けずにいた。
正確には「俺たち」ではなく「俺だけ」なのだが。
ダンジョンボスを倒したことによって出入り口の障壁は消えたため、ここから抜け出すことはできる。だが、今さっきまで生死をかけた激闘をしていた俺には、すぐに立ち上がる気力など残っているはずもなかった。
「ソウタ君、落ち着いた?」
硬い床に寝転がる俺を見下ろすように、優しい声が響く。
「あぁ、ありがとなユズハ」
ミユは素材を集めに行き、フィリアも何故かそれについて行ったため、ユズハだけがこの場に残った俺をしばらく見守ってくれていた。
「……にしても、また助けられちゃったな」
「えへへ、すごいでしょ。あの魔法」
何だかんだ言って、俺は彼女の潜在能力に二度も助けられている。
模擬戦でのMP供給。それに今回の魔法の壁。
確かに、魔法のアーツは”イメージ次第で何でもできる”というのが、アプリケーションに記載されている運営の説明なのだが、結局のところそれを”考える”のは術者自身なのだ。
当然、一度も実物を見たことが無いものをイメージするのは難しい。そのため、あの状況で魔法壁を咄嗟にイメージできるユズハとはどんな人間なのだろうか。どうしても頭の中にそれだけが巡る。
ログインした日を含めて一ヶ月余り。俺はまだ彼女の全てを知らない。
最初はほわほわしていた印象だったが、この世界を生きている中で、ユズハは確実に変わっていると思う。
現実世界に近しいのは見た目だけであり、起こる事象は非現実のこの世界。そんな場所でいつも通りの自分を維持しろという方が難しいとは思うが、人間観察を目的にした実験である以上は仕方のないことなのだろう。
――普段と何も変わらない環境に、大勢の人間を放り込んで観察したところで、面白いデータを取れるとも思えないしな……。
「なぁ、ユズハ」
「ん?」
「あんな魔法壁、ぱっとイメージできるもんなのか?」
魔法”壁”とは言っても、それはただの薄い膜に過ぎない。しかし、そんな物を使って人間を受け止めようという発想自体、そうそうできるものではない。
「んー、昔見てたアニメの影響かな」
「……ちなみにどんな?」
半ば予想つくが、一応とばかりに質問する。
「魔法少女アニメだよ」
「だろうな」
思い通りの返答を聞き流しながら、そういえば、と前置きして話を切り替える。
「俺が最後にあの騎士と接触する直前、ユズハは何か気づいたか?」
騎士のダッシュに一瞬のブレーキがかかったこと。そしてアーツが弱まったこと。
「何かあったの?」
やはりそうだ。戦況が逆転したあの瞬間を知ることができたのは、俺とフィリア、そしてあの騎士だけだった。
「フィリアが助けてくれたんだよ。多分だけど、あの騎士はフィリアのレーザー攻撃を見破ってた。だからそれを逆手に取って、最後の一騎打ちの時に牽制弾で集中力を分散させたんだろう」
アーツを使用する際、イメージが強いものであるほどその威力は上昇する。だが途中で攻撃が飛んでくると、どうしても「避けなければ」という意思が術者に生まれる。
結果、”アーツに流すイメージ”と”回避のイメージ”の二つに集中力が分散され、騎士のアーツを弱める要因となったのだろう。
「うぇー……隣にいたのに全然気づかなかった……」
「でも、攻撃する時にフィリアのやつ声出してなかったか? てっきりユズハやミユにはあらかじめ伝えてるもんかと思ってたけど」
彼女はおそらく牽制の効果を強めるために、あえて「当たって!」と声を出していた。そんなことをしなくても騎士は避けただろうが、普段は寡黙なフィリアなりの精一杯の頑張りとして認めてあげたい。
「あーあれね……てっきりソウタ君の応援してるものかと……」
「応援ってお前な……」
何とも緊張感に欠ける解答に脱力しかけるが、また別の問題を思い出してどうにか持ち直す。
「あの騎士、どう見ても俺たちと同じ”プレイヤー”だったよな」
「えっ?」
「見てて気づかなかったか? あいつの動きには、なんていうか……プログラムされた規則性が無かったんだ」
「んー言われてみればそんな気がする……」
「高難易度のダンジョンだから、って言われたらそれまでだけどな。それともう一つ、これはユズハも聞いていたと思うけど――」
「あの人、しゃべってたよね」
途中で察したユズハが言葉を挟む。
「そう。モンスターが言葉を話すことは基本的に無い。そこから考えると、あの人はもしかしたら――」
「おまたせー!」
俺の言葉の末端を遮るように、明るいミユの声が響く。
「いやーいい素材集まったよ。あれ? 二人ともどうかした?」
俺とユズハの顔を交互に見ながら頭上に?マークを浮かべるミユ。
ユズハはこちらを向いたままで、俺の言葉を待っているようだ。
「なんでもないよ。俺はもう大丈夫だから、早く帰ろうぜ」
すっと立ち上がり、自分の無事をアピールする。
「あれソウタ君、何か言いかけてなかった?」
「今日の晩ご飯何にしようか?」
「ごまかすなー!」
背中をポカポカと叩いてくるユズハをいなしながら、四人揃って地下ダンジョンから出ていった。




