Act29-確信
俺は思わずそんな問いを投げていた。
無論、相手は答える義理もなければ必要もない。それでも、俺はこの人間の正体を知りたかった。
「ぐっ、う……あぁ……」
「……!?」
唐突に大広間に響き渡った呻き声が、今目の前にいる人間から発せられたものだと理解するのに数秒を要した。
同時に、わずかながら曲刀にかかる力が弱まっていく。
俺は鍔迫り合いを続けながら、新たな問いを重ねる。
「おい、大丈夫なのかよ?」
絶え間ない呻き声とともに、チェーンメイルが小刻みに震えているのが見て取れる。一体どうなっているんだ。
これではまるで、禁断症状に身体を苛まれているかのようではないか。
しかし、直後に聞こえた呻き声は、明らかに一つの単語――いや、人名を呼んでいた。
「が……ぁ……か……ずや」
”かずや”。
仮面でくぐもってはいるが、俺には確かにそう聞こえた。
「カズヤって人がどうかしたのか? おい!」
だが会話が続いたのは一瞬のことだった。再び曲刀に力が宿り、先ほど以上に俺の銃剣を押し戻してくる。
「くっ……」
負けじと力を加えるが、相手の気迫に押されてしまう。
「ぐぉぁぁぁぁぁぁ……!」
ひときわ大きな叫び声に合わせ、ギューンというSEとともに相手のHPバーが可視化される。
それは即ち、彼がここのダンジョンボスであることを物語っていた。
『Kenta 騎士』ーLv.70
この表示を見た途端、俺の疑念が確信に変わった。
ボスとは言っても、彼はモンスターなんかじゃない。一人の人間だ。付け加えれば、俺たちと同じ”プレイヤー”でもある。
根拠としては、プレイヤー全員が持つ職業が与えられていること。騎士は確か、剣士から派生する二次職の一つだ。
だが同時に、新たな疑念が生まれた。
――何故、彼はダンジョンボスという役回りをやっているのだろうか。
それに、ダンジョン自体の難易度も相まってか、一般プレイヤーの俺たちと比べてレベル差がある。
「もう……どうなってんだよ!」
力を緩めて曲刀をいなし、鍔迫り合いを無理やり終了させ、二度のバックステップで距離を取る。
三人が待つ出入り口付近へと戻り、こっそりフィリアに耳打ちする。
「なぁフィリア、あの曲刀どうにかできないか?」
武器の光沢や重さから、ミユが作成してくれた俺の”シルバリック・ブレイド”と同等かそれ以上の性能だと思われる。
しかし、フィリアの武器破壊の技術と”TLLD”なら、あれを無力化することも不可能ではないかもしれない。
少し考える素振りを見せた後、フィリアは肩をすくめて答える。
「スフィアは初期装備だから約束はできない。けどやってみる」
どのゲームでも、武器破壊の成功判定は双方の武器性能に依存する場合が多い。球体術師の初期装備である”TLLD”が、あの曲刀より優れているとは考えにくい。
とはいえ、この世界に多数存在する剣や斧と違って比較対象が無いため、ある意味未知数の性能とも考えられる。
「よし、頼んだ。ミユとユズハはフィリアのサポートを頼む」
「おっけー」
理解の頷きを見せるミユと、頭にはてなマークを浮かべるユズハ。真逆の反応に一瞬どうしようかと戸惑うが、何とかなるだろうとすぐに払拭する。
全ての思考を銃剣の剣先に集結させ、強力な横薙ぎ攻撃をイメージする。得物に走る赤いラインが次第に輝きを放っていく。
そして、目の前の騎士だけに集中する。
「ハァッ……!」
両足が沈むかと思うほどの力で地を踏み込み、音速の弾丸の如く飛び出す。
――頼むぞ、フィリア。




