Act28-異質
カツ、カツ……。
四人分の足音が、石造りの階段を降りていく。
俺たちがこれから挑むのは、都心から約五キロメートルほど離れた地点の地下ダンジョン。
普段ソロで攻略する時は、都心から一〜二キロメートル、ちょっと背伸びしても三キロメートル地点が関の山だった俺にとっては、まるで未知の世界だ。
おそらくそれは他の三人にとっても同じことだろう。死と隣り合わせの強敵に立ち向かう恐怖や不安からか、ここまで誰一人として言葉を発していない。
久しぶりに聞いた声は、階段の最後の一段を降り終わったミユによるものだった。
「いよいよだね」
「あぁ……軽く作戦でも決めとくか」
ダンジョン攻略参加者の全員が大広間に入った時点で、出入り口は障壁によってロックされる。そのため、俺たちにはまだ落ち着いて会話ができる余裕はある。
作戦とは言っても、今まで通り俺とミユが前衛、ユズハとフィリアが後衛ということくらいしか決め事は無いが、それで事故が起こっている以上、何かを改善しなければならないのは間違いない。
そこで、一つの案が脳内に浮かんだ。
「よし。俺が囮をやるから、みんなでモンスターを取り囲むように攻撃してほしい」
「うぇぇ!? 大丈夫なの?」
模擬戦での俺の捨て身特攻が記憶にあるユズハが、不安の意を込めた問いを投げかける。あの時は彼女を助けるのに必死だったし、何といっても当時より戦闘技術は上がっているはずだ。
そこまで考慮した上で、俺はユズハだけでなく他の二人にも不安を与えないように、確固たる頷きを返す。
「大丈夫だ。それに俺の武器でなら、囮をやりながらでも反撃ができるからな」
「まぁ、それもそうだね」
陽気なミユの肯定によって、俺たちの新たな作戦が決定した。
「じゃあ、改めて説明する。俺が囮でモンスターを引き付けるから、ミユは後ろから攻撃。ユズハとフィリアの攻撃位置はモンスターの大きさとかにもよるけど、最低限ミユと被らないように頼む」
三人の「了解!!」の返答を合図に、俺たちはミユを先頭に大広間へと足を踏み入れていった。
◇◆◇◆◇◆
ヴィン……。
ミユ、俺、ユズハ、フィリアの順で大広間に足を踏み入れた直後、機械的なSEとともに出入り口が障壁によってロックされる。
もう後戻りはできない――。
そう思いながらも、もしかしたら死んだとしても現実世界で普通に目を覚ますだけなのではないだろうか? と、どこかで考えてしまう自分がいる。
事実、この一ヶ月と少しの間に俺の耳に入ったゲームオーバー情報は二件。どちらもソロプレイヤーで、無理に高難度のダンジョンに臨んだことが原因とされている。
彼らは今、どこで何をしているのだろうか?
現実世界で目を覚ましたのか、はたまた両世界から追放されたかのどちらかだが、ゲーム内に囚われている俺たちにそれを知る術はない。
そもそも俺たちは、ただドーム内に立っていただけでこの世界に飛ばされたため、自分たちがどうやってログインしたのかすら定かではないわけで、仮に現実世界で目覚めたとして、またあのドームに戻れるのだろうか?
あまり考えたくはない解答だが、本当はゲーム自体に殺傷能力など無く、ゲームオーバーとなってドームに戻ったところで、そこにいる研究員たちによって存在を抹消される、という可能性もありえる。
そこまで考えたところで背筋に悪寒が走る。我ながらひどい思考を持ったものだ。
――なおさら、死ぬわけには行かない。
”好きなゲームで死ねるなら本望”と言う人が時々いるが、これではただの殺人でしかない。
銃剣を握る両手に、不思議と力がこもる。
「……みんな、俺が守らなきゃ」
近くを歩いているミユやユズハですら聞き取れないほどの小声で決意しながら、前方の暗がりの中に目を凝らす。
ぼんやりとだが、何者かの姿が見える。
一言で表すと、小さい。あくまで、”普通のボスモンスターと比較すると”という前提が入っているが。
俺が今までやってきたオンラインゲームでは、強い=デカいがセオリーだった。そのため、この間戦った『ダンジョン・ルーラー』よりも大きな姿を想像していたのだが……。
俺の視線に気づいたのか、その何者かがフッと姿を消した。
同時に、俺の直感の琴線に何かが触れた。
「――危ないッ!!」
敏捷値を最大限に活かしてミユの前方に躍り出て、ほぼ本能的に銃剣を身体の前に”置いた”。
直後、ガキィン! という耳障りな音に合わせて、俺の身体は大きく後方へと吹き飛ばされる。
障壁に強く打ちつけられ、肺から空気が押し出された。
視界に映るHPバーが、目に見えて大きく三割ほど削り取られる。
「ぐはッ……!!」
「ソウタ君!?」
「ユズハ、気をつけて!」
俺の方を振り返ったユズハに対し、フィリアが危機を警告する。
しかし、当のユズハは――いや、この場の誰もがその姿を察知することなどできず、困惑すること以外の選択肢を許されなかった。
ザッ……!
わずかに地を踏む音が耳に残る。不可視の敵がアクションを起こした。
それを聞いた俺は、身体の痛みとHPの減り具合を忘れて飛び出していた。
「くそ……ったれ!!」
右手の銃剣の赤いラインが、アーツを認識して発光する。俺がイメージしたのは、簡単な単発突き。
それでも、この距離を一番早く詰められる点では最良の択だ。
銃剣と乱入者の得物が再び交錯する直前、イメージを無理やり切り替え、単発突きを中断。そのまま振りかぶり、鍔迫り合いへと持ち込む。
火花がチカチカと散り、暗い大広間を微かに照らす。
その時、俺は自らの目を疑った。
今まで小型のモンスターとばかり思っていた相手が、紛れもなく”人型”だったからだ。
青色のチェーンメイルを身に付け、得物は透き通った同色の曲刀。仮面を付けているため顔までは見えないが、その動きにモンスター特有のAIじみた規則性がない。
そこから導き出される答えは……。
「お前は、誰だ……?」




